強がり

コロシアイを強要されてから、私は暇で仕方がなかった。
出される動機には私を動かすほどの威力は無く、殺意は沸かなかった。
でも周りの様子を見るとそうでもなく、殺される可能性だけが膨らんだ。
そして減っていくクラスメイト。
動揺していく残されたもの。
その中で唯一私を動揺させたのは、超高校級の御曹司だった。

「ピンポンピンポーン」

口で言ってしまうくらいのテンションで十神くんの部屋に押し掛ける。
しばらく待つと扉が少しだけ開いて十神くんが見えた。

「やぁ十神くん!元気?」
「お前か、帰れ」
「やーだよ!」

無理やりドアをこじ開けて中に入れさせてもらった。
十神くんの部屋は清潔な良い匂いがする。
よく考えてみれば男の部屋に入るなんて人生初だ。

「何のつもりだ?何を企んでいる?」
「え?何も企んでなんかないよ?ただちょっと十神くん見に来ただけだよ」
「目的は何だ…」

十神くんは警戒心むき出しで聞いてくる。
ここに来たばかりの時は余裕たっぷりで、何を言っても皆のことを見下しながらあしらっていたのに。
強気な十神くんの弱気な姿。
これほど私を興奮させてくれるだなんて。

「あぁそっか、もしかして十神くん、私が十神くんのこと殺しに来たと思った?大丈夫だよ、凶器なんて持ってないから」
「ふん、信用できんな…これ以上近付くな。俺の部屋に踏み込むな」
「ん?もしかして照れてる?女の子部屋に入れるの初めてだった?安心してよ、私も男の部屋に入るのは初めてだから」

眉間に皺を寄せる十神くん。
そんなに鋭い目で見つめられると興奮しちゃうよ。

「信じてくれないならボディチェックする?」

スカートをチラッと捲って誘惑してみる。
だが十神くんはそんなものに釣られてくれなかった。

「ていうか、私には十神くんを殺す動機が無いもん。十神くんには、動機があるのかも知れないけどね。でも私がこの部屋に入るところ霧切さんに見られちゃったから、私のこと殺しても疑われるのは確実だからね」
「俺は黒幕を突き止めるまで、この舞台を降りるつもりはない」
「なら安心した」

殺すことも殺されることも無い。
安心したので勝手に十神くんのベッドに腰かけた。

「勝手に座るな、用は無いなら早く出ていけ」
「暇なんだから良いでしょ。十神くんだって暇なくせに」
「俺は忙しい。もっと暇そうな奴の所へ行け」
「やだー。私は十神くんが良いの」

なんやかんや言いながら、十神くんは会話してくれる。
ほんとは十神くんも寂しいんじゃなくて?

「なぜ俺にこだわる?」
「もー、十神くんてば知りたがりなんだからー」
「黙れ、余計な事を言うと追い出すぞ」

黙ってれば追い出さないのかな?
十神くんてば照れ屋さんなんだから。

「十神くんに興味を持ったからだよ。十神くんのこと知りたいから。十神くんが面白いから。十神くんと仲良くしたいから。十神くんが気になるから。…このくらいでいい?」
「…物好きだな」
「感想はそれだけ?」
「他に何があると言うんだ」

噛ませ眼鏡のくせに強がっちゃって。
女の子にここまで言われてそんなことしか思わないなんて。
気に入らなかったから立ち上がって十神くんに近付いた。
目の前に立って十神くんを見上げると間近に十神くんの整った顔。
近くで見れば見るほどかっこいいなんてずるい。

「例えば、ドキドキしちゃったとか」
「…そんなわけ無いだろう」

私に女の子としての魅力が無いのかとへこみたくなるが、まだ諦めない。
挫けることなく今度は十神くんの胸に手を当てた。
その瞬間、私はとてつもない興奮を覚えた。
私に興味無い振りをしながらも、十神くんはものすごくドキドキしていた。
十神くんはすぐに私の手を払いのけて後ずさった。
でもそこは壁だったから私は更に詰め寄った。

「ねぇ十神くん。黒幕突き止めるのもいいけど、息抜きも必要だと思うんだよ」
「…だからどうした」
「私じゃ十神くんの癒しになれないかな」

十神くんは黙ってしまった。
攻めても無反応じゃ何も面白くない。
もっと私を興奮させるようなことしてよ。

「私といる時くらい、こんな生活のこと忘れようよ」

十神くんに抱き付いて直に心臓の音を聞いてみる。
私のせいでこんなにドキドキしてるだなんて、楽しくて仕方がない。

「甘えてくれていいんだよ?私は誰にも言わないよ。ていうか、こんなことしてるだなんて言える訳ないし」
「もう一度聞く。こんなことをする目的は何だ」
「…あぁ、そっか。十神くん、好きだって言って欲しいんでしょ。自分のこと好きかどうかも解らない相手に手出すのは嫌なんだね?」
「…」
「目的は、十神くんとイチャイチャするため。なぜなら、十神くんを好きになってしまったからです。ここまで言えば、解るよね?」

十神くんの鼓動がより一層激しくなる。
そして、壊れ物でも扱うかのように優しく抱き締められた。

「…十神くん、私にここまで言わせておいて、十神くんからは何も無いのかな?」
「だから…行動で示しているだろうが」

更にぎゅっと抱き締められる。
御曹司とこんなことできるなんて、この学園生活はなんて素晴らしいんだろう。

「十神くん、寂しくなったらいつでも私のところに来ていいからね」
「…俺は寂しくなんかない」
「しょうがないなぁ、十神くんが寂しがってそうな時に私から訪ねてあげるよ」
「余計なお世話だ…」

十神くんはそう言う割に、段々と鼓動が落ち着いてきた。
もしかして、もしかしなくても、私に癒されてるってことだよね。

「十神くん…」

監視カメラのことなんて忘れた振りして、私はそのままくっついていた。
十神くんも嫌がる様子は無く私を離さなかったので、たぶん監視カメラのことは本気で忘れているのだろう。
黒幕とやらに見られているのにこんなことしてしまうなんて、興奮する。
それにモノクマのことだから、次にみんなで集まる時には私と十神くんの関係をバラしてしまいそうだ。
それはそれで興奮する。

「…横島、俺をこんな風にした罪は償ってもらうぞ」
「責任とって十神くんが飽きるまで一緒にいてあげるから安心してね」

例えここから出られなくても、十神くんさえ居てくれれば構わない。
黒幕を突き止めてここから出られたら、責任とって結婚でも何でもしてあげよう。
ただ、強敵は腐川さんだけど、私の愛と束縛から十神くんを奪うなんて、させてあげないんだから。