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「ん?」
今日も学校帰りに横島と二人で寄り道をしていた。暇だから喋ろうといつもの調子で言われて、外じゃ寒いからと言って店に入りコーヒーを頼み、向かい合わせで席についた。
「もう高三だけどさ、浅野って高校生の間に一度でも彼女できた?」
「……できてねぇけど、それが何だ。ほっとけよ」
横島は甘いココアを飲んでいるというのに出てくる言葉は辛口だった。
「小島はあんなに年上とっつかまえてリア充してんのにさ、浅野寂しくないの?」
「えーっと?喧嘩売ってるんですか横島さん」
「べつに。気になったから聞いただけ」
「俺には大親友の一護がいるから寂しくねーっての!」
「でも黒崎、最近部活とかバイトで忙しくて遊んでくれてなくない?」
「うっ、うるせぇな!忙しいんだからしゃーないだろ!」
こんな虚しい話はしたくねぇってのに、うるさいやつだ。
「そういう横島だって彼氏居ねーじゃん、寂しくねーの?」
「寂しくないよ。大親友の浅野がいっぱい遊んでくれるし」
「じゃあ俺に彼女ができたら寂しくなっちまうな」
「うん」
横島は平然と返事をしてココアを飲んだ。なんだその落ち着き払った反応は。浅野がいなくてもたつきちゃんがいるし〜とか言うと思ったのに。
「でもモテないから彼女できないでしょ?だから別に寂しくないよ」
「なめてんのか?ひょんなことから突然彼女できるかもしれねーじゃん?」
「あてはあるの?」
「…ねぇけど」
「はは、じゃあいいや」
何も良くねぇよ。わざわざ言ったりしないけど、ほんとはリア充してる水色が羨ましかったりするんだからな。
「彼氏欲しいとか思わねーの?」
「別にいらないってば。浅野が大親友でいてくれるから楽しいもん。浅野に彼女ができちゃったら、代わりに遊んでくれるような彼氏作るかもしれないけど」
「作るのは大親友じゃなくて彼氏なのかよ」
「大親友なんてそんな簡単に作れないじゃん。彼氏ならすぐできるでしょ」
「できたことねーやつがよく言うよ」
俺と横島は割りと簡単に大親友になったような気もするけどな。高校で知り合ったのに、すげぇ気が合って今じゃ親友どころか大親友だなんて言われるし。普通に嬉しい。
「できるでしょ。例えば私が浅野に好きだって言って、付き合ってって言ったら付き合ってくれるでしょ?」
「……え?」
「好きだよ、付き合って」
友達しすぎて考えたことは全然無かったが、告白されて普通にときめいた。横島が大親友から彼女に変わったとしても、今までと大差は無いだろう。一緒に遊んで、ぐだぐだ喋って、一緒にでかけて、一緒に帰る。そこに男女の関係をプラスするのも、横島となら悪くない。
「…そうだな、付き合うか」
「ほらね、断らないでしょ。私ってば案外可愛いはずだからさ、告白しちゃえばちょちょいと彼氏くらいできるって」
「いや……もう例えばの話とかいいから。割りと真面目に、俺と付き合わないか?」
「…えっ、何?そ、その気になっちゃったの?やだよ私、浅野の彼女になりたいわけじゃないって…」
あっさりと断られてしまって、かなりショックだった。せっかくその気になったのに現実は非情である。
「理由を聞かせろよ……」
「…だって、浅野とずっと仲良くしてたいもん。恋人って別れるとかいう概念があるけど、友達なら、小学生じゃないんだから絶交とかまず無いだろうし、大親友ともなれば大体死ぬまで仲良くしていられるでしょ?だから、浅野とはずっと大親友でいたい…」
「…それ、俺のこと好きだから死ぬまで一緒に居られるポジションにいたいってことだよな?」
「す、好きなんて言ってないし」
「好きじゃなきゃ大親友なんかやってられねーだろ」
「好きの種類が違うでしょ!」
「日本語では好きって言葉は一種類しかねぇっての」
問い詰めれば横島は焦った様子で否定ばかりしてくる。別にそれでも可愛いげがあるからまだ良いけど、否定ばかりなのはちょっと傷つく。
「俺らってお互いに一番の友達なわけじゃん?となるとこの先の人生でこれ以上に異性と仲良くなって結婚すんのってすげー難しくね?どっち道死ぬまで一緒に居るんだったら、大親友の枠から出てもよくないか?」
「…なにいきなり結婚とか言い出してんの。気ぃ早すぎてきもいんですけど」
「そ、そんな言い方ねーだろ」
俺にしては割りと真面目に考えて喋ってるのに、更にちょっとだけ傷ついた。悲しい。
「…まぁ、浅野がとにかく私と仲良くし続けてくれるって言うなら、それでいいよ。…付き合うよ」
「……いいの!?」
「うん。だって……一生一緒に居てくれるんでしょ?」
「おっ、おう、もちろん。俺はそのつもりだ」
「…へへ、そっか、嬉しいなぁ。浅野の一番か〜」
喜んでくれるのは嬉しいが、照れる。横島も同じなのか、顔が赤い。
「浅野は?可愛い彼女できて嬉しい?」
「ばーか、自分で可愛いとか言うなよ」
「代わりに浅野が言ってくれるなら自分で言うのやめるよ」
「…可愛いです」
「あはは、ありがと」
彼女ができて解ったのは、俺が尻に敷かれるタイプだということだった。
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