プレイボーイの謀事
私には好きな人がいる。ただ、その人は悪く言えばチャラい、良く言えばフレンドリーといいますか、とにかく女の子に対してだらしないというか。クラス一のプレイボーイと言っても過言ではないその人の名は、上鳴電気。
「麗日、この後飯行かね?」
「うーん、パス!」
「むむ……芦戸!飯どう?」
「ごっめーん!中学の友達と約束あってさ!」
「仕方ねー!耳郎!行くぞ!」
「仕方ないって何だよ……ま、予定もないし別にいーけど。」
まただ、また彼が女の子をデートに誘ってる。梅雨ちゃんに透ちゃん、ヤオモモに三奈ちゃん、お茶子ちゃん、そして、最大のライバルは響香ちゃん……いつもそうだ、上鳴くんは響香ちゃんとふざけあってばかり。二人の態度を見ていればそこに恋愛感情が無いことは明白だ。だから私が一方的にライバル視してるだけ。はぁっと溜息をついたら、どうしたー?と幼馴染に頭をわしっと掴まれた。
「範ちゃん……」
「んー?」
「ほら、あれだよ、あれ。」
「あー……」
あれ、で伝わるから楽で助かる。範ちゃんは私の相談をいつも聞いてくれては慰めてくれる。特に上鳴くんとは仲も良いからか、彼のことをフォローしつつも私にも気を遣ってくれて本当に彼には頭が上がらない。上鳴くんが響香ちゃんと一緒に教室から出て行ったのを確認してから、私は範ちゃんの方を向いた。
「なんで私には声かけてくれないのかな……」
「んー、恥ずかしいんじゃね?ほら、凪って可愛いし?」
「可愛くないよ……」
「そうかー?いや、でもなァ……」
二人で首を傾げてたら廊下からバタバタと足音が聞こえた。ガラッとドアが開いたらそこにはさっき出て行ったはずの上鳴くんがポカンとした様子で立っていた。
「え?何?お前らそーゆー関係?」
「え!?いや、ち、違っ……」
「もしそーだったら何?上鳴になんか関係ある?」
「は、範ちゃん!?」
実はクラスの大半は私達が幼馴染なのを知らないのだ。知っているのは三奈ちゃんくらいだろう。お互いを名前で呼び合うから付き合っているのかと三奈ちゃんに聞かれたことがあるけれど、そんなことはないと二人で笑いながら否定したっけ。なのにどうしてか範ちゃんは上鳴くんに対して肯定するかのような返事をしている。
「……へ、へぇー!いいじゃん、お似合いでさ!なんだよー、俺も彼女欲しいなー!」
「耳郎がいんだろ?」
「……確かに耳郎が彼女だったら楽しいかもな!ちょっと考えてみっかな?んじゃ、また明日な!」
上鳴くんは早口で捲し立てるように喋って、自分の席から忘れ物であろうイヤホンを取り出すとささっと教室を出て行ってしまった。私はキッと範ちゃんを睨んでやった。
「なんであんなこと言うの!?絶対誤解されたよ!」
「あー、悪い……いや、嫉妬とかしねーかなって……」
「嫉妬どころかお似合いなんて言われたよ!失恋確定だよ…う、ぐすっ……」
「わ、悪かったって!まさかこうなるなんて……って、な、泣くなよ!ごめんって!」
ぽろぽろと涙がこぼれてきて顔を掌で覆ってしまったら、困った範ちゃんが手を合わせて平謝りしてきた。悪気がないのはわかっていたから、怒ってないよ、とだけ伝えたけれど、告白してもいないのに失恋したショックは大きくて。しばらく泣いて、涙が止んだところで範ちゃんと一緒に帰ることにした。
次の日の放課後も上鳴くんは女の子に声をかけている。最初は透ちゃん、次に梅雨ちゃん、そして次……どうせ響香ちゃんに決まってる。並ぶ二人を見たくなくて、私はささっと荷物をまとめて教室を出ようとしたのだけれど、後ろからガシッと肩を掴まれた。範ちゃんだと思って後ろを向いたら、そこにいたのはクラス一のプレイボーイで。
「音無!今日時間ある?」
「え……っと……」
「あ、なんか用事ある?」
「い、いや、ないよ。」
「おっ、じゃあ駅前のハンバーガー屋行かね?今日から新商品出るんだけど、付き合ってくんね?」
「わ、わかった、いいよ。」
彼はよっしゃ!とガッツポーズをして、鞄を手に持つと行こうぜ!と私の肩をぽんっと叩いた。教室内にいる範ちゃんを見たら笑顔で手を振ってくれていた。響香ちゃんの方をチラッと見たら何故か彼女までも笑顔で手を振っていた。
「いやー!助かるわ、今日あの店カップル割でさー!」
「……響香ちゃんじゃなくていいの?」
「え?」
「ほら、昨日……」
「あー……いや、ほら、売り言葉に買い言葉っつーか……」
「えっ?」
上鳴くんはいつものへらりとした可愛らしい笑顔とはかけ離れた、目をきっとつり上げた真面目な顔で私の顔をじーっと覗き込んできた。
「な、なに……?」
「……あのさ、音無ってさ、俺のこと、好き、なんだろ?」
「…………え、ええ!?な、な、なんで!?」
「……放課後俺が女子に声かけてたら必ず瀬呂と話してたっしょ?俺、知ってたんだよね。二人が幼馴染なの。」
「え、え、え?」
「俺、ずーっと前から音無のことが好きって瀬呂に相談してたわけ。で、瀬呂から音無が俺のこと好きなのも聞いて知ってたんだけど、やっぱ好きな女の子から好きって言われたいわけよ。男としては。」
「え、えぇ!?かっ、上鳴くんが……!?え、範ちゃん喋って……!?え!?」
「だから毎日放課後、ヤキモチ妬いてくれっかなーって音無以外の女子に声かけてたのにさ、音無ぜーんぜん俺に告白してくる様子ねーんだもん。俺、瀬呂の言ってること嘘なんじゃねーかって疑ってたよ。」
話にまったくついていけない。一体どういうことなんだろうか。つまり、範ちゃんは私と上鳴くん両方の気持ちを知ってた上で、昨日あんなことを言ったってこと……?
「だからさー、昨日びっくりしたぜ?ふざけただけなのに瀬呂があんなこと言うからさー、俺マジかと思っちゃって……」
「そ、そうだよ!い、意味わかんないよ!」
「んー、夜、瀬呂に電話したらさー、男ならあそこで凪は誰にも渡さねえ!くらい言えよって怒られちまってさー……」
「えっ……?」
「だからさ、予定変更。俺、音無、好きなんだわ。俺の彼女になってくんね?もう他の女子と遊んだりしねーからさ、あっ、でも耳郎とは気が合うからたまには遊びてーかも。そんときは三人で遊ぼうぜ。な、付き合ってくんね?」
「じょ、情報量が……」
「ん?だーかーら、好きなんだって。俺が、音無のこと。どう?付き合わない?」
「つ、付き合う……」
「っしゃー!じゃ、こっからカレカノっつーことで!ほら、手繋ごーぜ!」
それから二人で手を繋いで、仲良くハンバーガー屋さんでカップル割のセットを半分こした。食べている間は彼の方から、カレカノなんだから下の名前で呼び合おうとか、いつから好きになってくれたの?とか、俺は凪のこーゆーとこが好きだよ、とか捲し立てるように喋ってきた。食事を終えて、二人で飲み物を啜っていたらまた彼の方から話題を振ってきた。
「なぁ、凪、俺のこと好き?」
「え、う、うん……」
「ちゃんと言ってよ。俺は凪のこと好きだぜ。」
「え、え、えっ、と……上鳴くん、す、す……」
「名前!俺のこと名前で呼んでってば!」
「あ、あうう……」
私は恥ずかしさでいっぱいになってどうしたらいいかわからなくなってしまった。上鳴くんは諦めたようで、無理強いしてごめんな、って少し悲しそうに言ったもんだから、私はぎゅっと彼の親指を握って周りに私達の声が聞こえないよう個性を発動した。
『で、で、電気くん、好き……』
プレイボーイの謀事
翌日。私はいつも通り範ちゃんと通学中。電気くんと付き合ったことを報告したら彼は自分のことのように喜んでくれたのだけれど。
「でも、範ちゃん、なんで電気くんに私の気持ちバラしてたの!?」
「いや!違うって!ほら、両想いってわかってるなら上鳴から凪に告ると思ってたんだって!けどいつまでも言わねーから……」
「おはようお二人さん!おい瀬呂、凪はもう俺の彼女なんだからあんまベタベタすんなよなー!」
「音無、良かったじゃん。こいつ、毎日毎日、瀬呂と音無が仲良いのをウチに愚痴ってばっかでさー。ようやく解放されるわ。」
「じっ、耳郎!?いつの間に!?つーか、や、やめてくれよ!」
「そ、そうだったんだ……」
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