天の邪鬼

好きな人ができた。好きになってしまった。一目見たときからビビっときて、というか、単純に顔面が好みだった。

「…切島、ちょっとだけいい?話ある」
「ん?おう」
「告白か?」
「馬鹿じゃん」

昼休憩の終わり頃、次の授業の準備をしていた切島に声をかけた。近くにいた瀬呂に茶化されたから、ばさっと切り捨てて切島を教室から連れ出した。

「あのさ、ガチの内緒話っていうか、率直に言えば恋愛相談なんだけど、」
「俺に!?相手間違えてねぇ!?」
「切島うるさい」
「わ、わり」

廊下を歩きながらひとまず用件を伝えれば、切島に騒がれた。教室から少し離れたところまで来て、本題に入ることにした。

「切島が、そいつと仲良いから、一番適任かなって」
「…爆豪か?」
「そっちじゃない」
「瀬呂か」
「そっちでもない」
「峰……いや、上鳴か。や、でもそんなわけ」
「それ」
「まじか!」

切島が驚くのも仕方がない。私は端から見て、上鳴に冷たくて厳しい。なんでかって言われたら、好きだから素直に話せないせいだ。そして好きだからこそ、他の女子に声をかけまくる上鳴に、八つ当たりをしている状態だ。

「上鳴あんなだけど、ガチで好きな子とか居るの?」
「や…そんな深い話聞いたことねぇわ、ごめん」
「そっか…。なんか私について言ってたこととかある?」
「…俺にだけ冷たい、とかぼやいてたな」
「…やっぱり上鳴も、優しくて可愛い女の子の方がいいよね。私上鳴に当たっちゃうし、優しくできないしご飯も断っちゃうし…」

あ、やばい。気分沈んできた。

「元気出せって!あいつ女子ならだいたいいけるだろうしそんなハードル高くねぇって!」
「フォロー雑すぎでしょへこむ」
「いや、だって、恋愛相談とかされたことねぇし、アドバイスもくそもねぇよ」

誰でも良いならほんとに今すぐ好きだって言って付き合いたい。でもそんな、こんな八つ当たりしてくるような冷たい女子に告白されたところでやっぱり他の女子の方が優しいからすぐ目移りするだろうし。

「…ごめん。またさ、上鳴が何か言ってたら教えて欲しい。それだけでいい」
「なんかごめんな?力になれなくて」
「ううん、私こそ突然恋愛相談とかしてごめんね。休憩終わっちゃうし教室戻ろ」

教室に戻れば、遠くの席の上鳴と目が合った。なんか不満そうな顔をしていたけど何だろう。気になったけどすぐにそらされて、授業が始まった。


授業を全て終え、帰りのホームルームが終わり、帰り支度をしていたら上鳴が寄ってきた。

「二人で帰るぞ」
「…はい?なにそれ」
「デートだけど」
「またそれ?女の子なら誰でもいいんでしょ」
「誰でもじゃねーよ可愛い子だけだって」

遠回しに可愛いと言われているようなものだけど、遠回しに言われても。私は直接言って欲しい。
はいはい、と軽く流しながら上鳴と一緒に学校を出た。

「横島さ、なんで切島なんだよ」
「何が?」
「昼の。なんか呼び出してたじゃん」
「…相談、乗ってくれそうなの切島くらいしかいなさそうだったし」
「相談だったら俺がいるじゃん」
「居るね」
「なんで俺じゃないんだよ」

そんな不機嫌丸出しにされても。上鳴のことで悩んでんのに上鳴に話せるわけないじゃん。ていうか、なんでそんな不機嫌なの。

「切島より俺のが仲良いじゃん。ていうか男子で一番仲良いっしょ?なんで切島なん」

上鳴的には、私の一番仲良い男子って上鳴なんだ。私、上鳴に当たりきついのに。冷たくしちゃってるのに。それすらも、仲良しだからって思ってくれてるの?

「俺これでもヒーロー目指してんだから、一番に頼られないの傷付くんだけど」
「え、ごめん…。いや、私、上鳴に当たりきついのに、そんな仲良し判定下されてると思ってなかった」
「当たりきつい自覚あったんだな」
「ご、ごめん。ある。わざとじゃないんだけど…こめん」
「俺謝って欲しいのそこじゃないし」
「じゃあどこ?」
「だーかーらー、一番仲良い俺じゃなくて切島んとこ相談行ったことだって!別に普段当たりきついのは気にしてないから、困ったときくらい普通に頼られたいんだって!」

私、上鳴と仲良しだったんだ。知らなかった。そんな風に思ってくれてるなら、別に切島に相談しなくても、普通にすれば、もっともっと仲良くなれるんじゃないか。

「だから、なんか悔しいし、俺にも相談して欲しいんだけど」
「…上鳴に話したら困らせるよ」
「なめんなよ、切島より先に解決するわ」
「困らせること言っても怒んない?ほんとに解決する?投げ出さない?」
「投げ出すわけねーだろ!ヒーローなめんなよ」

まだ高校生であってヒーローなんかじゃないくせに。でも相談してこいなんて直接言われて、これを流してしまったら、上鳴との間に一枚壁を作ってしまうようか気がする。上鳴の中で、私と一番仲良い男子が、切島ということにされてしまう気がする。

「真面目に聞いてくれる?」
「当たり前だろ」

上鳴ってば結構ムキになってるけど、私今から告白するんだからね。私の勇気を無駄にする態度とったら、今度こそほんとに冷たくなるし、嫌いになるぞ。

「…切島に、恋愛相談してたの」
「は!?いや、そういうのは女子同士でしろよ!?」
「…じゃあそうするからもう言わない」
「えっ、ごめん、そういう意味じゃねーって、待って、話せよ」

やっぱり男子に恋愛相談持ちかけた私がおかしいのかな。でもどう考えても上鳴のことよく知ってる人の方が相談乗ってくれそうだし、口も堅そうな切島のとこ行くでしょ。

「私さ、」

上鳴のこと好きで、と言うために上鳴を見てみれば、眉を下げて落ち込んだような顔をしていた。

「なんで上鳴がそんな顔すんの」
「へ?」
「…無意識?」

上鳴はハッとして、いつものへらっとした笑みを見せてきた。何そのごまかしかた。下手くそすぎるんだけど。

「ごめん、俺、やっぱ恋愛相談だったら聞きたくないかも」

聞くって言ったくせに。ここまで強引に聞き出したくせに。無責任じゃん。

「横島の好きな奴が誰かとか聞いちゃったら、俺もうそいつに遠慮して横島と話せなくなりそう」
「…上鳴そんな良い奴だっけ」
「ていうか…横島に好きな奴が居るってだけで俺もう無理なんだけど。それこそ、俺じゃないだろ?」

無理って何。なんで、そんなこと聞いてくるの。待って。

「恋愛相談するほど悩んでんのは解ったけど、俺以外の奴が横島悩ませんのは嫌だ。俺さ、こう見えて横島のこと好きだから、俺にしない?そいつじゃなくて、俺のことで悩んでよ」

好きって。上鳴に好きって言われた。いつも全然優しくできないし素直にもなれないし、当たっちゃうし、可愛らしいことも何にも言えてないのに。

「横島俺に厳しいしそんな好きとかあり得ないかもしれないけど、俺のことも視野に入れて」
「…上鳴、私のこと好きなの?ほんとに?」
「ほんとだって。だから、他の奴に渡したくない」
「私、上鳴に八つ当たりとかしてたのに?」
「それでも、横島に何か言われたりされたりするだけで嬉しいんだって」

私、そんな好かれるようなこと上鳴にした覚え無いのに。めちゃくちゃ嬉しいけど、信じたいけど、信じられない。

「私の、どこが好きなの」
「最初は、顔が好きでずっと見てて、たまーに目が合うのが嬉しくて、全然笑ってくれないけど、女子と喋ってるときの笑顔が意味わからんくらい可愛いから、俺の力で笑わせたいなーって思ってるうちに、なんか好きになってた」

そんなことを幸せそうに話すものだから、照れくさくって顔が熱くなった。上鳴が私を見ていてくれただなんて。

「私も、最初上鳴の顔がすっごい好きだった。好きすぎて恥ずかしくて、あと嫉妬したりして、素直になれなかったけど、そんな私にいつまでも構ってくれてた上鳴のことが、好き」

素直になってみれば、上鳴も顔を真っ赤にさせて驚いていた。

「…両想いじゃん」
「うん」
「付き合お」
「うん」
「好き」
「私も」

上鳴は大きくため息をついて、顔を覆ってしゃがみこんだ。

「もー、横島まじわかりづらいって。俺心折れるとこだった」
「ごめん。上鳴のメンタルが強くてよかった。これからは…なるべく、優しくなるから」
「ほんとかぁ?」
「…上鳴が、他の女の子にデレデレしなくなったらね」
「あー、今までの八つ当たりぜんぶ嫉妬したからだと思うと横島めちゃくちゃ可愛い…俺の彼女最高」

やっと、直接可愛いって言ってくれた。ほんとに私、上鳴と両想いで、上鳴の彼女になったんだ。

「あ、そうだ。恋愛相談、ちゃんと解決してくれてありがとう」
「解決できて良かった!横島悩ませてんのが俺で良かった!」
「次何か困ったら、ちゃんと上鳴に相談するね」
「恋愛相談とかもう言い出すなよ」
「言わないよ。他の奴好きになったりしないって」

上鳴は顔を上げるけど、なぜかまだ不安そうな顔をしていた。何かと思えば、手を握ってきた。

「俺の一番は横島だから、横島の一番もずっと俺な」
「上鳴がそれ守ってくれるならね」
「守る。約束する」

馬鹿でアホで抜けてる上鳴だけど、仮にもヒーローを目指している男だし、少なくとも今約束したこの決意だけは本当だろう。上鳴が私を好きだと言ってくれる間は、私だって上鳴を好きでいる自信はある。だからずっと、上鳴に好きでいて欲しい。

「…上鳴のためにもっと優しくするし可愛くなるから、これからもよろしくね」
「これ以上可愛くなられたら俺死ぬけど、期待してる!よろしく!」

そう言って見せてくれる笑顔は本当に幸せそうで、可愛くて、一生かけて上鳴のことを幸せにしてやりたいと思った。