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私は初めて一目惚れをした。
コロシアイ学園生活なんてものを強いられているのに、私の目は不二咲千尋ちゃんに釘付けだった。
私は女の子に恋をすることは多々あった。
というか、女の子しか好きになったことはない。
「ちょっと、気分が悪くて…」
「お水汲んでこようか」
「うん、ごめんね…」
食堂の席で待たせて私はコップに水を汲みに行く。
好きな子のためなら自分から動いてしまう。
もちろん好かれたいからだ。
「おまたせ」
「ありがとう…」
コップを渡すときに指が触れる。
それだけでドキッとしてしまうけど、千尋ちゃんは何てことない顔で水を飲んだ。
食堂には今、私と千尋ちゃんの二人きり。
ゆっくり話すチャンスだと思い千尋ちゃんの横に座った。
「ふぅ…少し楽になったよぉ。ありがとね」
弱々しくだが、精一杯の笑顔を向けてくれる千尋ちゃん。
今この笑顔を独占してると思うと興奮する。
「無理も無いよね、裁判が終わったばかりだし」
「…もう、あんなの嫌だよ…これからも、まだ裁判をしなきゃいけないことが起こったら…」
「…早く出たいね」
というのは嘘。
可愛い可愛い千尋ちゃんと二人きりになれる機会があるこの生活は私にとっては天国だ。
出る必要が全く感じられない。
「ここから出られるまで、一緒に頑張ろう?」
出られることなんて無いだろうから、私と千尋ちゃんはずっと一緒だ。
千尋ちゃんの頭を優しく撫でる。
千尋ちゃんは涙目で私を見る。
「横島さんは…強いね」
「そりゃあね。だって私は一人じゃないから」
千尋ちゃんさえ居てくれれば頑張れるんだよ。
千尋ちゃんのためなら強く生きるよ。
「…あのね、お願いがあるんだけど」
「何?」
「ここから出られるまで、ずっと僕と居てくれないかなぁ…?」
ここから出ることが不可能な状況でそれを言うなんて、プロポーズと受け取っていいのかな。
出られるまでずっとってことは、死ぬまで一緒ってことだよね。
最高だね。
「信用…できないよね、僕なんかじゃ…」
「できるよ。だからずっと一緒にいよう。ずっと二人で行動してれば、殺そうとしてくる人も居ないだろうしね」
「物騒なこと言わないでよぉ…」
「あ、ごめん…。でも、そうでしょ。二人で居れば平気だから。何かあっても、私が不二咲さんを守るから」
千尋ちゃんの手を取りぎゅっと握る。
千尋ちゃんは不安そうな顔で私を見つめた。
「僕も…強くなるから、きっと」
「そっか。不二咲さんが強くなったらお互いに心強いね」
「うん。だけど…横島さんは、どうしてそこまでしてくれるの…?」
そんなことを不安がってたのか。
まさか私が千尋ちゃんを騙して殺すとでも?
そんなことありえない。
「不二咲さんのことが好きだからだよ」
「ええっ」
この逃げられない環境の中で告白すれば、千尋ちゃんの逃げ場は無い。
心細いこの環境で告白されたら、千尋ちゃんはどう返事してくれるのかな。
不安な心を癒すために私を受け入れてくれると嬉しいな。
こんなに不安がってるんだから、断ったら私に殺される、くらいの不安を持っててもおかしくないよね。
「だから私は、不二咲さんを守りたいの」
握っていた手を離し、千尋ちゃんを抱き締める。
なんてか細くてか弱い身体なんだろう。
きつく抱き締めただけで壊れてしまいそうだ。
「で、でも、あの…」
「私は本気だよ、千尋ちゃん」
多少、強引なことをしても許されるだろうか。
そんな疑問に答えを出す前に、私は千尋ちゃんに手を出した。
千尋ちゃんの柔らかくて小さな唇を奪った。
きっとまだ誰も触れたことの無いであろう千尋ちゃんの唇。
それを私が独占しているのだ。
なんたる優越感。
「ま、待ってよ横島さん…」
「もう我慢できないよ」
「横島さん、僕の性別を何だと思ってるの…?」
「女の子でしょう。でも性別なんか関係ない。そんなことより私は千尋ちゃんのことが大好きで仕方がないんだよ」
ここが食堂なんて関係ない。
誰も来なければ密室と変わらない。
私は千尋ちゃんを抱き締める。
か細くて女の子らしい柔らかさが無いから、これからもう少し脂肪をつけてもらおうかな。
「関係ないなら…僕が男でもいいってこと?」
「女の子でしょ。例え男の子だとしても、私は千尋ちゃんが好きだから性別なんかどうでもいいよ」
「…僕、本当は男なんだ」
「こんなに可愛いのに?」
半信半疑な状態だったが、抱き締めた千尋ちゃんの背中を撫でる。
女の子特有の引っ掛かりがない。
下着を付けていないということだ。
「こんな見た目だから、それが嫌で、ずっと女のふりしてたの…ごめんなさい」
「あ、あの、あれ?ほんとに、本当に男の子なの?」
性別なんか関係ないとは言ったものの、真実は気になった。
私は女なのだから男を好きになっても問題はない。
「私、今まで女の子しか好きになったことなかったんだけど…初めて異性に興味持ったってことになるのかな」
「ええっ、バイ…」
「そっか、男の子相手でもちゃんと恋できちゃったんだ…ありがとね、千尋ちゃん。私の新しい扉を開いてくれて!」
「僕は何もしてないよぉ」
ここに来てやっと異性を好きになれるなんて。
偶然にしても、やはり私には好都合だ。
千尋ちゃんが女の子だったらイチャイチャするにも限界があるけど、千尋ちゃんは男の子なんだ。
男女でイチャイチャだったら何でもできる。
それこそ監視カメラの無い脱衣場にでも行けば好き放題できる。
「千尋ちゃん…ううん、千尋くん。大好き、愛してる。君はきっと私の運命の人だよ」
この逃げ場の無い空間で一生を添い遂げる運命。
大好きな千尋くんと一緒なら、これ以上の幸せは無い。
「横島さん…」
「ん?何?」
「…きっと、ここから出ようね。一緒に」
千尋くんは私の背中に手を回してくる。
そんな愛しい千尋くんの言うことでも、聞いてあげはしない。
私はここから出るつもりはない。
「そうだね、ずっと一緒だよ」
ここから出なければ千尋くんを誰かに取られることはない。
千尋くんが逃げることもない。
まさに、ずっと一緒。
死ぬまで、ずっと…。
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