貴方の帰る場所

『斑目一角の隊葬の準備を───』

弓親さんから、そう連絡が入ったのは一時間前。私はその言葉を処理しきれずに呆然としていて、その間にも隊葬の準備は進められていて、一時間の間に花や棺が用意され、ああ、本当に一角さんは死んでしまったのか、と実感の無いまま目の前の式場を眺めていた。

「一角さん…」

私の大好きな彼が、これから死体で帰ってくるのか。もう二度と、私を見ることも、名前を呼ぶことも、触れられることも、温もりを感じることもできないのか。

「寂しいよ…」

ただ一人、私が一生かけて愛してやると誓ったのに。勝手に私が誓っただけだけど、こんなにも寂しくて、虚しくて、震えが止まらないなんて。
死んだなんて、信じたくない。それでも、私の目の前にある式場は一角さんのためのもので、私の心を凍らせてゆく。
一角さんが帰ってきたら、愛してると言って抱き締めて、さよならのキスをしよう。死体にそんなこと、と非難されるかもしれない。それでも最初で最後に愛した人とのお別れくらい、私の好きにさせて欲しい。戦いで死んでボロボロになっていたとしても、とても見ていられないような姿になってしまっていたとしても、一角さんの最期の姿を、私は目に焼き付けておきたい。

「横島!斑目三席が帰ってきたぞ!!」

怖かった。見てしまったら、一角さんが死んだという事実を受け入れなくてはならないんだ。

「おい、横島?行かなくていいのか?」
「うるさい…どこに行けっていうの?早く、一角さん連れてきてよ…」
「馬鹿!生きてたから四番隊に運ばれたよ!隊葬の準備なんてしなくてよかったんだ!」

生きてた。そう聞いただけで随分と心が軽くなった。

「綾瀬川五席の早とちりだって」
「…よかった。私、行ってくる」

弓親さんに会ったらまず文句を言おう。私をこんな気持ちにさせて許されると思っているのか。
瞬歩で急いで救護詰所に行けば、愛しい一角さんの霊圧を感じる。
そのまま霊圧を辿っていくと、一つの病室にたどり着いた。躊躇わず扉を開ければ、怪我だらけの一角さんがベッドに横になって治療を受けていた。

「ちょっと!まだ治療中…」
「一角さん!」

名前を呼べば一角さんと視線が交わる。あぁよかった。生きていてくれて本当によかった。
四番隊の人の言葉なんかに耳は貸さず、私は一角さんに駆け寄ってそのまま一角さんを抱き締めた。

「いでででで!!」
「一角さんの馬鹿!!しっ、死んだかと、思った!!」
「弓親の馬鹿が勝手に俺を死んだことにしやがっただけだ!俺は怪我しかしてねぇ!!」
「怪我なんかしたせいで私の腕力程度で痛がっちゃってさ!!うわーん!!一角さんの馬鹿ー!私のこと置いてったら、許さないんだからー!」

まだ一角さんの声が聞ける。触れられる。抱き締められる。温もりを感じられる。それが嬉しくて嬉しくて、涙が溢れた。一角さんは優しく私の頭を撫でてくれる。

「あー…もういいだろ、治療受けさせろ…」
「私がこんなに心配してるのにひどい!」
「生きてたんだからもういいだろ、次は怪我の具合の心配でもしとけよ」
「…一角さんよく見たら血まみれじゃん。大丈夫?」
「おせぇよ」

私の死覇装まで一角さんの血がついてしまっていた。弓親さんが一角さんが死んだと勘違いしたくらいの怪我は負っていたらしい。

「泣きついてごめんね?生きててくれてありがとう。愛してる」

柔らかくて温かい唇が愛おしい。これが死体じゃなくて、さよならのキスにならなくて本当によかった。

「後でたっぷり可愛がってやっから、部屋で待っとけ」
「これだけ怪我してるんだから治すの何日もかかるでしょ。我慢して」
「…なんで俺が我慢できねぇみたいになってんだ。俺の帰りを待ちわびてたのは優の方だろ」
「いや、もう、生きてたからそれだけで幸せだなって思って…」
「ふざけんな。いいから部屋で待っとけ」
「はーい」

きっと一角さんは治療が完全に終わる前に抜け出して、私のところに来てくれるのだろう。痛いのも我慢して、私を悲しませた罪の償いにきてくれるんだ。

「じゃあまた後でね!」

そんな優しくて強い一角さんが、私は世界で一番好きだ。