永遠なんて無い

※原作全部読み終わった人向け







うちの副隊長はガキだった。それはもう、騒ぐしうるせぇしワガママだし、俺らの手には負えないくらいだった。
ある日、副隊長がよその隊の女を捕まえてはうちに連れ込み、話し相手にしたり遊び相手にしたりして引きずり回していた。

「悪いな、うちの副隊長が」
「いえ、私も楽しいので大丈夫です!」

こいつも仕事が嫌いなのか、席官だというくせに笑顔でそう答えやがった。それなら副隊長に振り回されても仕方がないのだろう。

「優ちゃん!びゃっくんとこに金平糖もらいにいくから一緒に行こ!」
「え?いや、びゃ…って、朽木隊長?え?それはちょっと、」
「先に着いた方の勝ちね!よーーいどん!」
「待って!!お願いだから!!」

毎日毎日騒ぎやがって、正直落ち着かない。だが男臭かった十一番隊できゃっきゃと騒ぐ女を見られるのは、一つの娯楽のようにも感じてきて、慣れれば楽しいものだった。
はじめの頃は十一番隊の空気にびびっていた横島も、最近はもうにこにことうちの隊員に挨拶するまでになっていた。そのおかげで、いいところでも見せようと足掻く馬鹿な隊員たちはやる気を見せるようになってきたし、良い傾向だった。

そんな生活が毎日続くものだと思っていたのは、俺が平和ボケしていたせいだろうか。
世界が崩壊しそうなほどの、滅却師との戦争のあと、副隊長は姿を消した。瀞霊廷が日常を取り戻しつつあるなかで、十一番隊から女の声が消えた。あれだけ喧しくてイライラしていた日々が遠く感じられるほどに、静かだった。いつも通り隊員たちが騒いでいても、どこか物足りなかった。

「一角、客間に優ちゃん来てたよ」
「そうか」
「…行ってあげないの?副隊長のこと呼んでたよ」
「俺のことじゃねーだろ」
「今は君が副隊長だろ?斑目副隊長」

ふふ、と笑う弓親になぜかイラつく。しかしあのチビがいない今、俺が行かないと横島もやることがないだろう。
仕方がないから客間まで行ってみると、畳に寝転がって寝息を立てている横島がいた。この様子だと俺を呼んでいたとかいうのは弓親の嘘だろう。
起こしてやろうと思って近付いてしゃがんでみて、ぎょっとした。閉じている横島の目から涙が流れていた。

「おい、横島起きろ」

悪夢でも見てんのかと思い、指で涙を拭い取ってやった。すると目が覚めたのか、ゆっくりと瞬きを繰り返し、やっと俺と目があった。

「うわっ!夜這いですか!?」
「てめぇ、ここがどこか解ってて言ってんのか…?」

起こしてやったのに暴言を吐かれイラっとする。横島は周りを見てここが十一番隊の客間だと気が付いたのか、ごめんなさいと謝った。

「寝るつもりも、泣くつもりもなかったんですけど…」
「あんまり無防備にしてると襲われるぞ。いつもみてぇに番犬と寝てるわけじゃねぇんだ」
「草鹿副隊長は番犬って言うほど怖くないです」
「番犬だろ」

あのチビがいるから他の隊員たちが寄り付かなかったんだ。そのことにこいつは気付いていないのか。

「そんで、今日は何しに来たんだよ」
「…副隊長に、会いに」
「もう居ねぇよ」
「…なんでそんな寂しいことずばっと言えるんですか」

お前が言わせたようなもんだろ、と言ってやりたかったが、また泣き始めてしまって言えなくなった。

「せっかく、全部終わったからまたいっぱい遊べると思ったのに、こんなの、ひどいです」
「うるせぇ、泣くな。あのチビだってお前を泣かせるつもりはねぇよ」
「でも、私、あんなに毎日遊んでもらって、楽しくて、なのに、もう、」

遊んでもらってたのはお前の方なのかよ。

「…うぅ、副隊長」
「もう副隊長は俺だ」
「一角さん、草鹿副隊長みたいに遊んでくれないですもん…やだ、草鹿副隊長がいい」
「ガキみてぇに駄々こねんな」
「だってぇ…」

簡単に泣くような女なんか、俺は嫌いだ。話し相手になんのも、慰めてやんのも、めんどくさい。

「泣くな」
「うー…」

いつまでも嗚咽を漏らしてうるさいから、腕を引いて無理矢理体を起こしてやった。

「な、」

泣き顔が見えないように、横島の頭を自分の胸に押し付けた。

「お前の不細工な泣き顔なんか見たくねぇんだよ」
「い、いじわる」
「だから早く泣き止め。ガキのお守りはもううんざりだ」
「…ずっと泣いてたら、ずっとこうしててくれるんですか?」
「相手してくれんなら誰でもいいのかよお前は」
「副隊長じゃなきゃダメです」

どっちの副隊長のこと言ってんだよ。聞けばいいのに、あのチビのことだと言われるのも嫌で、俺のことだと言われるのも困るし、聞けなかった。

「…これからも、また副隊長に会いに、遊びにきてもいいですか?」
「あのチビの代わりができるほど遊んでやれねーぞ」
「…いいです。一緒に美味しいもの食べて、一緒に騒いで、一緒に昼寝してくれるだけで、私は楽しいです」
「俺じゃなきゃダメなのかよ」
「…そういうわけじゃ、ないですけど」

ないのかよ。慰めてやろうとか思った俺が馬鹿だった。

「でも、ぐずぐず泣いてるめんどくさい私に優しくしてくれるのなんて、一角さんくらいしかいないです」
「優しくした覚えなんかねぇよ」
「…優しいですよ、一角さんは。きっとこれからも、私が来たら話し相手になってくれます」
「…なんでそう言い切れるんだよ」
「私がしつこく付きまとうことに今決めたからです」

横島は細い腕を俺の背中に回してきた。

「一角さんは、草鹿副隊長みたいに居なくならないでくださいね」
「…どうだろうな」
「…居なくなったらまたここで泣き続けますからね」
「そりゃ迷惑な話だな」

まぁいいか。俺も取り戻したこの日常を物足りなく思ってたくらいだし、面倒な女一人に付きまとわれるくらい、許してやるか。

「…もう、寂しい思いなんか、したくないです」
「…そうか」

俺だって、ガキ一人居なくなったくらいで寂しいなんて思いたくなかったっての。

「まぁ、あれだ。…俺は、ずっとここに居てやるよ」
「…嘘つき」

十一番隊の死神である限り、いつか戦いの中で死ぬだろう。ずっと、なんて簡単に約束できるようなことじゃない。そんなことは横島にすらお見通しなようで、寂しそうにすり寄ってきた。

「十一番隊員になついたのが運の尽きだな」
「…ほんと、ツイてないです」

そう思うなら他の隊の男のところに行けばいいだろ。なんて悪態をつく気にもなれず、横島の体を抱き締めた。