捨て身

※胸くそ注意





「あれぇ、和一元気無いねぇ?」

絶望の蔓延る街の片隅で、青ざめている和一を見付けた。街中を彷徨かれると探すのが大変で、発信器を使うしかなくなってしまうから罪悪感を覚えてしまう。

「もうバラすもの無いから暇なの?」

和一の横には解体された自動販売機があり、中に入っていたであろうペットボトルがあたりに散乱していた。

「それとも、天涯孤独にさせられちゃって、哀しみにうちひしがれてるのぉ?」
「っ…」

和一は盾子ちゃんの罠にはまって、自らが造り出した機械で家族を殺されてしまった。まさかそんな使われ方をされるとは和一も思っていなかったらしく、孤独になった和一は自殺をしようとしていた。
そんな風に絶望して孤独しか感じられない和一の、弱った心に漬け込んでこの世にとどまらせたのはこの私だ。それと、和一が密かに惚れていた王女ソニアの存在だ。

「そんなに絶望に染まった顔されると、興奮しちゃうよぉ。もっと楽しく生きようよ?ソニアの話でもする?」
「……もういい、何も聞きたくない」
「でも私が来てくれて、嬉しかったでしょ?独りは寂しかったんでしょ?もしかして、話さなくていいからただ傍にいてほしいって?だとしても、おしゃべり好きだから私は黙れないよ」
「……」

油で黒く汚れた和一の頬を撫でる。和一は虚ろな瞳を私に向けてはくれなかった。

「ここに来るときね、ソニア見かけたよ」
「ソニアさん、まだ生きて…」

和一は嬉しかったのか、表情に少しだけ生気が宿る。彼女でも無いしただ片想いしてるだけの女が生きていたというだけで、どうしてここまで現世に踏みとどまるのか。

「聞いた話だけど、ソニアって未婚の王女なのに処女じゃないんだってねぇ」
「……は?」
「なんかー、血も出ないし普通によがってたって。びっくりだよねぇ」
「ど、どういうことだよ…」
「え?もしかして和一、えっちな話だから興味津々?」

青ざめる和一の顔を近くで見たくて顔を近付ける。ピンクの瞳が可愛くてうっとりする。

「盾子ちゃんの作った世界のおかげで、みんな本能でやりたいことやってるじゃん?でもでも、ソニアは世界がこうなる前から非処女だったんだってー」
「……だ、だから、そんなの、誰に聞いたんだよ」
「ソニア本人が言ってたって、この人が言ってたよ」

私はさっきスマホで撮影した動画を和一に見せつける。和一の目が釘付けになるそのスマホからは、ベッドの軋む音や矯声が流れていた。

「あは、ごめーん。この人って言うのは、この男の方ね。楽しそうだよねー」

好きな子のベッドシーンを見せつけられて、和一は泣きそうになっていた。その表情が可愛くて、私は和一の頬に唇を寄せた。

「残念だったね、和一。好きな子の初めての相手になれなくて。ソニアが和一のこと好きでいてくれたら、こんな風に触らせてもらえたのにね」

和一の手を掴んで私の胸を触らせる。和一は驚いてスマホから私へと視線を移した。

「私の骨格が和一の好みかどうか、確かめてみない?全身隈無く、触っていいから、ね?」

未だに終わらない動画が流れ続けるスマホを地面に置いて、服のボタンを外していく。

「まだ誰にも汚されてないから、綺麗だよ。和一にだけ、見せてあげるし触らせてあげるよ」

和一に唇を合わせれば、次第に和一もその気になってくれたのか、ゴツゴツした手が私の体を触り始めた。
屋外で盛るなんて、恥ずかしい。だけど人に見られるかもしれないというスリルもまた嫌じゃなかった。

「和一は独りじゃないからね。いつまでも私が一緒に…んっ、いてあげる、から」

動画をチラ見して参考にしながら和一の服をはだけさせていく。がり勉のくせにメカニックだから意外と筋肉がついていて、見てるこっちが恥ずかしくなる。

「ずっと、ずっと一緒だよ……死にたくなったら、私が和一を殺して、私も死んであげるからね」

ソニアじゃなくて私に体を許してくれて、和一を独り占めできている今が素晴らしすぎる。これも全部盾子ちゃんのおかげ。

「和一…」

和一の鋭い歯が私の肌に傷をつける。痛いけどそれさえも嬉しくて、もっともっと傷付けて欲しくなる。

「ね、和一、楽しい?うれしい?」
「…おう」

和一が私で喜んでくれるなんて、私も嬉しい。和一が嬉しいなら私はちょっとくらい痛いのなんて平気だよ。全部全部和一にあげるために、和一をこの状況に追いやったんだからね。私が和一を痛くて辛い思いさせてきた代償と思えば、痛いのも辛いのも受け止めるからね。

「か、かず、ああぁっ」

コンクリートの上でこんなことしたら背中が痛いよ。下敷きになっている私の希望ヶ峰の制服、破れちゃうよ。

「あ、うぅ……和一ぃ、名前、呼んで」

私が喋ってばっかりで、最近和一の声あんまり聞いてなかった。もっと私の話に答えてよ。何でもいいから話しかけてよ。

「あっ……ソニア、さんっ……」

ねぇ和一、私の大好きな声でそんな名前呼ばないで。いま和一と繋がってるのはそいつじゃなくて私だよ。
ねぇ盾子ちゃん、私は何か間違えた?こうしたら和一は私だけを見てくれるんじゃなかったの?それともこれが、盾子ちゃんが私に与える絶望なの?

「気持ち、い……」

やめてよ和一、私の覚悟を無駄にしないでよ。あいつの代わりなんかとして扱わないでよ。どうして目の前にいる私を見てくれないの。私はここにいるんだよ。私を独りにしないでよ。