据え膳

任務に行った帰り道、運悪く雨に降られることとなった。自分の隊舎までの道のりはまだまだあって、部屋に着く頃にはびしょ濡れになってしまいそうだった。

「もしもし、檜佐木くん?」

帰り道に九番隊の管轄を通ることになったから、下心満載で、檜佐木くんに電話した。まだ残業中かと思いきや、電話には出てくれた。

『どうした?』
「今自室?」
『そうだけど』
「遊びに行くね!」
『は?』

私は用件だけ伝えて、ぶちっと電話を切った。突然ふざけるなと怒られそうではあったけど、それよりも、檜佐木くんの顔を見て癒されたかった。

全身ずぶ濡れの状態で、檜佐木くんの部屋にたどり着いた。きっと驚くだろうなぁなんてわくわくしながら訪ねてみれば、もう部屋着に着替えていた檜佐木くんが出てきてくれた。

「うわっ、なんでそんな濡れてんだ」
「水も滴るいい女って感じじゃない?ふふ」
「馬鹿、笑い事じゃねーって、風邪引くぞ」

檜佐木くんは少しイラついたような様子で私の腕を掴んで部屋に入れてくれた。そして大きなタオルを持ってきてくれて、まず顔面の水滴を大雑把に拭いとられた。それからタオルを頭からかけられ、わしゃわしゃと髪を拭いてくれた。

「寒くないか?」
「うん……寒い」

優しくしてもらえるのが嬉しくて、寒いだなんて嘘をついてみた。檜佐木くんは心配そうな顔をして、私を包み込むように抱き締めた。

「ひ、檜佐木くん?」
「暖かいか?」
「う、うん……」

下心満載で来たのは私だけど、ここまでしてもらえるとは思っていなかったからドキドキする。まさか檜佐木くんに抱き締められるだなんて。

「シャワー浴びてくか?その濡れた服のままお前の部屋まで行ってたら風邪引くだろ」
「……着替え無いよ?」
「…俺の着流し貸してやるよ」

檜佐木くんの服借りるのはいいけど、私それ着て自分の隊舎まで行くの?男物着て外出歩くとかちょっと、恥ずかしいんだけど。

「…とりあえずシャワー浴びたい。借りるね」
「ああ」

檜佐木くんの腕が緩んだから顔を見上げてみれば、申し訳ないくらい優しい顔をしていて、下心を持ってるのは私だけなのかなと不安になるくらいだった。
お言葉に甘えてシャワーを借りたけど、好きな人の部屋でシャワーという状況が、冷静に考えるとどんどん恥ずかしくなってきた。
脱衣所には着流しとタオルが置いてあって、全身が檜佐木くんの香りに包まれることとなった。

「出たよ」
「あ、あぁ」

付き合ってたらこの状況だとえっちとかしちゃうんだろうなぁとか思うけど、あいにく私と檜佐木くんはただの同期で、付き合ってなんかいない。いっそのことこのまま襲って欲しいくらいには、私は檜佐木くんのことが好きでしょうがないけど。

「…その格好で、自室戻るのか?」
「……戻れなくない?私今下着つけてないし」
「そ、そうだよな」

自然に言ってしまったけど、私は今本当に檜佐木くんの服一枚しか身に付けていないのだ。貞操観念おかしいんじゃないか。

「…泊まってくか?」
「いいの?」
「俺は、いいけど」
「…私もいいけど」
「……布団、一式しか無いけど」
「……私はいいけど」
「…俺も」

ということは、私は今夜檜佐木くんの部屋で檜佐木くんの布団で檜佐木くんと一緒に寝るということでよいのだろうか?まさかそんな、夢のような展開になるなんて。

「…隣来いよ」
「ん」

ドキドキしながら檜佐木くんの隣に腰かける。今まで感じたことのない緊張感でいっぱいになる。ちらりと檜佐木くんの顔をうかがってみれば、少し頬を染めて私を見ていた。あぁもう、はしたないとか思われてもいいやと思い、檜佐木くんの手に手を重ね合わせた。ごつごつとした指が男らしくて、胸が余計に高鳴った。

「…檜佐木くん」

こんなときでも好きだという言葉を口にするのは難しくて、緊張で心臓が爆発しそうになる。想いを伝えたいのに言えずにいたら、檜佐木くんの顔がゆっくりと近付いてきた。そっと一瞬だけ唇が触れ、一気に顔が熱くなった。

「横島」

掠れた声で名を呼ばれ、返事をする間もなくまた口を塞がれた。大好きな檜佐木くんに触れられることが嬉しくて、檜佐木くんの手をぎゅっと握って、離れそうになる檜佐木くんの唇に、今度は自分から触れにいった。何度もしていたら触れ合うだけなのがもどかしくなり、どちらからともなく、舌を絡めた。

「ふっ……ぁ、」

息苦しさすらも心地よくて、頭がとろけそうになる。頬や首筋を撫でられてぞくぞくするし、しまいにはその手がするりと襟元から中に入ってきた。

「ひゃ、檜佐木く……」
「…触りたい」

興奮ぎみに素直に言われ、拒否することなんてできないし、するつもりもなかった。
檜佐木くんに触れられるだけで体が熱を帯び、檜佐木くんの体も同じように熱くなっていた。

「頭、変になるっ…」
「たまには、いいんじゃねぇの?」
「やだ…あ、っ」

檜佐木くんの指が心地よくて、快楽に溺れそうになる。私だけ楽しむなんて良くないって思うのに、体はいちいち敏感に反応してしまって、指でいじられるだけで絶頂を迎えてしまった。

「なぁ、明日も仕事?」
「う、んっ、でも、お昼からだから…平気……」
「……なら、良かった」

全然平気ではなかったけど、そう言わないといけない気がした。檜佐木くんは私の言葉に安心してか、やっと自身の着物をはだけさせ、男らしさを主張するそれを取り出した。

「…今、持ち合わせ無くて、ごめん」

生で入れられるなんて思ってなくて、必要以上に緊張した。
このまま死んでもいいかもと思えるくらい幸せで、気持ちよくて、されるがままに鳴かされた。

「横島っ、好きだ…」

行為中に不意に言われた言葉に胸が高鳴り、動揺した。

「私も、好きっ…!」

順番もぐちゃぐちゃで馬鹿みたいだ。でも檜佐木くんの愛を注いでもらえて、好きだとも言われて、最高に幸せだった。

「…好きなら、普通こういうことする前に言わない?」
「いや、だって…とりあえず横島に誘われてる気がしたから、抱かなきゃと思って」
「誘われてる気がしたらとりあえず抱くんだ…?檜佐木くんてそういう人?」
「馬鹿、横島だからに決まってんだろ」

本当かどうか解らないけど、今はただ檜佐木くんの言葉が嬉しくて、笑みがこぼれた。

「これからも、誘いに来るね」
「…嬉しいけど、今日みたいな演出はやめろよ。普通に、心配する」
「ふふ、檜佐木くんやーさしい」