いちゃいちゃ

「日向くーん、聞いてよ〜」
「…何だよ」

相談があると言いながら日向くんを連れ出した。
もちろん、誰にも見られないようにこっそり。

「最近、狛枝くんとイチャイチャしてないの…」
「…知るかよ、そんなこと」
「そんなこと!?これはすごく重要だよ!」
「だったら俺じゃなく直接狛枝に言えばいいだろ」
「言えたら苦労しないよ…」

狛枝くんイチャイチャしましょ!とは口が避けても言えない。
直接言うなんて恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。
それに、拒絶されたらどうしようなんて考えてしまうとそんなことは言えるはずもなかった。

「どうしたら狛枝くんは私に欲情してくれるかなー」
「欲情…ま、まぁ、誘惑すればいいんじゃないか?」
「どうやって?色目使うの?裸になるの?」
「それは早いぞ!まだ高校生だぞ!?」

日向くんは頬を染めながら怒ってきた。
裸って言って想像でもしちゃったのか男子高校生よ。

「じゃあどうするの?例えば日向くんは、何されたらキュンてする?」
「…例えば、名前で呼ばれたり、上目遣いされたり、ボディタッチされたり…」
「平凡だな」
「うるさい!その平凡なことが横島はできてないんだろ?」
「うっ」

確かに、狛枝くんにあんまりデレデレしたこと無いかも。
だから狛枝くんも何もしてきてくれないのかな。
私がデレデレすればデレデレし返してくれるのかな。

「解ったよ…他には?」
「まだ聞くか…。…あいつも男子高校生だからな、普通に色仕掛けすればいいと思うぞ」
「どんな?」
「…スカート短くしたりボタン開けて露出増やしたり、というか、そこまでできれば手ぐらい握れるだろ」

エロ路線か…。
試しに膝丈のスカートを上げて太股を出し、ボタンを開けて終里ちゃんくらいにしてみた。
終里ちゃんほど立派な物は備わっていないが、目の前の日向くんを狼狽えさせる威力はあったようだ。

「これで上目遣いでデート誘われたらどうしたくなる?」

日向くんに近付いて上目遣いをしてみた。
日向くんの指示通り動いただけなのに、日向くんは照れて顔を背けてしまった。

「もうそれで良いから、早く狛枝の所に…」
「ねぇ二人とも、何してるの?」

大好きな声が聞こえてきて、ぱっと振り向いた。
絶望に染まったような顔色の悪い狛枝くんがいた。

「もしかして横島さんて本当は僕よりも日向くんのことが好きだったんだね。僕の前ではそんな格好もそんな表情もしてくれないのに…。ごめんね、邪魔して。邪魔者は大人しく自室に籠るよ」

狛枝くんは盛大な勘違いをしたまま自己完結をして帰ろうとした。
これは不味いと思い追いかけて、狛枝くんの服の袖を握った。

「何?別に日向くんと喋っててくれていいんだよ」
「私が喋りたいのは、あの、その、えっと…な、凪斗くんだよ!」
「…!」

狛枝くん、いや凪斗くんは驚いて足を止めた。

「ど、どうしたら、凪斗くんともっと仲良くなれるか、日向くんに相談してたの!」
「…僕に相談してくれればいいのに」
「本人に言うのは恥ずかしくて…」

私は服を整えようと、凪斗くんから手を離した。
すると凪斗くんはそれを阻止するかのように腕を掴んできた。

「これも色っぽくて良いと思うよ。いつもと違って新鮮だし」
「…ちょっと恥ずかしいよ」
「日向くんの前ではできて僕の前ではできないの?」
「好きな人の前で恥ずかしい格好なんてできないよ…」
「…可愛いなぁ」

凪斗くんは口許を緩ませて、私の頭を撫でてきた。
頭よりも手を握って欲しいのに。
言わなきゃ伝わらないのは解ってるけど、言うのは恥ずかしい。

「恥ずかしがり屋さんなのは良いけど、これからは日向くんじゃなくて僕のことを頼って欲しいな」
「…うん、ごめんね」
「いいよ。僕も、勝手に勘違いしちゃってごめんね」
「…あの、凪斗くんは、嫉妬してくれたのかな?」
「嫉妬?…そうだね、冗談でも日向くんにはデレるのに、僕にはそういうことしてくれないから妬いちゃった」

ってことは、デレても良いってことなのかな。
拒絶されたりしないんだよね。

「あのね、凪斗くん」
「なに?」
「…手、繋ぎたいの」

直球ってのが恥ずかしくて、顔が熱くなった。
そして言ったは良いが凪斗くんの反応が無い。
恐る恐る顔を上げてみると、すぐに視界が遮られた。
息を吸うと凪斗くんの匂いでいっぱいだった。
私は手を繋いで欲しかっただけなのに、それを飛び越えて抱き締められていた。

「なななななな…」
「そんなことだったら言ってくれたら良かったのに。そしたら喜んで握ったよ。でも気付いてあげられなくてごめんね」

凪斗くんのデレなんて今までほとんど無かったから、これが現実とはとても思えない。
夢でも見てるみたいだ。

「あ、そういえば手繋ぎたいんだったね」

なんて言ってすぐに離れてしまった。
惜しい。

「それじゃ日向くんも空気を読んで退散してくれたみたいだし、二人でデートしようか」
「…うん!」

まぁいい、抱き締めてもらえただけで収穫だ。
にやにやしてしまう。

「はい優さん、お手をどうぞ」
「なな、な、名前…」
「だって優さんが僕のこと名前で呼んでくれるのに僕は名字で呼ぶなんておかしいでしょ?」
「う…うん」
「ほら、早くしないと先行っちゃうよ?」
「わ、待って!」

私は差し出された手を急いで握った。
凪斗くんの手は大きく指も長くて、私の小さな手とは大違いだった。

「おっきぃ…」
「…そんな声でそんなこと言われるとゾクゾクしちゃうよ」
「へっ!?」
「なんでもないよ」