爽やかイケメン

「あっ、左右田くん!おはよう!」
「お、おはよっす…」

最近、隣の席の横島とかいうやつによく絡まれるようになった。あ

「今日も可愛いね!ところでいつになったら電話番号教えてくれるの?」
「うっせ!可愛いなんて言われても嬉しくねーっての!」
「そんな謙遜しないでよ。それに今日はね、教えてくれないなら教えておこうと思って、これ」

横島は電話番号とメアドの書かれた紙を手渡してきた。

「いつでも連絡していいからね。左右田くんに呼び出されたら何時でも駆け付けるよ」
「あーはいはい」

その紙をポケットに入れて席に着くが、横島はまだ俺の方を向いている。

「…んだよ」
「いや、やっぱり可愛いなって思ってね。どうやったら笑わせられるか考えてたの」
「お前がそのチャラ男みてぇなテンションで話しかけてくる限りは笑わねぇよ」
「私はチャラくないし男でもないよ」

可愛いね!連絡先教えてよ!なんてチャラい奴かイケメンしか言えねぇだろ。

「こんなこと左右田くんにしか言ってないっていうのに」

だとしたらチャラいという訳ではないな。
んな判断したらイケメンに分類されることになる。
確かに良い顔ではあるが女にイケメンとか言うのは何かおかしい。

「ねぇ左右田くん、名前で呼んでもいいかな?」
「あぁ!?なんでだよ」
「もっと君と仲良くなりたくて」

横島はそう言い爽やかに笑う。
そのイケメンスマイルをやめろ。

「だめ…かな?」

良いとも悪いとも言わずに黙っていたら、横島は不安そうな顔で聞いてきた。
弱々しい女みたいな顔を見せられ、不覚にもドキッとした。

「勝手にしろよ…」
「良かった!和一くんも私のこと名前で呼んでいいんだよ」
「誰が名前で呼ぶか」
「照れなくてもいいんだぞっ」

つん、と頬をつつかれる。
噛んでやろうかと思ったが、さすがに女子の指を噛むなんて正気の沙汰じゃない。

「ねぇ和一くんはさ、好きな子いる?」
「あ!?…関係ねぇだろ」
「その反応はいるんだね?誰?クラスの子?」
「うっせ!誰でもいいだろ!つーかよぉ、知りてぇならそういうのはお前が先に言うべきなんじゃねぇの!?」

なんとか話の矛先を俺から反らす。
横島はなに食わぬ顔で、答えた。

「和一くんだよ」
「…は?」
「私の好きな子」

横島はにこっと笑ってくる。
周りを確認するが、他の奴らはそれぞれの会話に夢中で今のは誰にも聞かれていなかったらしい。
よかった。

「お、お前、マジで?本気で言ってんのかよ?」
「そうだよ。ほら、今度は和一くんが答える番だよ。どうなのさ?」

横島の表情が少しだけ曇る。
俺がどう答えるか不安なんだろう。

「俺は…」

横島が真剣に俺を見つめてくる。
そのせいで余計にドキドキして言葉が詰まった。
そして思い出す。
ここが教室だということを。

「こんなとこで言えるかよぉぉぉ!!!」
「あっ、待って和一くん!」

途端に恥ずかしくなって教室を飛び出した。
教室じゃなくたって、チキンな俺が言葉にして言えるわけがない。
最初は鬱陶しかったのに気付いたら惚れてたとか、どこの少女漫画だよふざけんな。

「えいっ」
「うわっ」

タックルされてぶっ倒れた。
床は流石に固くて痛かった。

「和一くん…男らしくないよ、逃げるなんて…」

横島の声にいつもの明るさが無くて、体を起こして振り返ったら目を潤ませて頬を赤くしていて、今にも泣きそうだった。

「ちょ、おい、えっと…とにかく来い!」

こんな廊下の真ん中で泣かれるのも困るし誤解を受けてしまう。
横島の腕を掴んで歩きだし、近くにあった図書室に入った。
朝のホームルーム直前にこんな場所に人がいる訳もなく、二人きりになれた。

「…和一くん?」

横島は潤んだ瞳で俺を見上げる。
頬も赤いままだし、可愛すぎてクラクラした。

「おおおお教えてやるよ、お、おお、俺の、すす好きな奴」
「…うん」

心臓が口から出そうなくらいドキドキする。
割りとマジで吐きそうだ。

「…横島」
「うん」
「…好きだ」

恥ずかしくなって、顔を覆い隠してしゃがんだ。
すると、横島もしゃがんできて、俺の頭を撫でてきた。

「ありがとう和一くん、すごく嬉しい…惚れ直しちゃったよ」

横島の声は、いつものような明るさが戻っていた。

「ねぇ、顔あげてよ。和一くんの顔、もっとちゃんと見せて」
「う、うるせーよ…」

頬に手をやられて無理やり顔を上げさせられた。
横島は恍惚とした表情で生唾を飲み込んだ。

「和一くんの照れた顔見るの初めて…すごく可愛いよ…。あ、両思いってことは、彼女とか彼氏とか、そういう感じでいいのかな?」
「いいんじゃねーの…つか、あんまり可愛い可愛い言うな…」
「どうして?和一くんはこんなにも可愛いんだから、可愛いうちに可愛いって言わなきゃもったいないでしょ?」
「お、お前のが、可愛いから…」

ぼそっと呟いたら横島は目を丸くして驚いて、顔を真っ赤にさせた。

「…和一くん」
「んだよ…」
「ありがと」

横島は照れ臭そうに微笑んで抱きついてきた。

「おい、そろそろ戻んねーと…」

恥ずかしさのあまり耐えられなくなって止めさせようとしたのだが、鐘が鳴り響いた。
ホームルームが始まってしまい、戻るに戻れなくなってしまった。

「もうちょっとだけ、このまま…」
「…一限始まる前には戻るからな」

満更でも無いと思いつつ横島を抱き締め、あともう少しだけ続く幸せを噛み締めることにした。