友達ごっこ

「今日会える?」

夏休みに入ってから頻繁に、横島から連絡が来るようになった。水色が美女と遊び回っているせいで俺も暇だったから、誘われるたびにオッケーして家を出た。

「お前さ……俺以外に友達いねーの?」

二日に一回ペースで誘われては、気になって聞いてしまった。

「浅野だって、いないから私と遊んでくれるんでしょ?」
「うっせーな。一護も水色もいねーからやることねーんだよ」
「じゃあいいじゃん」

あぁ別にいいさ。たとえ横島でも、普段制服姿しか見れない女子の貴重な私服姿を頻繁に拝めるのだから。制服のスカートよりも短いスカートやらホットパンツやらの姿が見られて、俺は嬉しい。とても。

「つーか、俺以外にも居んだろ?井上さんとか、本匠とか、有沢とか」
「織姫いないんだよね、なんでか知らないけど。千鶴ちゃんは夏休みに会うのは暑苦しいし、たつきちゃんは体力使う遊びが好きだし……涼しいところでいい感じに暇潰ししてくれるの浅野くらいだもん」
「ふーん。で、今日はどの涼しいところに行きたいんだ?」
「浅野の家」
「そりゃ涼しいな……って、え?」
「ゲームも持ってきたよ」

鞄からソフトをちら見せしながら笑顔で言ってきた。いやゲームはいいんだけどさ、家には姉もいるし、どうすんだよ。ゲームして騒いだら殺されそうだし、静かに過ごしたら俺の理性が勝手に死にそうだし。

「ホラーゲーム買ったんだけど、一人でやるの怖くてさ。だめ?」
「……どうなっても知らねーぞ」
「何が?」

誘った奴が悪いんだと自分に言い聞かせ、家の方向に歩き出した。

「ホラー苦手?」
「べつに」
「それはよかった」

家に友達呼んでゲームって、いつぶりだろう。つーかこいつは友達なのか?友達だよな。友達じゃないと家に遊びに行ったりしないだろ。

「浅野の家遠いの?」
「まぁ、隣の市だからな」
「…私、汗だくになっちゃうよ」
「いいんじゃね、クーラーあるし」
「そういう問題かな……」

歩いているだけでも暑くて汗が流れてくる。ちらりと横を見てみれば、シャツが汗でいい感じに肌に張り付いていて、俺は生唾を飲み込んだ。

「横島さ…女子だって自覚あんの?」
「うん」
「ふーん……」
「あるから啓吾の家行きたいなんて言うんだよ」
「…は?」
「ゲーム楽しみだね」

横島は無理矢理話をそらしてきやがった。いや、待てよ。思わせ振りなこと言っといて、なんだそれ。

「でも浅野の家遠いなら、今度は私の家に来てもらおうかな。そしたら私はずーっと涼しいところにいるだけでいいし」
「横島の家知らねーぞ」
「じゃあ最初は途中まで迎えに行かなきゃね」

なんだかんだで横島の家にも遊びにいく予定が立ってしまった。本当にいいのかそれで。付き合ってもいない女子と夏休みの半分は一緒に過ごして家にも行き来して、付き合ってない方がおかしいんじゃないのか。

「浅野、私以外と遊ぶ予定無いの?」
「ゲーセン行く予定くらしかねーな」
「…そんなに暇なら、遊びに誘うの一日置きにする必要ない?」
「なんだ?毎日俺と遊びたいのかよ」
「うん。だめ?」

だめ?なんて可愛く聞かれて、だめだなんて言えるか。俺だって暇なんだ。これも全部水色がいないのと、一護のノリが悪いせいだ。

「じゃあ毎日遊ぶか?」
「いいの?」
「横島がそんなに暇なら相手してやんよ」
「浅野も毎日暇なんだ?可哀想だから私も毎日浅野と遊んであげなきゃね」
「頼んでねーよ」
「暇なんでしょ?」
「暇だけど」

毎日可愛い女子と遊ぶのってわりとリア充イベントなのでは?たぶん毎日ゲームするだけだけど。

「来週のお祭り、誰かと行く予定ある?」
「無いけど」
「夜は涼しいから、付き合ってよ」
「浴衣着てくれるならいいぞ」
「ほんと?じゃあ可愛くしていくね」
「…俺のために?」
「うん」

こいつもしかして、俺のこと好きなのか?

「涼しけりゃいいなら、プールでも行くか?」
「水着は恥ずかしいからやだ」
「…せっかく誘ってやってんのに」
「だって浅野スケベだもん。さっきからちらちら見てきてるの知ってんだからね」
「家着いたらガン見するからな」
「えっち」
「そんな格好してる方が悪い」
「わざとだよ」

見られたくないのか見られたいのか、女心はわからん。俺をもてあそんでくすくす笑いやがるし、小悪魔かこいつ。

「ねぇ浅野、家までまだ遠いよね?私迷子になっちゃいそうだから、手繋いでいい?」
「はぁ!?隣歩いて迷子になんかなるのかよ」
「なるかもしれないよ。それとも、嫌なの?」
「……、い、いやだ」
「…あ、そう。じゃあ嫌がらせしよ」

結局俺の手は小さな手で握られてしまった。なんと答えても横島の思い通りにされるのか。

「暑くてムカつくでしょ」
「そうだな。手汗ひどくても文句言うなよ」
「言わないよ。楽しいもん」
「俺のことそんなに好きかよ」
「どうだろうねー」

俺が勇気を出して聞いてみたってのにその態度か。いい度胸じゃねーか。もう二度と聞いてやらねーし、俺からは何も言わねーからな。悔しいし。

「暑くても、浅野といると楽しいね」
「そりゃよかったな」
「浅野は楽しくないの?」
「…んなわけないだろ」
「それはよかった」

これから毎日遊ぶたびにこんな思わせ振りなことを言われるのかと思うと、ゾッとした。外だからまだしも、この露出で、家のなかで言われたら、どうなる俺。

「浅野と、いつまで友達でいられるかな」
「…どういう意味だよ」
「浅野が暑さにより理性を失うのはいつかなって話」
「暑さじゃなくお前のせいだろ」
「私そんなに可愛い?」
「……ばーか」

遊ばれっぱなしは嫌だけど、俺から友達をやめるようなことしてやるものか。ずっと友達続けて、横島から動くように仕向けてやる。頑張れよ俺の理性。