ロボット差別

コロシアイなんかしたくなかった。全滅で私は構わなかったのに、コロシアイは始まってしまって、生き長らえることになってしまった。

「王馬くんは元気でいいね」
「元気なわけないだろ!横島ちゃんの目は節穴なの?コロシアイなんてさせられて、悲しんでるに決まってるじゃないか!」
「…」

数日しか過ごしていないのにもう王馬くんのうそ泣きは見慣れてしまっていて、ため息しか出てこなかった。


「キーボくん、お話ししよ」
「えぇ、かまいませんよ。中庭にでも行きますか?」
「うん」

ロボットが人を殺すことなんてないだろう、という安直な理由で、一回目の学級裁判が終わってからずっとキーボくんに付きっきりで仲良くさせてもらった。たまに入間さんにキーボくんを横取りされたけど、メンテナンスという言葉を信じて一人寂しく過ごしていた。私はここの生活で、キーボくんのことと、入間さんのメンテナンスの存在しか信じることができないでいた。

「ここにはロボット差別をしてくる人がたくさんいますが、横島さんは僕と普通に接してくれるので嬉しいです」

嬉しいなんて感情が解るのかな、と脳内でロボット差別をする。それに私がキーボくんと仲良くするのはキーボくんがロボットだからであり、これもれっきとしたロボット差別だ。これがばれたら、キーボくん怒るのかな。

「キーボくんといると落ち着くからね」
「僕も横島さんといると落ち着きます。王馬くんとは大違いです」

そりゃあ違うに決まっている。悪口を発していないのに王馬くんと同等に扱われたらキーボくんのことも信じられなくなりそうだ。

「…キーボくんは、メンテナンスされてる限り、ずっと傍にいてくれるよね?」
「ずっと…」

嫌なのか、キーボくんは少し難しそうな顔をして考え込んだ。嫌ならもうキーボくんと仲良くするのやめようかな。

「ここに閉じ込められたまま過ごすなら、横島さんが老いて死んでいくまで僕はこのままここにいるでしょうね」

コロシアイをしないということはここで生きるということだが、想像したらきつかった。外の世界の情報を遮断したまま老いるなんて。
私が憂鬱になってもキーボくんは平然としているし、やはりこいつはロボットだ。

「…僕は、ロボットですから、このまま殺されなければきっと最後までひとりぼっちで生き残ってしまうのでしょうか。その頃にはきっと、飯田橋博士も…」

キーボくんはロボットのくせに悲しそうな顔をした。ロボットのくせに。

「私も長生きするからさ、お婆ちゃんになっちゃうかもしれないけど、二人になったら出れるんだもん。その時は、キーボくんと一緒に外に出たい」
「横島さん…」
「それまでは、一緒に頑張ろうよ」

隣に座るキーボくんの肩に寄りかかって頭を乗せる。やっぱりロボットだから固くて冷たくて、私は何に甘えているんだろうと嫌気がさす。

「ええ、頑張りましょう。僕には大したことはできないかもしれませんが…きっと、横島さんの力になってみせます」

そう言ってキーボくんはぎゅっと私の手を握った。その手に体温なんてものはなかったけど、その行為が、ただ嬉しかった。

「キーボくんが人間だったらよかったのに…」
「…横島さんまでロボット差別ですか?」
「キーボくんをおいて私だけ老いていくの、寂しい」
「僕が老いるとしたらそれはただの劣化ですからね」

そういう話をしてるんじゃないんだよ。これだからロボットは。

「私が死んだら、キーボくん悲しい?」
「…涙は出せませんが、きっと悲しいと思います。だから、横島さんには死んでほしくありません」
「…そっか。そう思ってくれるなら、簡単には死ねないね」

キーボくんがロボットでも、私に死んでほしくないと言ってくれる。それがどんなに嬉しいか、喜んだところでキーボくんには理解してもらえないだろう。

「横島さんが死にそうになったら、僕が助けてみせます」
「へ?」
「死にそうになること自体、起こらない方がいいのは僕でも解りますが、もしそうなったら、いつも優しくしてくれたお礼の意味も込めて、絶対に守ります」
「…内なる声がそう言えって言ってるわけじゃないよね?」
「バカにしないでください!僕は基本的には僕の意志で会話してますよ!」

キーボくんが自分の意志で、私を守るだなんて。嬉しいのに、キーボくんの冷たい体が私の心を冷やしていくのを感じた。

「…それなら、嬉しい。ありがとう」

キーボくんの顔を見て微笑んでみれば、キーボくんもにっこりと笑ってくれた。その顔を見ていたらなんだか泣きたくなってしまって、顔を見られないようにキーボくんに抱き付いた。

「あああ、あの、横島さんっ!?ここ、外ですが、大丈夫ですか!?」
「うん」
「えっ…あ、はい、そうですか…」

どうせキーボくんみたいなポンコツロボットは、恋なんて感情は理解してくれないだろう。そう考えていたら、キーボくんは私の体をそっと抱き締めてくれた。

「…キーボくん?」
「横島さんの力になると約束したのに、僕にはこのくらいのことしかできず、すみません…」
「…いいよ、嬉しい」

優しいキーボくんなら、恋を今すぐ理解することはできなくても、もしかしたらそのうち学習してくれるかもしれない。そのくらいの希望は、持ってもいいのかな。