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モノクマのやつ、変な病気流行らせやがって。
おかげでこんなボロいモーテルに泊まることになったし、自分の部屋じゃないから落ち着かない。
それにいつ自分がかかるか解らないから油断もできない。
「左右田、起きてる?」
「横島?」
もう夜時間の真っ最中だってのに、部屋の外から聞こえる横島の声。
こんな状況で寝れないのも無理ないか。
「ちょっと話があるんだけど」
「…なんかこえぇよ」
「いいから開けてよ」
「なんで」
「話があるんだけど」
淡々と喋る横島にどことなく恐怖を感じる。
愛想がないのはいつものことだから、単に俺がビビっているだけかもしれないが、怖いものは怖い。
死んだときの保険のために、メモ用紙に0時横島が部屋に来たと書いてベッドの下に置いといた。
「何の用だよ」
ポケットにドライバーが入っているのを確認しつつ扉を開けると、いつも通り愛想がない横島がいた。
「寝れないから相手して」
「いいけど……話って何だよ」
横島が手ぶらなことを確認してから部屋に招き入れてやった。
「話なんか無いよ」
「は?」
「用が無いと…会いに来ちゃだめなの?」
ドキリとする台詞を言われるが、無愛想が全てを台無しにしていた。
もっと照れながら言ってくれれば俺も喜ぶのに。
「左右田に会いたかったっていう理由なら、おっけー?」
「……は!?」
「左右田のこと考えてたら寝れなくなっちゃって、会いたくなっちゃった」
「ななな、何言ってんだ!?」
頬一つ染めずに真顔でそんなことを言いやがる。
バカにしてんのか、これがこいつのスタイルなのか、判断がつかない。
「でも左右田に会ったら、ドキドキして余計に眠気が消えちゃったよ」
「あぁそうかよ!?それはよかったな!!」
「よくないよ、私はイイコだから寝なきゃいけないのに寝れないじゃん」
「じゃあさっさと部屋戻って寝ろ!!」
「……一人じゃ怖くて眠れないよ」
いつになく頭のおかしいことを言う横島を追い返そうと思ったが、怖いと言いながら泣きそうな顔をしやがった。
いつも感情をあまり出さないくせに、今日に限って何なんだよ。
「だから、一緒に寝よ?」
「オメー俺がヘタレだからってバカにしてんのか…!」
「左右田は優しくて責任感のある奴だって信じてるからお願いしてるんだよ」
何をもってそんなことを言えるのか。
この生活が始まってから適当に生きているだけなのに、どうして。
「でも、左右田になら何されてもいいよ」
「……じゃあ殺されても文句無いか?」
「……私のこと、殺したいの?私、邪魔?左右田にとって…いらない子?左右田は、ソニアさえ居れば嬉しい?」
「そんなこと言ってねぇだろ……つーかマジでどうしたんだよ。今日なんかおかしいぞ?」
どっかで頭でも打ったんじゃないかと心配になるくらい、様子がおかしい。
今だって情けない顔をしながら俺を見つめてきやがるし。
「寂しいから、左右田と一緒に居たいの」
「…七海のとこにでも行けばいいだろ」
「左右田がいい。左右田じゃなきゃやだ。むしろ左右田以外どうでもいい。左右田がいてくれれば何でもいい。左右田が欲しい。左右田が」
「待て!ストップ!怖い!新手のヤンデレか!?病んでんのか!?」
ん?病んでる?
「待たない!私は左右田が好き!」
「解ったお前絶望病かかってるだろ!…てか今何言った!?左右田が、何!?は!?」
判明した2つの事実の衝撃が大きすぎて固まったら、すぐさま横島が抱きついてきた。
密接する横島の身体は熱を帯びていて、どう考えても病人の体温だった。
「聞こえないなら何回でも言う。左右田が好き。大好き。いつも見てた。左右田がソニアを見てるとこも全部見てた。寂しかった。辛かった。でも今左右田に触れて嬉しい。幸せ。大好き。離れたくない。離したくない。一生こうしていたい。ソニアに渡したくない。ずっと私といてほしい」
「あわわわわ……おま、お前、熱あるし、冷静になろうな?寝た方がいいぞ?」
「一緒に?」
「そ、それはちょっと……」
「じゃあ寝ない。朝までこのままでいる」
熱が出て病んでヤンデレになって?
本来のヤンデレよりはマシだけど、マジで病みながらデレられても病気うつりそうで怖い。
「よし、まずは話し合おう、な?だからいっぺん離れてくれ!」
横島の熱い肩を持って離れさせるが、顔を見てギョッとした。
頬を真っ赤に染めて、湿度100%な眼から涙をぼろぼろと溢していた。
「ほんとに、好きなんだよ……」
そんな色っぽい顔でそんなこと言われたら、さすがの俺でも可愛いと言わざるを得ない。
たとえこれが絶望病のせいで、狛枝の野郎と一緒で嘘を言ってるだけだとしても、手を出してしまいそうになる。
「左右田……」
「……オメー、俺の気持ちは聞かねぇのかよ?」
「ソニアが好きって言われたら悲しいから、聞きたくない。それに左右田は優しいから、そんなこと聞いたら困るでしょ?私が悲しむの解るから、悩むでしょ?左右田を困らせるのは目的じゃない。だから聞かない。左右田と居られるだけで幸せだから、返事なんかいらない」
本当に優しいのは横島だろ。
好きな奴の気持ち考えて自嘲するとか、俺にはできねーわ。
だからソニアさんにドン引かれてるわけだし。
やべ、悲しくなってきた。
「だから……何も言わなくていいから、今は、一緒にいてほしい……」
横島はそう言いながら、へなへなと座り込んだ。
「お、おいっ!」
これでも病気には違いないらしく、額に触るとだいぶ熱くて、汗で湿っていた。
こんな状態の横島を一人部屋に戻すのも危険だと思い、俺のベッドに寝かせることにした。
動けそうになかったから、やむを得ずお姫様抱っこをしてベッドの上に運んだのだが、想像以上に重かった。
イケメンはこれを軽々しくやるから滅んでしまえばいい。
「ごめんね、ありがと、大好き……」
「おおう…」
女子の火照った顔はどうも慣れることができなくて、俺までつられて赤くなる。
赤面している場合じゃないと自分に言い聞かせ、タオルを濡らして横島の額にのせてやった。
「……一緒に寝よ?」
「まだ言ってんのか……」
「左右田は、優しいから……こんな私を、一人にするわけないし、この部屋に居てくれるんでしょ?」
「……そうだけど」
「一緒に寝てくれたら……私、よくなるから、ね?」
こんなデレデレでいてくれるなら治らなくてもいいとは思ったけど、弱った女の頼みごとを聞いてやれないほど俺の器は小さくない。
それにもう、空気感染するんなら俺はもう手遅れだろうし。
「お、俺に変なことすんじゃねーぞ?」
「……誘ってるの?それなら、私、がんばる……」
「いやいや、誘ってないです!がんばらなくていいから寝てください!」
「はーい……」
誘ってんのはお前の方だろとは言えずに横島の横に寝転がる。
女子と添い寝とか、この修学旅行素晴らしすぎる。
「おやすみのちゅー、する?」
「……そういうことは治ってから言え!」
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