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精一杯の笑顔で教室に入れば、私に向けられた皆からの挨拶は「誰?」というものだった。
「私だよ!!横島優だよ!!」
「はああああ!?」
皆納得してくれないのも無理は無い。登校中にぶつかった小学生の個性にうっかりかかってしまい、私の姿は男子へと変えられてしまっていたのだ。もちろんその時点では女子の制服を着た男子という不気味な姿になってしまっていたので、学校に着いてから先生たちに事情を説明して男子の制服を借りた。
「それ、何時間で戻るんだよ」
「解んない。その子すぐ逃げちゃったから何も聞けなくて」
唯一の救いは、男になった私の顔がなかなかイケメンだったことだ。クラスの女子たちの視線が熱い。
「つーことは今日は横島っぱいが拝めないのか!?こんな平面になっちまって!」
峰田くんは構わず私の胸元を撫でてきた。体が男とはいえその行動は気に入らなくて、殴っておいた。
「じゃあ今日は、愛しの彼氏様はお預けかな?」
響香ちゃんは意地悪そうに言ってきた。まだ登校して来てないみたいだけど、こんな姿じゃイチャイチャも何も無いだろう。
「そうだね。このまま戻らなかったら、響香ちゃんの男になろうかな」
「へっ」
油断していた響香ちゃんの頬を撫でてみれば、驚いて頬を赤く染めていた。どうしよう、楽しい。もっと意地悪してやろうと思ったら、教室のドアが開いてまた一人入ってきた。その人物は私と目が合うと、眉をひそめて、しばらく睨んでから私に近付いてきた。
「何しとんだ、体どうした」
「えっ、解るの?」
「声もかよ」
勝己くんは私の胸元や尻を撫でたり腰を掴んだりしてきた。体つきの男らしさを確かめているのは解るが、真っ先に胸を触ってきたあたり峰田くんと同じで、少し笑えた。
「朝、ぶつかった子の個性にかかっちゃって」
「避けろよそのぐらい」
「ごめんね、男になっちゃって」
「いつ戻んだ」
「解んない」
勝己くんは深くため息をつく。イチャイチャできない体になっちゃってごめんね。
「ほんと、ごめん」
「何の謝罪だよ」
「女子じゃなくなっちゃったから…」
「そのうち戻んだろ、どうでもいいわ」
よかった。男になったのをいい機会に振られたりしないか心配だったから。安心したのも束の間で、「それより、」と勝己くんの声のトーンが低くなった。
「男になったからって浮気しとんじゃねーぞ」
と、睨むのは私ではなく響香ちゃん。誘ったのは私だから、響香ちゃんを睨むのはお門違いだ。
「睨まないでよ、体は男でも心は変わらず勝己くんのこと好きだから」
響香ちゃんと勝己くんの間に割って入れば、勝己くんの顔が更に不機嫌になり「庇ってんじゃねぇ!」と怒られた。もしやこれは、響香ちゃんに嫉妬しているのか。
「勝己くん、可愛い」
「あぁ!?お前だって男のくせに可愛い顔してんなよ!」
「えへへ、この姿でも可愛いって言ってもらえるの嬉しい」
「……やめろ、笑うな。男にときめきたくねぇ」
「聞いたか!?爆豪の口からときめきとかいう単語が聞こえたぞ!!」
「うっせぇアホ面殺すぞ!!」
そうか、勝己くん、こんな私にもときめいてくれるんだ。男でもときめいてしまうなら、普段の私に対してはもっともっとときめいちゃったりしてるんじゃないの?
「これ以上勝己くんが私にときめいて男も守備範囲になっちゃったら困るから、今日は話すのやめようか」
「あぁ!?なめたこと言ってんなよ!男女関係無くお前にしかときめかねぇわ!」
「ほんと!?嬉しい!嬉しすぎてときめいた!私今なら可愛い勝己くんのこと抱ける!」
「……やめろ、変な想像させんなや」
「どうしよう、思春期の男子高校生の性欲やばい…!勝己くんと喋ってたら興奮してきた!」
「やめろ!!」
好きな気持ちがいつも以上に溢れてきて、なんだか体が熱い。このまま勝己くんを抱いてしまいたい。今なら力づくでそれが可能だと思うと、更に興奮する。
「爆豪、彼女の性欲処理くらいしてやれよ!」
「うっせぇ!!なんで俺が男に抱かれなきゃならねぇ!!」
「そんなの私が勝己くんのこと大好きだからに決まってるでしょ!!」
「だったら俺が抱いてやるから女に戻るの待てや!!」
「それじゃいつもと変わんないからつまんないし、待てないよ!」
「つまんなくねぇわ!!てかいつもの話を教室ですんじゃねぇ!!」
「勝己くんがしたんじゃん!!」
私たちの性事情をクラスメイトに知られてしまった。峰田くんが血涙を流しているのは見なかったことにしよう。
ぎゃんぎゃん言い争いをしていたら、だんだん声が高くなってきて、体の火照りも収まって、体つきも元に戻ってしまった。
「あれ、女になった」
「横島っぱい復活だ!!!」
「殺すぞ!!」
ああつまらない。自分の体から勝己くんに視線を戻せば、不機嫌そうに私を睨んでいた。
「寮帰ったら覚悟しとけよ。つまんねぇとか2度と言わせねぇからな」
いつも通りじゃつまんない、と言ってしまったのを根に持ってしまったらしい。せっかく男の体なら、と思っただけであってそういう意味じゃないのに。
それでも今日、帰ったら勝己くんにめちゃくちゃにしてもらえるのかと思うと、言葉のあやを撤回する気にもならなかった。
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