ベタ惚れ


「おい、てめぇちょっと面貸せや」

放課後、お茶子ちゃんたちと談笑していたら、クラスの暴君に話し掛けられた。誰に言ってるのかと思ったが、今爆豪くんと目が合っているのは私な気がする。

「はよしろ!」
「え、ええっ、何?私何かした!?」

爆豪くんは何も答えず、すたすたと離れていき教室を出ていく。

「優ちゃん爆豪くん怒らせたの?」
「身に覚えないよ…!と、とりあえず、もっと怒らせたら殺されそうだから行ってくるね、先帰ってていいからね!」

爆豪くんに置いていかれないように急いで教室を出れば、少し離れたところに彼の背中を見つけた。どこに行くのか知らないが追いかけてみれば階段をのぼって、空き教室へと入った。何かしら怒られるのかもしれないが、人に聞かれて困る話だといけないから、私も教室に入ってから扉をしめた。

「あの、どうしたの?何かあった?」
「あった」
「え。何?悪いこと?」
「めちゃくちゃ良いことだわ」

夕暮れの陽を浴びる爆豪くんはとても綺麗で、悪そうな笑みは敵そのもので、人生の終わりを覚悟した。

「好きだ横島。俺と付き合え」

ぶっ殺すぞの類いのことを言われるのかと思ったのに、予想外の不意打ちを受けて固まった。
あの爆豪くんが、私を?今まで私のことなんか名前で呼んだことなかったし、モブとしか呼ばなかった爆豪くんが。横島と呼ぶことも信じられないし、好きだと言う言葉も信じられなかった。

「聞いてんのか」

好きってことは、今までモブとか言ってたのも嘘じゃん。それって全然、爆豪くんの中でモブの立ち位置じゃないじゃん。

「モブから彼女に昇格するの…?」
「そう言ってんだろが」
「そんなそぶり無かったじゃん、モブだし、皆みたいな悪口のあだ名付けてもくれなかったし、」
「てめぇ悪いとこ無いだろ、付けようがねーわ」

え、何それ。私ってば爆豪くんの中で百点満点?だからスタートのモブからあだ名を変えることができなかった?だったら普通に名字で呼んでよって思うけど、ダメだったのかな。

「ぐだぐだ言ってねぇではよ返事しろや!」
「えっ、あ、ごめん、え、でも待って、わ、私の、どこが好きなの?」
「はぁ?悪いとこねぇっつってんだから全部良いに決まってんだろ」

爆豪くんからの過大評価を受けて顔が熱くなる。成績も良くて実力もある爆豪くんに、全てを認められていたなんて。

「私でいいの?私、爆豪くんが思ってるほど良くないと思うよ?そんな強くないし、頭も良くないし、」
「だったら俺が教えてやるわ」
「特別可愛いわけじゃないし、平均体型だし、」
「その見た目でんな贅沢言うんか」
「…爆豪くんのこと、そういう目で、見たことないし」

あんまり言っていたら爆豪くんの眉間にシワが寄ってきた。ヤバイのは解っていたけどマイナスなことを口にしてしまうのをやめられなくて、怒ったらしい爆豪くんは近付いてきて私の胸ぐらを掴んできた。

「ぐだぐだうるせぇな、嫌なんか?」
「…嬉しいよ、でも、頭が追い付かなくて、」
「嫌じゃねぇなら否定的なこと言うな」
「は、はい」
「解ったら俺と付き合え」

否定的なこと言うなって言った後にそれはあまりにもずるいんじゃないの。嫌じゃないのも確認済みだし、私それうなづくしかないじゃん。
少し納得いかないまま、嫌じゃないからうなづけば、爆豪くんの口角は上がっていった。邪悪な笑みだけど、嬉しいんだ。

「よろしくな、優」

待って、モブから一気に名字呼びだったのに、もう名前呼びなの。驚いているうちに爆豪くんは顔を近付けてきて、唇が触れあった。凶悪な顔をしているくせに、それは優しく触れるだけだった。

「帰んぞ」
「えっ、」
「んだよ、足りねぇってか?」
「た、足りてます!満足しました!」
「チッ…俺は足りねぇわクソ」

爆豪くんは不機嫌そうに私の胸ぐらから手を離し、教室を出た。帰ると言われたんだからついていかなければ。置いていかれないように「爆豪くん待って、」と声をかければ、爆豪くんは更に不機嫌そうに振り返った。

「俺が名前で呼んでんだからてめぇも名前で呼べや」
「…勝己くん」
「行くぞ」

凶悪な笑みでしか無いけれど、嬉しそうにしてくれるのが少し可愛い。

「あ、カバン教室に置いてきちゃった」
「取りに行くぞ」
「え、や、待って待って待って、それハードル高い」

爆豪くんは私の手を握って廊下を歩きだし、A組の教室に向かい始めた。まだお茶子ちゃんたちが残っていたら、見られてしまう。嫌じゃないけど、いきなりすぎて心の準備ができていない。

「見られんの嫌かよ?」
「…その聞き方、ほんとずるい」
「嫌じゃないんだろ、なら黙ってろ」
「……あんまり強引なのは嫌だけど」

控えめに言ってみれば爆豪くんの鋭い目がこちらを向く。怖いし嫌だって言わない方が良かったかな。

「他の言い方が解んねぇ、許せ」

強引なのを許したくは無いけれど、不器用すぎて可愛くて、笑ってしまった。そのせいで眉間にシワが寄ったけど、一度爆豪くんの可愛さを覚えてしまえばそこまで怖くも感じなかった。

「優しい言い方もそのうち覚えてね」
「できたらな」