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「横島、俺の話ちゃんと聞いてる?」
無心で昼飯を貪っていたら、そう声をかけられた。そういえば今、浅野がずっと一人で喋り続けていた気がする。
「聞いてないけど」
「なんでそんな堂々と答えられるんだよ!?失礼だな!?」
「考え事してたから…」
「俺が喋ってるのにか…!?」
もし、もし私が浅野のことを好きだったら、きっともう少し真面目に話を聞いていただろう。でもこれだけ浅野の話が耳に届かないのは、やっぱり私が浅野を好きじゃないからだろう。
「何の話してたの?」
「まじで全く聞いてなかったのかよ…」
「だってどうせいつも大した話しないじゃん」
「ひどい!!」
好きじゃないから、浅野の顔を見たくない。何の縁なのか毎年同じクラスに居やがって、私の視界をうろうろしやがる。まぁ暇だから見てあげるんだけど、そしたらこいつ馬鹿でヤンチャだからころころ髪型変えて、モヒカンにして先生に怒られたり、罰として坊主になったりもしてて、そういう馬鹿なところは好きじゃないどころか嫌いでもある。
「もうすぐ卒業で寂しいなって話と思い出話をしてたんですけど」
「…そんな寂しい話を飯時にしないでくれるかな」
「どっちにしろ聞いてなかったくせに!」
浅野のくせに真面目な話なんかするな。お前は永遠に馬鹿でいてくれないと、私の調子が狂ってしまう。
「卒業したら、みんな会わなくなっちゃうのかな…」
「…そういう寂しいこと言うなよ」
「浅野の馬鹿やらかすところも見れなくなるね」
「馬鹿馬鹿言うんじゃねーよ」
別に、浅野に会えなくたって問題ない。今だって二人でどこか遊びにいくような仲でも無いし、一護とかと集まるときにたまたま居合わせるくらいで、別に浅野に対して、会えなくて寂しいとか、そんなこと思うはずがない。
「…浅野は、私と会えなくなるから寂しいね」
お前に会えなくても寂しくねーよ、と返ってくるのは想像できた。浅野の口からそう言って貰えれば、私は卒業して浅野に会わなくても、何の感情も持たずに済むんだ。
「…そうだな」
けど返ってきたのは肯定の言葉で、一気に胸が苦しくなった。浅野って、私に会えないの寂しいんだ。そういう風に、思ってくれるんだ。
「横島」
「へっ」
「卒業しても、ずっと友達で居ような!」
そういうことを言うから、私は浅野のことなんか好きじゃないんだ。全然、私の気持ちを解ってない。友達なんかでいたくない。友達なんか、やめてしまいたい。
「知らない。浅野なんかその辺で勝手に寂しがってればいいんだよ」
「ひどい!!俺、割りと本気で言ってんだからな!?」
「だからむかつくんだよ!!」
無神経だと言ってしまいたいけど、私は浅野に対して特別な態度なんかとったことは無いつもりだから、解ってくれと思う方が間違いだ。馬鹿な浅野に、私の気持ちなんか解るはずもない。
「…お、俺のこと嫌いかよ」
嫌いだなんて思ってない。だからって、好きだなんて言いたくない。友達で居ようなんて言ってくる浅野が、私のことを好きなはすがないんだから。
「嫌いなわけ、ないじゃん…」
こんなことで喧嘩なんかしたくない。浅野の提案する通り、ずっと友達で居れば、浅野とずっと一緒に居られるのに。それを否定してまで、好きだと伝える意味がない。
「…なんでお前が泣くんだよ」
「泣いてない」
「嘘つくなっての」
できることなら、ずっと友達でいて、ずっと仲良くしていたい。でもそんなこと、できると思えない。
「浅野のこと、嫌いじゃないから、浅野も私を嫌わないで」
「…嫌わねーよ」
「私が、友達やめたいって言っても嫌わないでくれる?」
「はぁ!?なんだそれ、」
浅野の困った顔は好きだから今まで散々困らせてきたけど、本気で困った顔なんて、させたいわけじゃない。ほんとは私の力で、笑わせて、楽しませて、幸せにしてあげたい。
「私…浅野とずっと友達なんて、やだよ」
こんな風に真剣に浅野と向き合うのは初めてで、泣き顔だって見せてしまってるし、恥ずかしくて辛かった。でも浅野も、そんな風に珍しく真剣な私を見て、私の言葉の意味を汲み取ってくれたらしく、徐々に頬を赤らめた。
「…そ、それって、都合よく解釈していいんだよな?」
そんな顔色で、手で隠しきれずににやけた口元まで見えてしまっていて、浅野が喜んでくれているのだと理解した。
「浅野さえ良ければ、友達やめたい」
「横島が俺なんかで良いってほんとに思ってんなら、その、付き合うぞ」
照れる浅野が愛しくて、私は自分の気持ちを受け入れることにした。嫌いだと意地なんか張らずに、認めよう。私は、馬鹿でドジで情けなくてやんちゃでお調子者の浅野のことが、大好きだ。
「…卒業しても、寂しくなくなったね」
「そうだな、おかげさまで」
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