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「左右田、何ぼーっとしてんの?」
「え?い、いや、なんでもねーよ!」
友達だった頃から、何度も寄宿舎のお互いの個室を行き来していた。恋人になってからもそれは変わらず、友達のときと同じようにお互いの部屋を訪れて、課題を片付けたり、しょーもない話をしたり、それだけで時間が過ぎて早3ヶ月。俺は少し、物足りなくなっていた。
「課題飽きたしゲームでもする?」
「あー、そうだな」
友達だった頃のいつものパターンから抜けられず、恋人らしい雰囲気に持ち込むことも、恋人らしい雰囲気というものを理解することもできなかった。
俺は悶々としながらテレビをつけて慣れた手つきでゲームの準備をする。横島と横に並んで液晶画面を見つめるこの時間は好きだった。
「今日の左右田ぼーっとしてるし、勝負しよっか」
「勝負?」
「勝つ気しかしないし、負けたら罰ゲームね!」
「んだよそれ、俺だって負けねーぞ」
「ほんとー?負けたら、私の言うこと聞いてね?」
「上等じゃねーか、俺が勝っても文句言うなよ!」
横島はたまにこういうことを言う。そして俺が負けると、横島は俺の課題を丸写ししたり、昼飯をおごらされたり、肩を揉まされたりと、子分みたいな扱いをされる。
対戦が始まると横島は楽しそうに笑って画面に集中する。今日こそは俺が勝ってやる、と意気込むが横島は普段七海とゲームをしまくっているせいか、なかなか強い。
「なぁ横島」
「なに?」
「俺が勝ったらキスさせろ」
「はぁ!?」
横島は動揺したらしく、操作キャラの動きが止まって攻撃の嵐も止んだ。しめたと思って一気に畳み掛ければ、横島のキャラは無惨にも敗北した。
「ずるい!!今のはずるい!!実力じゃない!」
「俺が勝ったのは事実だろ!」
「そそ、そーだけど!でも!」
喚く横島にちょっとだけイラついて、コントローラーを手離して横島の肩を掴んだ。
「…いい加減、いいだろ。付き合ってんだからよ」
恥ずかしいけどちょっと真剣に言ってみれば、横島の顔がだんだん赤く染まっていった。そうだよ、その顔が見たかったんだ。
「…一回だけだよ?」
横島は弱々しく眉を下げ、大人しく目を瞑った。いつになくしおらしい横島が可愛くて、自分の心臓が騒いでいるのがよくわかる。ここまできたらやるしかなくて、俺は意を決してゆっくりと顔を近付けた。横島の綺麗な形の唇に、ほんの一瞬だけ自分のを触れさせた。たかだか一瞬の出来事なのに、顔で茶が沸かせそうなくらい熱くなった。
同じく真っ赤な顔の横島と目が合うが、なんとなく目をそらしてしまう。
「…案外、簡単だったな」
「…そうだね」
強がって言ってみれば、横島も負けじと返事をしてきた。何も簡単じゃねーよ。手は震えるし、心臓は爆発しそうだっての。
「…嬉しいよ」
「は?」
「左右田からしてくれて、すごい嬉しい。友達の頃と全然変わんないから、そんなに好きじゃないのかと思ってた」
「す…好きだから付き合ってんだよ!ばか!」
「ば、ばかじゃないし!ばか!」
嬉しいと言われ、めちゃくちゃほっとした。恋人なんだから、キスくらいしてもよかったんだよな。安心した。
「…私からも、していい?」
「!?お…おう、」
横島は可愛いことを言って顔を近付けてきた。目線に困って目をつぶれば、少ししてから唇に柔らかい衝撃が与えられた。くせになりそうなその感触も一瞬で離れてしまい、目を開けると物欲しそうな目の横島の顔があった。
「…」
一度や二度じゃ俺も全然足りなくて、今度は何も言わずに顔を近付けた。横島は俺の行動を察したのか目を瞑ってくれた。さっきよりも少し長く触れあって、唇の感触を確かめる。馬鹿の一つ覚えみたいに、唇を離しつつ少しずつ角度を変えて何度も唇を重ねてみた。五回か六回ほど繰り返したところで、弱い力で胸元を押された。
「あー…、わ、悪い」
相手がいてこそのキスなのに、横島のことをあまり考えていなかった。恥ずかしかったせいか、目を潤ませて泣きそうになっていた。
「ば、ばか…」
「…しゃーねぇだろ」
可愛くて我慢できなかった、とまでは口にすることができなくて気まずくなる。
「…もう、満足したから、ゲームに戻ろ」
「お、う」
ドキドキしたまま横島から液晶画面へと視線を戻す。正直なところ、俺は満足なんかできていないし、俺に恋愛経験さえあればもっと色々したいくらいだった。けどこれ以上どうしたらいいのかも解らなくて、言われるがままにコントローラーを握ってまたゲームが開始された。
「今日はもう…罰ゲーム無しね」
今日は、ということはまた次回があるのだろうか。そんな期待ばかりして上の空になっていたら対戦で全然本気を出せなくて、いつしかいつもの調子に戻っていた横島に怒られた。どんなに怒ってても俺のこと大好きなんだよな、と思うと笑えてきて、更に怒られてゲームどころではなくなってしまった。
「な、ほら、キスしてやるから許せって、」
「左右田がしたいだけでしょ!」
「んだよ、悪いかよ!」
「わっ…悪い!」
「じゃあもうしてやんねーぞ!」
「…っ、それもだめ!ばか!」
むきになる横島も可愛くて笑っていたら、横島も怒る気力が失せたのか笑ってくれた。
「もーいいや、ばかな左右田に怒ってても疲れるだけだし」
「それに笑った方が可愛いしな」
「…ばか」
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