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「な、なんだよ」
泣く寸前の状態で日向にすがり付いたら、少し引かれた。でも今の俺にそんなことは関係ない。
「最近横島が冷たいんだけど俺はどうしたらいい!?」
「横島が冷たいのは元からだろう…。というか、横島に嫌われたからって左右田は困らないだろう?」
「お、俺、嫌われてんの!?」
余計に涙が込み上げてきた。
俺が何かしたってのか?
「それに、左右田は嫌がられるの慣れてるだろ。ソニアは言うまでもなく、小泉や西園寺にも冷たい目向けられて。七海や終里なんて関心無さそうだし、」
「やめろよォ!泣くぞ!?」
「もう泣いてるし…」
そんな現実は認めたくなかった!!
「でもよぉ、横島に嫌われることした覚え無いぞ!?」
「どうしてそんなに横島に拘るんだ?ソニアに避けられてる時は何も言わないのに」
「それは…、なんでだろう」
「わからないのかよ」
日向は心底呆れたような顔でため息をついた。そんな顔されてもわかんねーもんはわかんねーんだよ。
「じゃあもう、横島に直接聞いてこいよ。どうして冷たくするのか」
「…喋ってくれるかな」
「お前にやましい気持ちが無いなら堂々と行ってこい」
「…わかった、俺行ってくる!」
ありがとよ!と叫んで俺は横島のコテージへ向かった。確かにやましい気持ちなんて無いが、横島がしゃべってくれるかどうかは別なんだよな…。
横島の部屋のドアをノックしてみる。もう寝る前だったのか、タンクトップにショーパンという露出度の高い服装をしていて言葉につまった。
「うわ、左右田…」
「うわって何だよ。…ちょっと、話があんだけど」
「そっか。まぁ私は話なんか無いし、またねー」
ドアを閉められそうになったから急いで足を挟んでそれを阻止した。硬い安全靴を履いていて良かったと思った。
「話聞けって!」
「えー、左右田うざいからやだー」
「うっ…、い、いいから、聞いてくれよ…」
「…」
横島は不満そうにドアを開き、俺を部屋のなかに連れ込んだ。
よく見ると横島は風呂上がりなのか髪が濡れていた。部屋中横島の匂いでいっぱいで、緊張した。
「まぁ座りなよ、床に」
「…おう」
大人しく床に座らせて頂いた。なんで俺こんなに下手に出てるんだ。
横島は俺の正面にあるベッドに腰かけた。
「で、話って?」
「最近、なんで俺に冷たいんだよ」
「別に冷たくないよ?ただ、はじ…日向くんを追いかけ回してるだけでね」
はじ?はじめ?日向のこと名前で呼ぶような仲なのか?つーかよぉ、だとしたら日向、何か知ってたんじゃねーの?それなのに、なんで教えてくれなかったんだ。
「目合ってもスルーするし、レストランでもなーんか遠くの席行くし、材料集めだっていつも俺と違うとこ行くし、一緒にでかけてくれなくなったし…」
横島に冷たくされた出来事を1つずつ思い出すだけでまた泣きそうになってきた。
「だって左右田といてもつまんないんだもん」
「なっ…」
「左右田ってば近くにいると全然私のこと見てくれないし、一緒にいてもソニアちゃんの話ばっかするし、遊んでてソニアちゃん見つけると目輝かせるし、ソニアちゃんソニアちゃんうるさいし、うっ…ふぇ…」
なぜか横島は泣き出した。泣く意味もソニアさんが出てくる理由もわからなくて、とりあえず泣き止ませるために立ち上がって横島の肩に手を添えた。
「左右田、むかつくし…」
「あんまり言うと傷付くぞ…」
「傷付いてんのはこっちだもん!ここまで言っても気付いてくれないし!」
「な、何に気づけって言うんだよ、」
横島は腕でワイルドに涙を拭い、俺の手を払ってベッドの上に立ち上がった。
「私がむかついてる理由と私の気持ちについてに決まってんでしょ!」
上から女に怒鳴られるってのも初めてで、つい言葉を失ってしまう。困って視線を落とせば目の前に薄着の横島の体があって、この状況なのに綺麗な鎖骨と体のラインに見とれていた。
「この、鈍感!」
腕を思い切り引かれてバランスを崩し、ベッドに仰向けで倒れこんだ。横島はそれを見計らって、俺の上に覆い被さった。
髪から滴る水滴が俺の頬を伝う。俺を見下ろす横島の頬は赤く上気していた。
「私がどれだけ左右田一筋で張り切っても、左右田がソニアちゃんしか見ないからむかついてんだよ」
「…は?一筋?日向は?」
「ソニアちゃんソニアちゃんうるさいから、私も同じように創くん創くんってしてみた」
「お、俺寂しかったんだからな!?」
「私だって寂しかった、最初から、ずっと」
じゃあなんだ、横島はソニアさんに嫉妬してたってことか?それってなんか、横島が俺のこと好きみたいじゃ…って、えぇ?
「左右田、好きだから私のものになれ」
「命令形!?」
「左右田も寂しくって私と創くんの関係を疑ったってことは、どういうことなのかな。私と同じ気持ちだったりするのかな」
同じ気持ち?好き、ってことか?俺が、横島を?
「そういうことだったのか!!」
「え…」
「やっとスッキリした!好きだ!だからお前に避けられた時だけこんなに気になったのか!」
霧が晴れるような気分で嬉しくて、思わず横島を抱き締めた。良い匂いと共にした柔らかい感触のおかげで、頭が覚醒した。
「わ、悪い!」
すぐに腕を緩めて横島をベッドに転がした。ベッドで横になっている女子というのがこんなにそそるものだとは思わなくて、生唾を飲み込んだ。
「…ヘタレチキン」
「だ、だったらお前、今のまま抱き締めてても良かったとでも言うのかよ」
「…そうだよ」
横島は挑発的に笑って俺に抱きついてきた。押し付けられる柔らかい感触というかもう手も足も全体的に柔らかかった。女子の体ってこんなに男と違うのか。
「冷たくしてごめんね」
「い、いや…俺こそ、ごめん」
下心全開で横島を抱き締めると、テンションが異様に上がってきた。
「…左右田、脈が速いけど大丈夫?」
「だだだだ大丈夫だ」
そんなテンションでもこれ以上に手を出すことができないから、やっぱり俺はヘタレチキンなんだと自覚した。
しばらくは、ここまでの関係が続きそうだ。
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