クリぼっち

「ねー啓吾、クリスマスって予定ある?」

なんて好きな女子が二人きりの時に聞いてきて、期待で一気に心臓がうるさくなった。

「な、無いけど」
「あはは!無いの!?やっぱりね!私は彼氏とデートなんだーいいでしょー」

ただ予定を聞かれただけで一緒に過ごそうと誘われるわけでもなく、多大なショックを受けた。告白されて付き合いだしたとかいう話は聞いていたけどまだ続いていたこともクリスマスまで過ごすことも衝撃だった。
横島が空いていないなら俺のクリスマスも必然的にぼっちだろう。こんなことになるなら俺も彼女の一人くらい作っておきたかった。

そしてクリスマス当日、何の予定もないただの冬休みを過ごしていたのだが、突然着信音が鳴り響いた。ゲームを中断して着信画面を見てみると横島優と表示されていた。驚いて電話に出たら、緊張で声が裏返った。

「もっ、もしもし?」
「啓吾……クリスマスの予定は?」
「はぁ?無いって前も言っただろ。何の嫌みだってんだ」
「じゃあ今家にいる?」
「居るけど何だよ…」
「一人?」
「ああそうだよ!」

クリスマス当日まで俺のことを馬鹿にしたいのかちくしょう。悔しくて声をあらげたら、家の呼び鈴が鳴った。

「私も一人だから、入れて」
「…は!?」
「……だめ?」
「だ、だめじゃねぇけど…」

上下ジャージだったけど渋々玄関まで行って扉を開けた。
そこには制服の時とは全く違う、俺の知らない横島がいた。デートにでも行くときのように綺麗に着飾って化粧までしていやがって、眩しかった。

「な、なんで俺の家に来るのにそんなオシャレしてんだ」
「…別に、啓吾のためにこんな格好したわけじゃないし。寒いから早く入れて」

それだけ足晒してればそりゃ寒いだろ、と言いそうになるが黙って横島を招き入れた。横島がコートを脱ぐと、いい感じに体のラインを強調する縦セーターが現れた。

「何じろじろ見てんの」
「…見てねーよ」
「ふーん」

せっかくのミニスカートだったのにコタツに入ってしまった。

「彼氏とのデートはどうしたんだよ」
「…振られた」
「……クリスマスなのに?」
「そう」

もったいない。俺が横島の彼氏だったらクリスマスをいいことに手を出してから振るのに。まぁ、俺だったら振らないけど。ていうか、既に手を出していたからこそ惜しみ無く振ったとか……いやいや、考えたくもない。

「手握ってきて、急にちゅーしようとしてきて、なんか嫌だったから嫌って言ったら怒られた」
「…好きじゃなかったのか?」
「それ、あいつにも聞かれた。俺のこと好きじゃないだろとか言ってきて、好きって言えなくて、振られた」
「じゃあなんで付き合ったんだよ…」
「顔が好みな人に告白されたら断れなくない?」

ああそうだな、俺だって横島が告白してきたら付き合うさ。

「そのうち好きになれるかなって思ったんだけど、やっぱダメみたい…」
「好きでもないやつと付き合うなよ。……好きなやついないのか?」
「…いるよ」

は!?と出そうになった声を抑える。んだよ、好きなやつ居たのかよ。つーかそれなのに他の男に告白されたからって付き合うなよアホか。

「じゃあそいつに告白すれば……」
「いい。その人も絶対好きな人いるもん。無理だよ」
「いるって直接聞いた訳じゃないんだろ?」
「そうだけど……好きな人に振られるの嫌だもん。このままでいい」
「本当にいいのか?」

横島に好きなやつが居るなら、俺が告白したところで横島の気持ちはそいつのものなんだろ。だったらもう告白なんかできないし付き合うことだってできやしない。

「じゃあ逆に聞くけど啓吾は好きな人いないの?」
「い、……る」
「でも彼女いないでしょ、クリスマスの今一人だったわけだし。告白してないんでしょ?振られるの怖くて告白できないんでしょ?」
「そうだけど……」
「はは、私と一緒だね。なんで、好きな人に好きだって、言えないんだろうね…。言えたら何か、変わるかもしれないのに…」

横島はだんだんと勢いがなくなってきて、ついには泣き出してしまった。そんなに好きなのかよ。俺の方こそ泣きたくなる。

「…ねぇ、啓吾の好きな人って誰?」
「それは……」
「…啓吾が教えてくれたら、私の好きな人も教えてあげるよ。まぁ、知りたくないかもしれないけどね」

知りたくないと言えば知りたくないけど、一応、参考程度には知っておきたい。

「…横島だよ。俺が好きなの」
「……え、そ、そうなの?」
「そうだよ!それで、その横島の好きなやつってどこのどいつだ?俺よりかっこいいやつか?」

やけになって聞いてみれば、横島は顔を赤くしてまた泣きはじめた。

「だったら最初からそう言ってよ〜」
「最初ってどの最初だよ…つーか泣くなよ」
「だって、嬉しいんだもん、好きな人に告白されるの、ずっと夢だったから……」

横島はハンドタオルで涙を拭う。
好きな人って、俺のことだったのかよ。

「ごめんね、諦めて他の人なんかと付き合ったりしてごめんねっ…。でも、あの、ちゅーとか、それ以上のこととか、してないから……初めてはちゃんと好きな人としたかったから…」
「…恥ずかしいこと言うな」
「身の潔白を証明したかったの!もう!メイク崩れたから洗面所借りるね…」

照れ隠しでもあるだろうが、俺から顔を背けて部屋を出ていった。
しかし横島があんなに泣いたり顔を赤くしたりするほどに俺のことを好きでいてくれたとは。俺がもっと早く告白していれば、他の男と付き合うことも、横島を泣かせることも無かったのに。

「はー…せっかく可愛くしてたのに、台無しだよ」

戻ってきた横島の顔はいつもの見慣れたすっぴんで、これでも充分可愛かった。

「横島」
「…なに」
「俺と付き合ってくれよ。その、大事にするから」
「…うん。振ったりしないでね」
「当たり前だろ」

横島はやっと笑顔を見せてくれて、近寄ってきたかと思うと大胆にも抱きついてきた。

「好きだよ、啓吾」
「お、おう」
「今まで言えなかった分…これからいっぱい好きだって言うから、引かないでね」
「引くわけねーだろ。むしろ嬉しいって」
「ほんと?ありがと、好きだよ」

好きだと言われるのは嬉しいけど、なんだかくすぐったい。

「俺が調子に乗らない程度に控えてくれるとありがたいです…」
「はーい、善処しまーす」

なんて楽しそうに言いながらすり寄ってくるものだから、我慢できなくて俺も横島を力一杯抱き締めた。それだけですごく幸せで、しばらくお互いの温もりを堪能した。