仲間同士

眠れない。
人がどんどん減っていく中で、落ち着いて眠れる訳がなかった。
夜風に当たろうと思って外へ出る。
他のみんなは当たり前だが寝ているらしく、物音一つしなかった。
まだこの中からクロが出る可能性があると思うと気が重くなった。

「怖いなぁ…」

殺される恐怖を味わうくらいなら、自殺でもした方がマシじゃないか。
プールサイドに座って足を突っ込む。
夏とは言っても夜中の水は冷たかった。
泳げないし、この中に飛び込んだら死ねるかな。
不穏なことを考えていたら、水面に人影が映った。
振り向くと、私を見下ろしている九頭龍くんがいた。
いつも私が見下ろす側だから、下から見る九頭龍くんは新鮮だった。

「殺しにきたの?」
「んな訳ねぇだろ…。夜中だっつーのにバシャバシャ水遊びされたら気になって眠れなくなっただけだ」
「それはごめん、私も眠れなくて」

九頭龍くんは私の隣に座った。
私と違ってプールに足を突っ込んだりはしなかったけど。

「つーか、俺がテメェのこと殺すと思うのかよ…」
「ちょっと思った。今誰を信じていいか解らないし、この状況じゃ誰がクロになってもおかしくないからね…。だから、今も、九頭龍くんに殺されるんじゃないかってビクビクしてる」
「…俺が、この期に及んでまだ誰かを犠牲にしてまで脱出したいと思うような、その程度の男だと思ってんのか?」
「…ごめん」

ペコちゃんの件があって、九頭龍くんは生ききると決めたはずだ。
だから殺しも殺されもしない。
そんな九頭龍くんですら疑ってしまうのは、私が弱いからだ。

「でもね、九頭龍くんになら殺されても良いかなって、ちょっと思った。なんでだろうね」
「…」

九頭龍くんは黙っていた。
きっと私は、九頭龍くんに脱出してもらいたいと思っているのかもしれない。
もしかしたら私はもう生きる希望を失ってしまったのか、自分でも解らない。

「ていうか、今このまま死んじゃってもいいかなって思ったり。もう、人の死ぬとこ見たくなくて…考えてた」
「…逃げんのか」
「逃げれないから困ってたの」

コロシアイさえ起きなければ逃げようなんて思わなかった。
狛枝くんが余計なことをしたせいだけど、そんなの今さら考えてもどうしようもない。

「殺されても良いとか、本気で思ってんのかよ」

九頭龍くんは私をプールサイドに押し倒した。
横には手を伸ばせばすぐ届くプールの水面。

「殺したいなら、いいよ」

私の肩を押さえる九頭龍くんの手に力が入る。
こんなに近くに九頭龍くんがいると思うと、胸がドキドキした。
私だけを、残った隻眼で見つめてくれる九頭龍くん。
殺意なんて全く感じられない、寧ろ悲しそうにするその表情に胸を締め付けられた。

「そういうこと言うんじゃねぇよ…。テメェが、どれだけ俺の支えになってると思ってんだ。テメェが死んだら、今度こそ俺は…」
「九頭龍くん、私が必要なの?」
「んなもん、言わなくても解んだろうが!」

悲しそうに怒る九頭龍くん。
九頭龍くんが私のために一喜一憂してくれる。
九頭龍くんが私を必要としてくれている。
なんて嬉しくて幸せなんだろう。

「テメェだって…俺が死んだら、嫌とか思わねぇのかよ…」

九頭龍くんが死ぬ。
以前だって、死んだと思って悲しんだ。
オシオキと切腹のせいで二度も死の悲しみを味わった。
三度もあんなに悲しくて苦しいのなんて、味わいたくない。

「俺たち、仲間だろ…?もっと、俺を頼れよ」

仲間だと言われて、喜ばなきゃいけないのに、素直に喜べなかった。
私は何を望んでいる?
仲間以上の何か?

「あー、そっか…」

死ぬか生きるかの瀬戸際で、九頭龍くんの存在が私の中で特別になっていたんだ。
仲間以上に、特別な想い。

「私、やっぱりまだ生きることにするよ」
「あぁ?なんだよ、意見ころころ変えやがって…」
「いや…生きる希望を見つけたからね」

大好きな九頭龍くんに必要とされるこの世界だ。
絶望的なことばかりだと思っていたけど、そうでもなかったみたいだ。

「ありがと」

九頭龍くんの服を引っ張って引き寄せ、抱き締めた。
小柄でもやはり九頭龍くんは男の子で、女の子の体と違って固かった。

「ばっ…何しやがる!」
「嫌?」
「い、嫌じゃ、ねぇけど…」

大好きな九頭龍くんを抱き締めても嫌がられないなら、まだ生きてる価値はあるみたい。

「私、九頭龍くんのために生きるから。九頭龍くんも生ききって」
「あたりめぇだろ…俺は死ぬ訳にはいかねぇんだ」

大好きな九頭龍くんが生きてる間は、意地でも生き残ってみせるからね。
いつか私の気持ちを伝えるまでは、死んでもらっては困るんだから。