隣の席の好きな人

「王様だ〜れだ!」

昼休み、桑田くんの提案でなぜか王様ゲームをやることになってしまった。
しかもこういうのは男女混ざってやるからこそ楽しいものだろうと思うのに、なぜかクラスの男子のみでやっている。

「俺だべ!んじゃあ、3番が隣の席の女子に異性の好みを聞く。隣に女子がいなければ前後でもいいべ!」
「誰だ3番?」
「僕だ……」

超高校級の幸運とは何だったのか。
この王様ゲームは女子がいない代わりに、ゲームに参加していないクラスの女子たちを命令で巻き込んで楽しむという悪趣味極まりないゲームになりつつあった。
そして僕の隣は横島優さん。
密に僕の想い人でもあるので、こんな命令聞きたくない。

「あの、横島さん、」
「あ?また私?正直言って、私のこと参加させてくれない王様ゲームなんかのくせに私のこと巻き込んでくるのムカつくんだけど!ねぇ聞いてんの!?」

横島さんは葉隠くんたちに苛立ちを露にするが、彼らは顔を背けて横島さんの言葉を聞こうとしない。
さっきだって桑田くんの命令によって葉隠くんが下着のサイズを聞きに行ったばかりだ。
まぁ当たり前だが答えて貰えずに葉隠くんは頬に手形を貰って帰ってきたのだが。

「ごめんね、何回も」
「別にいいけど!苗木くんは庶民だから??王様の命令聞かなきゃいけないだけだし??苗木くん悪くないもんね??多少は悪いけど苗木くんまだ王様になったことないみたいだし」
「はは……これでも幸運のはずなんだけど、なんでだろうね。とりあえず、命令だから質問させてもらうけど、いい?」
「……いいけど」

横島さんはご立腹のようだ。
腕を組みながらちらちらと彼らを睨んでいる。
笑った方が可愛いのに、とは思うけど怒らせているのは僕らだし、第一そんなこと口が裂けても言えるわけがない。

「横島さんの、異性の好みを教えて欲しいなー…なんて」

命令だとは言え、こんなこと聞かされる僕の身にもなってほしい。
恥ずかしくて変な汗をかいてしまう。

「……そ、そんなの」

横島さんは火が出そうなほどに顔を赤くして慌て始めた。
なんだこの意味深な反応は。
これじゃあなんだか特定の異性でも思い浮かべてるのではないかと疑ってしまう。
横島さんでも好きな人がいるというのか。

「…知りたい?」
「う、うん。すごく気になるよ」

って、こんなこと言ったら僕が横島さんに興味津々みたいじゃないか。
いや実際そうだけど、その通りなんだけど、知られたくはないし。

「いつも優しくて、よく困った顔してるけど、笑顔が素敵で、明るくて、弱そうなくせに、頼りになって、えっと…困ってると助けてくれて、私がこんなキツイ性格でも、話しかけてくれて、それで……クラスのみんなと仲良くて、人望もあって、あと肌が綺麗で、可愛さとかっこよさを兼ね備えてる、隣の席の鈍感な子が好みかな……」
「……んっ?」

え、なんだって?
隣の席?
そんなわけない。
だって君は窓際の席で、隣の席は僕だけしか存在しないじゃないか。

「えっ、あの、それって」

自覚したところでもう遅かった。
始業のチャイムが鳴り響き、昼休み終了を告げた。
皆が席に戻っていくなか、僕と横島さんは隣同士の席につく。
横目で見る彼女の顔はまだまだ赤くて、つられて僕も顔が熱くなる。

「苗木っち〜!後で答え教えてくれよ!」

こんなこと、葉隠くんたちになんて答えたらいいんだろうか。