熱愛報道

「なんだこれ!!」

今日はお休みの日だったから、本屋に出向き、週刊誌を立ち読みしていた。そしてアホのように声を荒げてしまい、周囲の客に見られて「あ、あの人」とか「フリーザーじゃん」との声が聞こえてきて、笑顔で会釈をしておいた。プロヒーローになったおかげで私生活が落ち着かない。しかし今はそれどころじゃない。
私は手にしていた週刊誌を購入し、本屋の外に出た。外の空気で深呼吸してから、もう一度、週刊誌を開いた。というか、週刊誌を開くまでもなく表紙に私についての見出しが書かれていた。

「誰が!!あんな!!アホ面と!!」

“チャージズマ、結婚秒読み!?お相手はなんとフリーザー!”なんて赤文字で書かれ、巻頭カラーを私と上鳴のツーショットで独占していた。
偶然仕事終わりにアイツと会って、帰ろうと居酒屋から出た時の写真。酒のせいでふにゃふにゃ笑いながら顔の赤い私たち。髪についていた食べかすをとってくれる上鳴。ついでに頬をつついてきた上鳴。同じタクシーに乗り込む私たち。計5枚の写真を載せられていた。
頬をつつかれた後、顔面を軽く凍らせてやった写真が無いのはカメラマンの故意だろう。


「もしもし!アンタ週刊誌見た?は?仕事中?週刊誌くらいウェイウェイしながら読めるでしょ!今日発売のやつ!コンビニ行って自分の名前探せ!」

上鳴の奴に用件だけ伝えて、一方的に電話を切ってやった。別に私も上鳴も、お互いを恋愛対象だなんて思っちゃいない。熱愛だってあり得ないし、そもそも私が絶賛熱愛中なのは、あのアホ面なんかじゃない。

「ん」

急いで事務所に向かっていたら、ポケットに入れていた携帯が震えた。画面を見れば上鳴からで、“テレビやばい”とのメッセージ。まさか私らの何気ない日常がスキャンダルとして全国ネットで晒されてしまったのか。これはまじでやばいと思い走り出したら、街中の特大液晶パネルから、聞き慣れた声が聞こえてきた。

『毎回毎回インタビューってうっせぇな!!』

ヒーローインタビューと書かれたテロップと共に、人を殺しそうな顔をした、私のヒーロー爆心地がドアップで映し出されていた。

『まぁいい、生放送だよな?』
『そうです!何か一言お願いします!』

アナウンサーさんがそう問いかければ、勝己はカメラが逃げないように両手で固定し、今にもブチ切れそうな顔を見せ付けてくる。

『さっき道端に落ちてた週刊誌見たんだがよぉ、チャージズマとフリーザーが結婚秒読みらしいなぁ?えぇ?』
『そうですね!御友人として爆心地さんから何かメッセージありますか!?』
『誰が御友人だ!!二人ともブッ殺してやっから覚悟しとけよ……今から順番に殺しに行くからな?特にチャージズマよぉ、結婚より先に秒殺してやっから地獄で悪魔とでも結婚しとけや!!』

テレビは気を利かせてテロップを“御友人へのメッセージ”にしているが、上鳴への殺害予告でしかない。放送禁止にしてほしいくらいだが、爆心地さんの怒りは収まらないようで、アナウンサーが慌てている。

『あのっ、お祝いメッセージは?』
『あぁ!?誰が!誰を!祝うんだよ!!』
『もしかして三角関係とかだったりするんですか!?』

アナウンサーさん、度胸がありすぎる。あの怒った勝己にそんな踏み込んだことを聞くなんて。
この放送を見ている周りの通行人たちも、アナウンサーと爆心地のやりとりを面白そうに見ていた。こんなものでも視聴率が取れてしまうなら、爆心地の醜態は今後も晒されるのだろう。そろそろ落ち着いて欲しいものだ。

『んなわけねぇだろが!!この際だから言ってやんよ!フリーザーが結婚すんのはこの俺であって、あのアホ面なんかじゃねぇ!!あいつはチャージズマ選ぶほど悪趣味じゃねぇわ!!』

「へぇ、爆心地とフリーザー結婚するんだ」と他人事のような台詞が口から漏れた。驚きすぎて動けずにいると、通行人たちも「まじかよフリーザー悪趣味だな」とか「俺フリーザー好みだったのに」とか「あの爆心地でも結婚できんのかよ」とか色んな声が聞こえてきた。大抵が失礼なことだったのは聞かなかったことにしよう。

『とりあえずチャージズマ、今から行くから殺されろ』

いつのまにか画面のテロップも“爆心地の大胆プロポーズ!?”に切り替わっていた。すぐに画面はスタジオに切り替わってしまったけど、私はそのまま動けずにいた。

「プロポーズ……」

全国ネットで、あの爆心地さまにプロポーズされてしまった。ブチ切れられながらだけど、嬉しくて、頬が熱くなった。

「あ、もしもし上鳴?テレビ見た?えへへ、プロポーズされちった」
『見たよ!!俺どーすんだ!何もしてねぇのに爆豪に殺される!』
「うん、でも上鳴も私も合わせて殺すつもりだよね?上鳴のことは社会的に殺すとして、私どうなるんだろ?愛し殺されるとかそんな感じ!?きゃは!」
『ほんっと他人事だな!!最低カップル!最低夫婦!!って、わーー!!爆豪はやっ、』

電話の向こうからどったんばったんと騒音が聞こえて、勝己の怒声も聞こえてきた。

『相手誰だ!?優だな!?性懲りもなく人の女に手出してんじゃねぇ!!』
『横島からかかってきたんだって!』
『よこせ!!』

勝己は携帯を取り上げたらしく、電話からめっちゃうるさい勝己の怒りが伝わってくる。

『放送見たな!?』
「見たよ!すごい嬉しかった!上鳴なんかと撮られちゃってごめん!勝己怒ると思ったから謝りに行くとこだったんだけど、許すとかより先にプロポーズされたのめっちゃ嬉しい!私勝己と結婚する!」
『っ、ほんとか?』

当たり前だろうが!!とでも言われるのかと思ったのに、驚いたように聞き返してきた。私が勝己からのプロポーズを断るわけがないじゃないか。
間髪いれずに「ほんとだよ!」と返してやった。

『仕事終わったら指輪買いに行くぞ』
「うん!じゃあ私事務所で待ってるね。さっきの公開プロポーズのおかげで報道陣来そうだし…事実ですって言っとくね」
『悪ぃな。任せた』
「おっけ。それじゃ、お仕事頑張ってね」
『あぁ』

電話を切る直前、『爆豪おめでとー!』と言う上鳴の声が聞こえてきた。祝ってくれているんだから殺さないであげてね、と心の中で軽く願いながら携帯をポケットにしまった。
勝己の事務所に行くつもりだったけど、私は私の事務所に行くことにした。さっきの生インタビューのおかげで報道陣に質問攻めにされそうだけど、それすらもお祝いイベントだと思って楽しんでおこう。
アホな友人とアホな記者のおかげで、今後がめちゃくちゃ楽しみだ。