嘘から出た実

「なぁ、オメーそんなに忙しそうに誰とメールしてんだよ」

授業中にも休憩時間にも昼休みにも、隣の女子はほとんどの時間に携帯をいじってやがった。
そのおかげで横顔やら何やら盗み見れたけど、さすがに気になって聞いてみた。

「誰だと思う?」
「彼氏とか?」

違うといいなぁ、とか思いつつ言ってみると、横島はまた携帯をいじりだす。
話してる最中にふざけんなと思ったが、一枚の画像を開いて俺に見せつけてきた。

「…かっ、か、彼氏?」
「かっこいいでしょ。毎日メールしてくるから返事してあげてんの。まぁ、他にも後輩の男の子からのメールもあるし、そっちとも連絡とってあげてんだけどね」
「…モテるんだな」
「そう?いい迷惑だけど」
「そう言いつつ返事してやってんだろ?」
「まぁね、返事しないとめっちゃ電話かけてくるもん」

はぁ、とため息をつきながら携帯をポケットにしまう。
モテる女は辛いんだな、うらやましい限りだぜちくしょう。

「超うざいんだよ。今何してる?とか、男と喋ってないだろうな?とか、寂しいとか会いたいとか震えるとか、女々しいっての。左右田も彼女にそんな女々しいこと言わないだろうね?」
「い、言わねーよ。ってか、彼女なんかいねーっての!のろけんな!」
「へぇ、意外。女の子なら誰でも良さそうな顔してるのに。あ、誰でも良いから特定の彼女を作らないのか」
「誰かさんと違ってモテねーだけだよ…!」

久しぶりに喋れたのになんでこんなに虚しい思いしなきゃならんのだ。
自分で言ってて悲しくなる。

「ていうか、好きな子がいるとかじゃないの?」
「……いねーよ!」
「うわ、わかりやす」

クスクスと笑う姿が可愛くてきゅんとする。
携帯ばっかいじってたまにしか喋れないせいで、横島の色んな顔を見るのも久々だ。

「そんな左右田に相談なんだけど、彼氏できたってお兄ちゃんに言っちゃったから、ちょっと写真撮らせてくんない?」

そう言いながらまた携帯を取り出した。
そしてカメラ起動でもするのかと思いきや、またさっきのイケメンの写真を見せてきた。

「…あ?」
「あ、これお兄ちゃんね。さっき言った通り毎日の連絡がうざくてたまんないから、彼氏できたって嘘ついたの」
「ま、マジかよ…。ってか、彼氏いないのか?」
「いないよ。左右田と一緒で好きな子いるもん」
「は!?マジかよ!?」

彼氏いないと思って浮かれたのに、好きな奴いるならどうしようもねーじゃん。
期待させんじゃねーよ…。
ちょっとへこんでいたら、シャッター音が聞こえてハッとする。
横島がにやにやしながら携帯をこっちに向けていた。

「てめっ、」
「何か文句ある?あるとしても聞きたくないから、私の写真撮るくらいの仕返しならしてもいいよ」
「い、いらねーよ!」
「そんな意地張って後悔してもしらないよ。せっかく左右田の好きな子が写真の許可出してんのに…」
「待て待て待て、好きな子とか何勝手なこと言って、」
「違うの?私が携帯いじってるときいつも私のこと眺めてるくせに。バレバレなんだよ」

反論したいのに、バレていたとあっては何も言えない。
好きだから眺めてたなんて、まさにその通りだ。

「私も左右田好きだから、焦って否定しなくてもいいよ」
「……は?」
「あとさ、さすがの私もお兄ちゃんに嘘つくの罪悪感があるから、本当に彼氏になってくれると助かるなぁ」
「…いや、いやいや、そんな旨い話があってたまるかってんだ…」
「信じてくれないんだ?」

横島はつまらなそうに首をかしげる。
信じたい、でも信じて裏切られたら、 そう思うだけで何も言えなくなる。

「じゃあすぐにとは言わないから、少しずつ私のこと知ってよ。それで私のこと信じられるようになったら、もっと左右田の心の中を見せて?私、待ってるから」

急かさないで一定の距離を保って接してくれるおかげで気が楽になる。

「私が可愛いのは解るけど、見た目だけじゃなくて中身もちゃーんと好きになってね」
「どっからその自信が出てくんだ…」
「左右田の熱い視線から」
「そ、そんなの送ってねぇよ!」
「じゃあ無意識なの?やだ、照れちゃう」

人を信じることなんてもうできないと思っていたけど、横島のためにそんなトラウマ克服してやる。
きっとすぐにはできないけど、横島が痺れを切らさないうちに、きっと…