絶望色の愛

「蜜柑ちゃん…」

誘ったのは、私からだった。
クラスメイトの罪木蜜柑ちゃんは、日寄子ちゃんや真昼ちゃんたちともそこそこ仲が良かったが、でも少し蜜柑ちゃんの優先順位は低そうで、蜜柑ちゃんが寂しそうに見えた。だから私が声をかけた。一緒にご飯を食べたり他愛のない話をしたり。それで蜜柑ちゃんも嬉しそうにしてくれたし、私も嬉しかった。

「はうぅ…だ、だめですよぉ…」

先月、初めて蜜柑ちゃんとお泊まり会をした。私の部屋に呼んで、ふざけてくすぐっていたら、いつものドジなのか倒れた拍子に服は乱れてしまうし私は蜜柑ちゃんの豊満な胸を鷲掴みにしてしまった。謝るとかそれ以前に、蜜柑ちゃんは恥ずかしそうな感じているような、可愛らしい声をあげた。私まで恥ずかしくなってドキドキして、つい意地悪をしたくなって蜜柑ちゃんの胸をそのまま揉みしだいた。気持ち良さそうに身をよじる蜜柑ちゃんが可愛くて、軽く唇を寄せた。泣きそうな蜜柑ちゃんを見て急激に罪悪感に苛まれ、その日はごめんと謝って気まずいまま眠りについた。

「だめじゃないでしょ?」

でもその後、蜜柑ちゃんにはいつも通り話しかけられ、すぐにまたお泊まり会が開かれた。お泊まり会は何度も開かれ続け、そのたびに私たちのじゃれあいは熱を増した。一緒にシャワーを浴びて、体の洗いっこをして、裸のままベッドに飛び込んで、お互いの体を堪能した。キスだって、何回もした。ただの女友達だとは、言えなくなってきていた。

「あっ、優さん、も、もっとぉ…」
「ん、じゃあ、ちゅうして」
「ふ、んっ…」

私は蜜柑ちゃんが好きだった。だから蜜柑ちゃんが甘えてきたらとことん甘やかしたし、全力で蜜柑ちゃんを気持ちよくさせてあげた。私にどんどん依存して嬉しそうに笑う蜜柑ちゃんが、可愛くて、大好きだった。



「蜜柑ちゃん、今日どうする?」
「あ…ごめんなさい、今日は行かなきゃならないところがあって…」

最近、蜜柑ちゃんの付き合いが悪くなった。二日に一回はお泊まり会をしていたのに、今では週に一回までペースが落ちていた。私は、物足りなくなっていた。その貴重な週に一回のお泊まりの時に、なんでなのか理由を聞いたけど、教えてくれなかった。ごめんなさい、と言われてしまったら許すことしかできなくて、深くも聞けない自分のことを許せなくなった。

しばらくして、事件が起きた。予備学科のデモが起きる中、担任の先生が危険だと知らされた。助けにいこうと、クラスの皆がひとつになって、先生を助けに行くことになった。
私たちは、先生を助けに行くべきではなかった。正義を翳したおかげで私たちは、絶望を知ることとなってしまった。絶望に、染められたのだ。
それから知ったことなのだが、愛する蜜柑ちゃんは他のクラスメイトより先に絶望に染められていたらしく、超高校級の絶望である江ノ島盾子の手に落ちていた。だから、私の誘いも断って、江ノ島盾子に会いに行っていたのだ。よその女に蜜柑ちゃんを奪われていただなんて、絶望的だった。


「盾子さんは、私のことを叱ってくれるんですよぉ。私なんかのために、怒ったり蹴ったりしてくれるんです」

嬉しそうに話す蜜柑ちゃんにむかついて、私は蜜柑ちゃんに初めて暴力を振るった。痛いと泣く蜜柑ちゃんも可愛くて、やめられなくて、私まで泣けてきた。

「ごめん、ごめんね、蜜柑ちゃん、好きだよ」
「ひっ、うっ…」
「痛いよね、ごめんね…でも、蜜柑ちゃんが悪いんだよ…」

こんなことをして蜜柑ちゃんに嫌われでもしたら、それこそ私にとっては絶望的だ。それなのにやめられないのは、私が狂ってしまったせいか。