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「たばこくさっ」
「ぶつかってきといて最初に言うことがそれかよ」
べしっと頭を叩かれた。阿近さんがたばこ臭いのが悪いのに、理不尽じゃないかな。
「ぶつかってごめんなさいでした。でも臭い阿近さんが悪いです。消臭剤かけてもいいですか」
「臭い臭いって人聞きの悪いこと言うな」
「事実ですし!言われたくないなら私みたいにフローラルな香りさせてください」
「乳臭いガキがそんな匂いなわけねぇだろ」
なんて言いながら阿近さんは屈んで私のにおいを嗅いできた。すぐ近くに阿近さんの顔があってどきどきする。
「薬品の臭いしかしねぇわ」
「白衣のせいじゃないですかね!?」
「顔赤いぞ」
「あっ……知らない!もう臭い阿近さんとはおさらばです!私は今から涅隊長のお手伝いなので!」
阿近さんのせいで顔が赤いだなんて、口が裂けても言うもんか。
「へますんなよ」
なんて言いながら、頭をわしゃわしゃ撫でられた。そういうことするから、ドキドキするんだってば。
固まっていたら、私に向かってたばこの煙を吐いてきた。最低かよ。
「ごほっ……な、何するんですかっっ」
煙が目に染みて、思わず目を擦る。今度絶対仕返ししてやる、なんて考えていたら、なぜか腕を掴まれた。目を開ける頃にはなんだかすごく近くまで阿近さんの顔が接近してきていて、気づけば口を塞がれていた。
阿近さんってこういうことする人だっけ!?と混乱するし、体も抱き締められて、全身が阿近さんのものになってしまったように感じた。
「ん……苦い、です」
「感想はそれだけか?」
「…やっぱりたばこなんか嫌いです」
「でも俺のことは好きだろ?」
「あ、阿近さんのことなんかっ」
阿近さんはいつもの無表情で私を見下ろす。あぁひどい。本当は好きだって言いたいのに、そうやって余裕ぶって平然とした顔しかしてくれない。なんで私ばっかり動揺させられてしまうんだ。
悔しくなって、阿近さんから身を離した。
「阿近さんのことなんか……嫌いじゃないです」
ぼそっと言えば、阿近さんは笑みを浮かべた。悔しがる私の姿が楽しいのだろう。
「手伝い終わったらまた相手してやるよ」
「…たばこやめたらまた相手してあげますよ」
「じゃあやめるわ。お前の相手すんの」
「えっ」
やっぱり阿近さんはひどい。そうやって私をもてあそぶんだから。
「阿近さんのばか!」
もう知らない。阿近さんなんかの相手する暇なんか作ってあげない。
早く涅隊長のところに行こうと思って駆け出したら、「待ってるからな」と声がした。結局阿近さんだって私に構って欲しいんじゃないか。
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