いつかきっと

「左右田くん、一人で何してんの?」

ソニアさんに誘いを断られ、日向は七海とおでかけで、一人で哀しみに暮れていたところだ。なんて素直に言いたくなくて黙っていたら、俺の座っているベンチの空いているところに横島は腰かけた。

「ソニアちゃんとデートしなくていいの?」
「うっせ、できたらしてるよ」
「ははは」

笑い事じゃねえってのに、横島は笑いやがる。一人で落ち込むよりはマシだと自分に言い聞かせ、怒るのはやめた。

「私が代わりに遊んであげようか?」
「…いい。一人になりたい」
「えー、つまんない。遊ぼうよ。私も振られて暇なんだよ」
「振られたって…誰にだよ」
「日向くん」

横島は困ったように笑った。日向も罪な男だな。七海とデートするために横島の誘いを断るだなんて。

「ね、だから可哀想な私とデートしようよ。二人で傷を舐め合おうよ」
「俺は振られてねーし傷付いてねーよ。たまたま、ソニアさんに別の用事があったってだけだ」
「なんでもいいから左右田くんは私の傷を舐めてよ」
「…傷を舐め合うってすげぇやらしい響きだよな」
「ソニアちゃんが聞いたらドン引きするよ」

そう言いながら横島は笑ってくれる。なんかもう、今日は横島でいいか。寂しいし、構ってほしい。

「で、どこ行きてぇの?」
「え?デートしてくれるの?」
「今日だけな。俺も暇だしな」
「わぁ、今日だけだなんて、明日以降のソニアちゃんに断られる未来を無視してる」
「うっせ!明日こそデートしてもらえるに決まってんだろ!」
「明日も振られてたら私が代わりにデートしてあげるよ。今日はとりあえず、左右田くんの行きたいとこでいいよ。電気街とか?」
「…おう」

横島の嬉しい言葉のコンボに救われつつ、なんとなく気分良く電気街に向かった。久々に来たが、やはり胸が踊る。ソニアさんとのデートコースばかり考えていたから最近来れていなかったせいで、わくわくした。

「ここにいる時の左右田くん、すごくきらきらしてるよね」
「ん、そーか?」
「うん。すごく可愛いよ」

可愛いと言われてもちっとも嬉しくないが、横島が楽しそうだからよしとしよう。
目ぼしいものがないかキョロキョロしていたら、横島が何か持ってやってきた。

「ね、これ、このカメラ、盗撮用に改造できないかな?ついでにラジコンに搭載できないかな?」
「…オメーは俺に何をさせる気だ」
「私と左右田くんがラジコンで遊んでる振りをして日向くんやソニアちゃんのデートを盗み見るの」
「…虚しいだけだろ、見てどうすんだ」
「デートに誘えたときの参考にするの。ほら、私達馬鹿だから、相手の喜ぶことが何なのかわかんないじゃん?だから失敗してるわけだし、成功例さえ見てしまえれば万が一デートに誘えたときに活かせるかもよ!」

めちゃくちゃ良い案な気がしないでもないが、冷静に考えてみろ。要するに田中の真似するってことだろ。俺が奴の真似をしたところで、二番煎じだろ。

「却下だ」
「えー。でもラジコンに付けるのよくない?たとえばみんなで海で遊ぶ機会を作ったとして、そこで、」
「オメーはなんでそう男子みてぇな発想するんだよ!」
「さすが左右田くん、私の言いたいこと、最後まで言わなくても解るんだね!」
「同士みたいな言い方すんな!俺の腕は犯罪に使う気はねーっての!」

だめだ。水着の盗撮なんかしてたまるもんか。いや、したいけど。ソニアさんの、あわよくば他の女子の水着姿の写真が手に入ったらそりゃあ嬉しいけど。

「左右田くんってば真面目だなぁ」
「…オメーが不真面目なだけだろ」
「私だってこれでも真面目にデートする方法考えてるんだけどなー」
「水着の盗撮は真面目にデートする方法に関係ねーだろ、つかデート諦めた奴の発想だろ」
「あはは、ばれた?」

ばれたって何だよ。日向とのデートもう諦めてんのかよ。

「私、自信無いから、千秋ちゃんに勝てる気しないもん」
「…それを言うなら、俺だって田中に勝てる気しねぇよ」

くそ、なんで女子とデートしながらこんなに鬱な気分にさせられるんだ。さっきまで楽しかったはずなのに。

「やめやめ!今俺は横島とデートしてんだし、横島は俺とデートしてんだ!他の奴のことなんざ考えるな!」
「はは、左右田くんって独占欲強いんだね」
「そうじゃねーよ!暗い顔してても落ち込むだけだから考えるなってことだよ!!」
「…左右田くん優しいね」

やはり横島は困ったように笑う。何困ってんだよ。俺別に変なこと言ってねーだろ。

「私、日向くんじゃなくて左右田くん好きになればよかった」
「なっ…何だよ、それ」
「デート誘いやすいし、何も難しいこと考えなくても楽しいし」

そう言われれば、俺だって今日はどこに行って何をして相手を喜ばせようとか難しいことはひとつも考えていないから、気が楽だし、楽しい。

「…俺も、横島を好きになればよかった」

つい口にしたら、横島に驚かれた。ソニアさんのことを諦めたわけではないのに、俺も自分に驚いた。

「今からでも遅くないよ」
「…は?」
「左右田くんが私を好きだって言ってくれたら、私も左右田くんに惚れちゃうと思う。私、ちょろいから」
「自分で言うかよ」
「うん。だって…日向くんにも、優しくされて落ちちゃっただけだし。ちょろいでしょ」

詳しいことは知らないけど、本人がそう言うならちょろいのだろう。

「左右田くんなら、いつでも私のこと落としに来てくれていいからね」
「んなちょろいなら、俺以外に落ちる可能性だってあんだろ」
「あるよ。だから早めによろしくね」

急かすのはずるい。そんなに急にソニアさんを振り向かせることなんてできそうにないし、早めにキリをつけなければ横島まで離れていくのか。

「…横島が俺に惚れてくれたら、俺もソニアさんのこと諦められるかも」
「うわ、左右田くんずるい。それほんと?」
「たぶん」
「たぶんじゃダメだよ。私だって人間なんだから、絶対って言ってくれなきゃ安心して左右田くんのこと好きになれないよ」
「…そんな簡単に好きになれるもんか?」
「なれるよ。少なくとも今日のデート楽しいし、左右田くんが優しいことは知ってるし、顔もそこそこ好きだし」

少ない判断材料だ。本当にちょろいんだなこいつ。

「無理に好かなくていいから、とりあえず、明日もデートしようぜ」
「ソニアちゃんはいいの?」
「聞くな。いいから横島のこと誘ってんだよ」
「…そっか。嬉しいよ、ありがとう。明日、約束ね」
「あぁ」

無理して好きになる必要なんか無い。何度も会って、自然と好きだと思えるようになった方が健全だし、後悔もしないだろ。

「明日行きたいとこ考えとけよ」
「左右田くんの行きたいとこでいいよ?」
「こういうのは順番だろ、今日は電気街に付き合ってもらったんだし」
「左右田くんが楽しそうな方が嬉しいから、軍事施設とかでいいよ」
「…いいのかよ」
「うん。だって、遊園地とか、左右田くん怖がって泣いちゃうでしょ?」
「うっせ、うっせ!」

乗り物酔いがひどいんだから仕方がねーだろ。馬鹿にしやがって。良いやつだとか思った俺が馬鹿だった。

「だから、楽しそうな左右田くんを見て私も楽しめるようなところに行くのが、お互い楽しくていいと思うの」
「…横島が、それでいいならいいけど」
「うん、いいの」

そんなに相手の気持ちを優先できるなら、日向ともうまくいきそうなもんだけど。俺なんかで妥協してていいのかよ。

「私は好きな人の一番楽しそうな姿が見たいだけなんだよ」

そうか、だから日向から身を引くのか。七海といるときの日向、楽しそうだもんな。

「じゃあお前のことは俺が楽しませてやっから、そんな顔すんな」
「…そんな顔?」
「その辛気くせぇ不細工な顔だよ」
「ひ、ひどい!」
「オメーの傷ならいくらでも舐めてやるから笑っとけ、可愛いんだからよ」

慰めるために言葉を並べたら、可愛いとか余計なことまで言ってしまった。その後悔はもう遅いらしく、横島の頬は赤く染まった。

「可愛いとか言うと、簡単に落ちちゃうよ?ちょろいんだから」
「知るか、勝手に落ちとけ」
「言ったね?そういうこと言うなら私だって左右田くん落とせるように頑張っちゃうからね?」

恥ずかしくて顔を背けていたら、その隙に近付いて来ていた横島が俺の頬をつまんだ。

「だから、落ちてね」

好きになれと同義のことを言われ、ドキッとさせられる。どうしてやろうかと思っていたら、頬から手を離され、目もそらされた。

「…それじゃ、また明日ね」
「あ、おいっ!」

横島はそのまま逃げるように去って行った。また明日、こんな風にドキドキさせられて振り回されるのかよ。落ち着かないけど、楽しみに思ってしまうのも確かで、こういうのも嫌じゃないと思ってしまった。