愛のままに我儘に

「綾瀬川さん!一護どこ行きました?」
「黒崎ならさっきここ出ていったところだけど。まだその辺歩いてるんじゃない?」
「ありがとうございます!!」

旅禍として瀞霊廷に侵入してきた黒崎一護。なんやかんやで藍染隊長たちが出ていって、旅禍の一護たちはしばらく瀞霊廷内で療養することになった。だからまだ一護に絡むことができるはずなのに、あいつどこ行きやがった。

「あっ。一護〜!!」

明るいオレンジ頭を見つけて、瞬歩で近付いて背中に抱き付いた。

「一護おはよう!朝から探し回っちゃった!どこ行ってたの?」
「ルキアんとこだよ、つーか引っ付くな!!背中!くっつけんな!!」
「背中が嫌なら前から抱きつこうか?」
「そういうことじゃねぇよ!女が軽々しく体密着させんなよ!」

純情な少年黒崎一護16歳は、女体が得意じゃないらしい。耳まで赤くしちゃって可愛いんだから。

「だって一護もうすぐ現世に帰っちゃうんでしょ?今しかくっつけないなら今くっつくしか無いでしょう?」
「くっつく必要ねぇだろうが!」
「嫌なの?」
「いっ……嫌じゃ、ねぇけどよ」

意外と素直な一護はやっぱり可愛い。顔が見たかったので、体を離して一護の正面に回り込んだ。

「私ね、一護に惚れちゃったから一緒にいたいの。このまま瀞霊廷に残って死神やるのは嫌?」
「……俺には家族がいるからな。あいつら残しておくのは無理だ」
「まぁそうだよね。だから止めないよ、止めないけど…やっぱり私は寂しいよ。会ったばっかりなのにこんなに人を好きになること無いのに、どうしてか一護のことが好きで好きでたまらないよ」

一護は赤い顔を私から背けて歩き出した。

「一護の幸せはきっと現世にしかなくて、これからも現世で作り出していくものだって解ってるんだけどね。それでも、だからこそ、今ここにいる間だけでいいから、私のこと見てくれないかな」
「……無理だ」
「私のこと、嫌い?私は一護のこと好きだけど」
「嫌いじゃねぇよ」
「だったらさ、今だけでもいいから、嘘でもいいから、私のこと好きって言って欲しいな」

空いている一護の手を握って立ち止まらせる。それでも一護はこっちを見てくれなくて、私の想いは届かないのかと悲しくなる。

「一護……」
「もし俺が、例えばだけど、お前のこと好きだって言ったら……俺が帰った後どうするんだよ。藍染の片が付いたら会えなくなるに決まってんのに…」
「それでもいいよ。たとえ一時でも私の愛した人に愛してもらえるなら、幸せだよ」
「俺は……こんな体質だけど、人間なんだ。死なない限り現世で過ごすし、普通の人間みたいに生活して、お前と一緒に年くってくこともできねぇんだぞ」
「それでもいいよ」

言い切ってみれば、一護は辛そうな顔で振り向いた。これ以上何かを言えば泣いてしまいそうな、そんな表情だった。

「俺は、そんなの嫌だ」
「…そう」
「だから、お前に軽々しく好きだなんて言えねぇし、後々引きずること考えたら何もできねぇよ…」
「……てことは一護、本当は私のこと好きなんだ?」
「……何でそうなる」
「違うの?」
「違わねぇけど……」

一護はいつもより多目に眉間にしわを寄せて悩んでいた。怖い顔しちゃっても可愛いんだから。

「ね、難しいこと考えないでいいんじゃない?私は一護が好きで、一護も私が好きだっていうなら、後のことなんて後で考えようよ?人間は寿命短いんだから、悩むだけもったいないって」

その短い寿命の一部を私が貰ってしまうことに申し訳なさは少なからずあるのだけれど、最終的に一護が喜ぶなら問題は無いはずだ。
握っていた一護の手を離して、体に腕を巻き付けた。

「それでも一護は好きだとか言えないなら、その分私が言ってあげるからさ。私が一方的に愛するだけでもいいから、それだけの時間を私にちょうだい?」

一護の体はたくましくて、人間のくせに生意気だ。短期間で一護をここまで成長させてくれた浦原さんとかいう人に感謝感激だ。

「一護、大好きだよ」
「……ありがと」

一護は小声で礼を言って、私の体を抱き締める。すぐにこの温もりを手離さなきゃいけないなんて辛すぎる。こんなことなら一護と同じ時代に生まれたかった。

「空座町の担当できるように、頼み込んでみるね」
「……できるのか?」
「どうだろうね、愛の力でなんとかするよ。そしたら毎日一護に会えるもんね」

毎日一護に会って毎日イチャついて毎日毎日一護の成長を見守って……一護だけが年老いていくのか。人間の彼女ができないまま一護は老人に? さすがに可哀想すぎるし、やっぱり私迷惑かな。

「私……一護の愛人になるよ」
「は?彼女じゃねぇのか?」
「…彼女にしてくれるの?」
「あ、いや…その……」

ぽろりと漏れた一護の本音が嬉しくて、後のことなど一気にどうでもよくなった。さっき自分でも言った通り、後のことなどその時が来たら考えればいいんだ。これから何が起こるかも解らないのに、今考えたってどうしようもないんだから。

「一護がそのつもりなら、彼女にしてもらおうかな。てことは、彼女らしいことしていいんだよね?キスもエッチもしていいんだよね?」
「ばばば、バカ言ってんなよ!まだ高校生……」
「人間と死神で子作りできるか試してみよっか!面白そうだよね!」
「バカ!!」

一護はやっぱり顔を真っ赤にさせていて、愛しくてたまらなくなった。人間だからって、この欲を我慢する必要無いんじゃないだろうか。

「今瀞霊廷こんなんだから、私暇なんだよね。私の自室、行こっか」
「な、何するつもりだよ!」
「ナニするつもりだろうね?」

一護のか弱い抵抗の言葉などに聞く耳持たず、一護の手をしっかりと恋人繋ぎして自室に連れ込んだ。一護の怪我について絶対安静とかいう忠告をすっかり忘れて盛ってしまったせいで一護の帰る日程が遅くなってしまったけど、それはそれで幸せだからいいかな、なんて思って一護には安静ではない夜を連日過ごしてもらうことにした。