愛情×友情

最近、誰かの視線を感じるようになった。
食事中、探索中、掃除中、自由時間。
どこにいても視線を感じるのだが、周りを見ても誰が私を見ているのか解らなかった。

「だから、ちょっと怖いんだよ。どうしたらいいかな」
「優姉は鈍感なの?あんな気持ち悪い視線に気付かないなんて、脳味噌腐ってんじゃないの〜?」

日寄子ちゃんに相談した私も悪かった。
まともな答えが返ってくる訳無かったね。

「気になるなら今すぐ高速で振り向いて見なよ」

振り向いたら解るのか。
ばっと勢いよく振り向くと、丁度通りかかったような狛枝君と目が合った。
狛枝君は驚いて肩を跳ねさせ足を止めた。

「…や、やぁ」

狛枝君はぎこちなく笑って手を上げる。
明らかに怪しい。

「日寄子ちゃん、正体ってこれ?」
「そうじゃな〜い?」
「ありがと」

私が礼を言うと日寄子ちゃんはつまらなそうな顔でどこかに行ってしまった。
なので狛枝君に近付いてみた。
思ったより背が高くて、見上げてしまった。

「最近、人の視線を感じるようになったんだけど、原因は狛枝君なのかな」
「…どうだろう。僕も最近、無意識で横島さんのこと眺めてるからよく解らないや」
「うん、どう考えても狛枝君だね」

犯人は狛枝君。
無意識で本人もあまり自覚してないとかどういうこと。

「そんなに仲が良い訳でもないのにジロジロ見られるの、余り良い気分では無かったよ」
「そっか…迷惑だったかな。ごめんね」
「悪意があった訳ではないなら別に怒ったりしないけれど、どうしてそんなに見てくるの」

ここ数日、私は不安に襲われていたんだ。
少しくらい問い詰めても誰も文句は言えないはず。

「横島さんのことが気になったから…かな」
「…私が?どうして」
「僕にも解らない。見てる内にどんどん横島さんのことが気になって知りたくなって、そしたら無意識でいつも横島さんばかり見るようになっちゃったんだ」
「…いつも、ねぇ」

気になったから見る。
その気持ちは解らないでもないが、私は他の子よりも個性が無い。
そんな私の何が気になるというのだ。

「それでずっと、横島さんが一人になる機会を伺ってたんだけど、最近いつも誰かと一緒だから話しかけづらくて…」
「二人でないと駄目な用事があったの?」
「…おでかけに誘うの、人前じゃ恥ずかしいでしょ」

狛枝君は照れ臭そうに笑って、ポケットからおでかけチケットを取り出した。
友達になりたかったという事だろうか。
だったらいつだって話しかけてきてくれればよかったのに。

「僕とじゃ、嫌かな?」
「全然そんなことないよ。寧ろ嬉しいくらい」
「良かった!あんなに見つめてたのに全く気付いてくれなかったから、本当は気付きながら僕のことを嫌って無視してるのかと思ってたよ!」

あまりにも嬉しそうに笑うものだから、今まで感じていた不安なんてどうでもよくなった。
狛枝君の手からおでかけチケットを貰って歩き出した。
やっぱり狛枝君はにこにこしながら隣に並んでついてきた。

「嫌ってはいないから安心して」
「じゃあ好き?」
「極端だね。まだ狛枝君のことよく知らないから、好きでも嫌いでもない、ってとこかな」
「そっか。でも僕は横島さんのことよく見て知った結果、横島さんのこと好きだって思ったよ」

なんて、笑顔のままさらっと言ってきた。
恋愛対象なんかではなく友達として、ってのは解ってる。
解ってはいるのだが、男の子にそんなこと言われると意識してしまうのは仕方がないと思う。

「でもまだ知らないことも多いから、もっと横島さんのこと知りたいな」
「…そう。私も狛枝君のこと知りたくなっちゃった」
「へぇ!僕に興味持ってくれるなんて嬉しいなぁ!」
「私も、狛枝君に興味持ってもらえて嬉しいよ」

なんだかとても扱いにくい人のような気もするが、好感を持って貰えてるだけ良しとしよう。

「じゃあ、今度は僕を好きになってもらえるように頑張らなきゃね」
「…それ、どういう好き?」
「どんな形の好きでも、僕は嬉しいから受け止めるよ」

無邪気に笑う狛枝君だが、私は深読みしてしまう。
もし私が狛枝君のことを男の子として好きになってしまっても、受け止めてくれるということだろうか。
たぶんそこまで好きになることはないだろうけど。

「それに僕は超高校級の幸運だからね。横島さんは僕の望む形で僕を好きになってくれるって信じてるよ」
「…望む形って、どんな感じかな」
「どうだと思う?」

狛枝君は少し前屈みになって私の顔を覗きこんできた。
なんだか頭が狛枝君でいっぱいになってきて、言葉に詰まり足を止めた。

「どうしたの?」
「…なんでもない」

ただの私の考えすぎだ。
自意識過剰なだけだ。
考えすぎて顔が熱くなってきて、恥ずかしかったから逃げるように歩き出した。

「横島さんはどこに行きたい?遊園地?図書館?」
「狛枝君の行きたいとこ」
「じゃあ…図書館でも行ってお話でもしようか。今日からは堂々と横島さんのこと見れるしお話までできると思うと凄く嬉しいよ!」

この調子で嬉しいとか楽しいとか言われまくったら私はおかしくなりそうだ。
本当に、狛枝君の望む通りに好きになってしまうかもしれない。

「図書館まで手でも繋いでく?」
「遠慮します!」

今はまだ、友達として好きなだけ。