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ちょっとだけドキドキしながら、本人ではなく日向に聞いてみた。
案の定、返ってきたのは間の抜けた声だった。
「はあ?大丈夫か?」
「いや、だってよぉ!アイツいっつも俺のこと見てんだって!すっげー目合うし!」
「お前の顔になんかついてたんじゃないのか」
「俺の顔はいつでも綺麗だよ!しかも、目合ってもアイツ目そらさないでずっとそのままだし」
普通なら目が合ったらそらすよな。
ガン見とか普通じゃないもんな。
「俺にはソニアさんがいるってのに、モテるって辛いなー」
「そういうことはソニアに好かれてから言えって…」
「好かれてるだろ!?」
「…まぁそれはおいといて、気になるなら横島に直接聞いてみろよ」
「俺が?」
「じゃあ誰が聞くんだよ。俺は嫌だぞ?」
日向に期待した俺が馬鹿だった。
こうなったら自分で行ってやる。
「今日は図書館に行くって言ってたから、行けば多分会えると思うぞ」
「おっ、そうか。じゃあ行ってくるぜ、へへへっ」
俺は小走りで図書館へと向かった。
特に何の考えも無いままで。
図書館の扉を開けると、横島が一人で本を読んでいるのが確認できた。
他のやつらは居ないらしい。
まぁこんな南国の島に来てわざわざ本を読みに来るやつは少ないだろう。
「よぉ、今暇か?」
「本読んでるから暇じゃないけど、何か用だった?」
「いや、ちょっと横島と話がしたくて」
この言い方じゃ俺が横島に気があるみたいじゃねーか。
しまったと思ったが、横島は本を閉じた。
「そこ座ったら?他の人いないし、喋ってても迷惑じゃないでしょ」
「そ、そうだな」
言われるがままに横島の向かい側に腰掛ける。
なぜか俺の心臓はドキドキしていた。
恐らくここまで軽く走ってきたからだろう。
運動不足なのかもしれない。
「それ、何の本読んでたんだ?」
「推理小説だよ。今まさに謎を解くところだったのに、誰かさんに邪魔されちゃってさー。ねぇ?」
「わ、悪かったな…」
こいつこういう本読むのか。
つーか、普通の小説だったら帰ってから読めるのに、ここまで来て読むほどなのか?
「外で遊ばねーの?」
「暑いし焼けるし、お外嫌い…」
お外とか子供みたいな言い方しやがって可愛いな。
…可愛いって何だ、馬鹿か俺は。
「…つーか、横島さ、なんでそんなにガン見してくんだよ」
「え?」
さっきから話してる間もほとんど俺の目を真っ直ぐ見てきやがる。
人の目を見て話しなさい、とは言うが、いくらなんでも見すぎだ。
「左右田くんの歯すっごいギザギザで面白いし、髪の毛ピンクで可愛いし、目までピンクですっごい可愛いと思って」
「…歯は生まれつきだし」
「歯だけ?」
「そりゃーな。髪と目まで生まれつきピンクとかどこの国に居るんだよ」
何だよ何だよ、じろじろ見てきたのはそんな理由かよ。
脈有りとかそういうことじゃなかったのかよ。
「髪は染めたとして…目はカラコン?ピンクのカラコンとかあるんだね。ちょっと見せて」
「は?」
横島は机に身を乗り出して、俺の目を、カラコンを観察し始めた。
すっげー近距離で見つめられて、緊張した。
横島が見たいのはカラコンな訳だから目をそらす訳にもいかず、しばらく見つめあったままだった。
耐えきれなくて視線を下ろしたら、前屈みの横島の胸元がはっきり見えてしまった。
「あ、ごめん。見すぎたね」
横島は元通り椅子に座ったので胸元は見えなくなったが、俺の顔を見て首を傾げた。
「顔赤いけど…照れたの?」
「か、勘違いすんな!照れてなんかいねーよ!」
「じゃあなんで?」
谷間に興奮したとかそんなこと言える訳がない。
だがここで照れたことを認めたら、勘違いされてしまう。
「でも照れてる左右田くん、ほっぺまでピンクになってすっごい可愛いね」
「可愛い可愛い言うなっつーの」
「あ、そっか。男子だから可愛いなんて言われても嬉しくないか」
横島はフフッと笑うが、その表情になぜかドキッとしてしまう。
さっきから何かがおかしい。
ドキドキしたり、照れさせられたり、脈なしだと解ってガッカリしたり。
「今までも、俺のこと見てたのはそういう理由かよ」
「だいたいそうだけど…だけど、ていうか、逆でしょ。左右田くんが私のこと見てきたんじゃん」
「…は!?」
「だって、周り見渡すと左右田くんとよく目合うし。それに目が合うと左右田くん何か言いたそうにずっと見てくるんだもん。何か私に言いたいことでもあったの?」
そんな馬鹿な。
俺はずっとソニアさんを見てたはずだ。
はずだけど、よく考えたら最近ソニアさんより横島に目が行ってる気もする。
「俺じゃねーし!」
「は?」
「俺じゃなくて、横島が見てくるんだろ!?お前の視線に俺がどんだけ悩まされたと思ってんだ!」
「…悩んでたの?」
「そーだよ!」
「それで私のことじろじろ見てきたの?」
「そーだよ!…ちげぇよ!だから、俺じゃなくてお前が…」
混乱していたら、横島が声をあげて笑いだした。
その笑顔がまた可愛くて、俺の心を締め付けた。
「左右田くん、私に気があるのかな?」
「…っ、ちげぇよ」
すぐに否定ができなくて、また笑われてしまった。
「ば、馬鹿にすんな」
「あ、ごめんね。馬鹿にしてる訳じゃないんだ。ただね、左右田くんが可愛くて可愛くて…ふふっ」
「…馬鹿にしてんじゃねーか」
横島に気があるなんてことに否定ができなかったのと、馬鹿にされても悪くないなんて思ってしまう自分が不思議で仕方がなかった。
「…帰る」
このまま横島と話していたら頭がおかしくなりそうで、席を立って急いで図書館から出た。
すると横島が追いかけてきて、俺の隣を歩き出した。
「お外は嫌いなんじゃなかったのか?」
「暑くて焼けるのは嫌だけど、そんなの気にならないくらい面白くて可愛いもの見つけちゃったから、ね」
「…そうかよ」
「それとね、左右田くん。私いま好きな人いないから狙い目だよ」
横島は楽しそうに微笑みながらそんなことを言ってきた。
いつもはこんなにニコニコしてないくせに、突然色んな顔見せて来やがって。
俺が惚れたらどう責任とってくれるんだ。
「ねぇ左右田くん、私もっと左右田くんとお話したいんだけど。二人でゆっくり話せる場所行きたいな」
「…図書館戻るか?」
「左右田くんの部屋がいいなぁ」
「……お前やっぱ俺のこと好きだろ!?」
「ふふっ、どうだろうね?でも左右田くん可愛いから好きだよ。左右田くんは私のこと好き?」
明らかに恋愛感情の含まれていない「好き」なのに、俺の顔は熱くなる。
悔しいけど気付かされてしまった。
俺が横島をいつも見ていた理由に。
「好きじゃねーし!」
「そんな真っ赤な顔で言われてもね」
悔しいから、そう簡単には認めない。
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