花太郎とぶつかる


十一番隊の人たちと遊んでいたら、高所から落ちて足を折った。この前も戦って腕を折ったし、足をひっかけられて打撲はするし捻挫もするしで、頻繁に四番隊のお世話になっていた。手当ての常連になってしまったせいで四番隊の席官さんたちにも顔と名前を覚えられてしまい、ここに来るたびに飽きれ顔をされるようになっていた。

「逃げなきゃ…」

十一番隊の人と馬鹿みたいにやんちゃして怪我をしまくっていたせいで、この前は卯ノ花隊長に、次同じ理由で来たら叱りますからね、と笑顔で言われた。前回も今回もやんちゃした怪我だから、大人しく病室にいたら卯ノ花隊長に叱られてしまう。それは怖い。
応急処置だけしてもらって、隙を見て病室を抜け出した。卯ノ花隊長に見つかる前に、ここから離れなければ。
松葉杖では早く歩けず、いらいらする。それに疲れる。少しくらい休んでいても卯ノ花隊長はすぐには来ないだろうと思い、壁に寄りかかって体を休めた。

休憩を終わらせて歩き出そうとしたら、どこからか走ってくる足音が聞こえた。避けなきゃやばいやつだとは思ったけど松葉杖で自由に動くことなどできず、角を曲がってきた死神にぶつかられた。そして尻餅をついた。

「いったー…」
「ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか?痛いとこないですか?」
「…折れてる足が痛い」
「でしょうね…。なんで病室で大人しくしてないんですか」
「…卯ノ花隊長、怖いし」

呆れ顔しかしてくれない他の四番隊の人たちと違って、花太郎は心配そうにしてくれる。優しさが嬉しい。

「だからって動き回ってたら治るものも治らないですよ」
「…四番隊居てもつまんないもん」
「だったら怪我しないようにしてください。病室に戻りましょう?」
「やだー」
「わがまま言う方が卯ノ花隊長も怒りますよ」

それは嫌だ。怒られたくない。いや、でもどっちみち怒られるならこのまま逃げ出してもよいのでは。

「立てますか?」

花太郎は私に手を差しのべてくれる。遊んで怪我して迷惑かけてるだけだから、あんまり優しくされると申し訳なくなる。

「…一人で立てるもん」

あんまり迷惑かけていられないし、松葉杖を手にして自力で立ち上がった。

「これでも僕も四番隊なんですから、頼ってくれていいんですよ?」
「…花太郎頼もしくないもん」

心配してくれる人にお世話されたら、これから怪我するくらいのやんちゃができなくなってしまう。しょーがないなー、とか言われながら適当に治療してもらう方が、気が楽だ。
大人しく病室に向かって歩き出せば、花太郎も私の横に並んで歩き出した。

「急いでたんじゃないの?」
「ええ、でももう用事は済んだので」
「…どういうこと?」
「優さんが脱走したって報せが入ったので、慌ててただけなんです。無事に見付かって安心しました」

じゃあ花太郎は私のことを心配してあんなに急いでたってこと?すぐ怪我してくるこんな馬鹿な私のために?

「…なんか、ごめん」
「そんな、謝らないでくださいよ!僕が勝手に慌てただけですから」
「…勝手に慌てないでよ」
「あ、すみません。でも心配だったので…」

そっちこそ謝らないでよ。私が意地悪言ってるみたいじゃん。それに心配だって、しないでよ。私は心配されなきゃいけないほど弱くないし、心配してもらえるような価値なんて無いんだから。

「…卯ノ花隊長、怒るかな」
「もう遊んで怪我はしないって約束すれば、大丈夫だと思いますよ」
「私、そんな約束してもまた怪我するよ」
「だめですよ!それじゃあ、卯ノ花隊長に怒られちゃいますし、それに…優さんだって、女性なんですから、もっと体を大事にした方がいいですよ?」

今何て?女性だって?や、まぁ、女性だけど。十一番隊の人たちと仲良くやれて、あの空気に馴染んでしまうくらいには女らしさが無いんだよ。それなのに、花太郎は私のこと女扱いするの?

「わかった…遊んで怪我するの、やめる」
「それはよかったです!」
「…私が怪我しなくなって、ここ来なくなったら、嬉しい?」
「え…、怪我の無いことは嬉しいですけど、…もう来てくれないんですか?」

花太郎は寂しそうに、そんなことを言ってきた。
それは何?私にここまで来いってことなの?用事も無いのに、来て良いよってこと?

「き、来て欲しいの?」
「はい。優さんと居ると、楽しいですから」
「…じゃあ、怪我が治ったら、普通に会いに来て良い?」
「もちろんです!いつでも待ってますよ」

なんて嬉しそうに返事をされて、私まで嬉しくなった。

「あ、でもまた怪我増やしてたら、卯ノ花隊長だけでなく僕も怒りますからね!」
「…花太郎って怒れるの?見てみたいから怪我してきていい?」
「ダメです!僕だって、お、怒るときは怒ります!」
「もしかして今怒ってる?…かわいいね」
「か…かわいくなんかないです!僕なんかより優さんの方が…っ」

花太郎はそこまで言いかけてやめてしまった。そして一気に顔を真っ赤に染めた。
言葉の続きを聞いてみたかったけど、花太郎に釣られて私まで赤面してしまい、それどころではなくなってしまった。
こんなにも私のことを女の子扱いしてくれて心配までしてくれる人がいるのだから、これからは無駄な怪我を増やすのはやめにしよう。せっかくだから花太郎に治療してもらったりとかしたいけど、花太郎は笑った顔の方がかわいいから、心配させるようなことはさせないようにしなきゃね。