すっきり長谷部


主は今日も次郎太刀や鶴丸たちと酒を飲んで騒いでいた。少しくらい騒がしいのは、主のストレス発散にもなるだろうと多目に見ていたのだが、午前になってもその騒ぎは続いていて、短刀たちが眠れないと俺のところに相談に来たため、説教をしに主たちのところへ向かった。

「あー、はしぇべー」
「な……何ですかその格好は!」
「え?熱いから」

主は酔っぱらっていて、服もはだけて大変だった。特に、目のやり場が大変だった。

「ちょっとー、主ちゃんどこ連れてくの」
「主はもうお休みになられる。貴様らも騒いでないで寝ろ。明日怪我をしても知らんぞ」

主を横向きに抱き上げ、主の部屋へ向かった。ちらっと目線を下にやるとはだけた胸元が目に入り、とにかく前だけを見て歩みを進めた。
主の部屋には前もって敷いておいた布団があり、そこにゆっくり主をおろした。

「長谷部…」
「…起きていらしたのですか」
「だっこ」

とろんとした表情で、俺に向かって両手を伸ばしてくる主。主命とあらば何でもするが、これは果たして主命なのだろうか。

「主命って言わなきゃ、このくらいのことすらできないの?」
「……いえ」

なんだか舐められたような気がして、やけになって主を抱き締めた。アルコールのにおいに隠れてはいるが、主特有の甘い匂いを見つけてしまう。そして、主の体は柔らかかった。

「主…」
「はせべ」

主の柔らかい唇が俺の頬に何度も押し付けられ、驚いて主を体から引き剥がしてしまった。惜しいことをしてしまったと後悔するやいなや、主はその隙にまた俺に顔を近付け、今度は唇が触れ合った。
ただの刀である俺が主とこのようなことをしていいものか。そうは思っても、せっかくの機会に抵抗することも惜しくあり、それに主も行為をやめようとしない。
酔っ払った主が悪いのだと自分に言い聞かせ、主の体を抱き寄せて、要求に応えることにした。口元が未知の感覚に襲われるだけでも理性がふっ飛びそうだと言うのに、微かに聞こえる主の艶かしい声が更に俺を刺激した。

「ふふっ……はせべ、こういうことしたら、怒ると思ってた」
「怒らせたかったのですか?」
「怒らせて、しゅめーだって言って、むりやりしたかったの」

主も人が悪い。ここに来たばかりの頃の俺なら、怒ってそんなことになっていただろう。だが今となっては、主を拒む理由が無い。

「それは残念でしたね」

もう一度主を堪能しようと顔を近付けたら、それは主の小さな手で遮られることとなってしまった。

「長谷部も、残念でしたー。嫌がってくれない子に構ってあげるほど、主は暇じゃないのー」
「……意地悪ですね」
「ふふ、そうだよ。意地悪するの好きだから、長谷部はここでおしまい」
「…ここまで、煽っておいてそのようなことを仰るのですか」

この昂った気持ちを、どこへやればいい。意地悪にも程がある。

「がっつかれるの好きじゃないの。長谷部が嫌がってくれないのわかったし、今度は大倶利伽羅のところにでも行こうかなー」
「あ、主……」
「長谷部は今までどおり、よろしくねー?今日のは…日頃の感謝?ご褒美だったとでも思っといて」

離れようとする主の肩を掴み、押し倒した。主は驚いて目を丸くさせていたが、そのうちに逃げられないように主の手を押さえ付けた。

「主にこんなことしていいと思ってんの?」
「どうやら俺も主と同じで、嫌がる子に無理矢理する方が好きなようです」
「主命だからやめなさい、って言ったら?」
「そんなこと言う余裕なんて与えませんよ」

今度こそ主の唇を奪い、口内を犯す。主は特に嫌がる様子はなく、大人しかった。それはそれで不安にもなり、しばらくしてから唇を離した。

「それ以上のことしたら、刀解しちゃうよ」
「…ここでやめたら、主は大倶利伽羅のところへ行くのですか?」
「まぁそうだろうね」
「……主が他の者と夜伽をするのを見過ごすくらいなら、刀解していただいた方がましです」

主が誰かとこんなことをしただなんていう事実を知ってしまったら、今までのように主に無償で尽くすなんてこと、できる気がしない。俺の気持ちのやり場が無いのなら、この俺のことは刀解して、新しいへし切長谷部を鍛刀してやり直して欲しい。今度は、このような無駄な感情を抱かせないようにしてやってもらいたい。

「そうは言うけど、私もう他の子とえっちしたよ?宗三さんとか江雪さんとか、石切丸とか、山姥切とか。みんな嫌々してくれたよ」
「……」
「刀解されたくなった?ごめんね、意地悪だから刀解なんてしてあげないよ。私の汚さを知った上で、私に尽くしてもらいまーす」

主はいやらしく微笑んで俺のシャツのボタンを外し始める。俺が知らない間に主が他の者の相手をしていたかと思うと、少しガッカリした。だが、皆がしているなら俺だって、という気持ちも沸いてきてしまった。

「どうする長谷部?ビッチな主とえっちする?それとも、大人しく大倶利伽羅のところまで見送ってくれる?」
「主がその気になっているのに、送り出すわけがないでしょう」

邪魔な手袋を外し、素手で主の肌に触れる。この身体に触れたのが俺だけではないと思うと、胸のなかに黒いものが渦巻いた。

「主……」

主に優しくする気にもなれず、邪魔な着物を剥ぎ取って柔肌に噛み付いた。その間にも主の体を撫でれば、息を荒くして俺を呼ぶ主の声が漏れる。

「はせべ、あっ、」

主とこんなことをして、明日からどんな顔で主と顔を合わせればいいんだ。主だけでなく、宗三や山姥切たちの顔もまともに見られないかもしれないな。

「生でいいなんて…言ってな、いっ…」

振り絞るような声にぞくっとする。明日のことなど考えず目の前のことに集中しようと思い、何度も何度も主のなかを擦り付けた。夜中だから静かにしろと叱りに行ったこの俺が、こんな時間に卑猥な音をたて主を鳴かせているなんて誰が想像できようか。

「あるじ、好きです、愛しています……!」
「あっ、愛なんか…私、には、無っ……ひぅっ…」
「主もはやく、俺のことを愛してください、ね」
「重いよ……んっ、そこ、気持ちいっ」

きつく締め付けられ、我慢できずに主のなかに熱をぶちまけた。例え主に愛が無くても、俺は主を愛している。主は誰とでも夜を共にする。だったら、主の相手が常に俺でも、問題は無いだろう。

「終わったなら、抜いてよ…」
「もう終わりだと思うのですか?」
「え……?」
「俺の愛はこの程度ではありませんよ」

やっと主と一つになれたのに、そう易々と引き下がってたまるものか。今まで溜めた全てを出し尽くすべく、今度は体勢を変えて主を奥まで貫いた。