「ハハハ!全くおかしいよね!キミみたいな子がヒーロー科にいるなんて!」

「ひ、ひどい!」

「あっ、音無!……物間!お前いい加減にしろ!」

「何が?僕は本当のことを言っただけだよ?」

「……理由は?」

「そんなの一つしかないだろう!拳藤と違って、彼女のように清楚で可憐な女の子がヒーロー科だなんて危ないじゃないか!夢を追うのは素敵なことだが…………!」

「それを先に言ってやれよ……ほんっと天邪鬼な男……」





ひどいひどい!今日も物間くんにひどいことを言われてしまった。見た目はまるで王子様のような彼、ところが口を開けば嫌味と意地悪ばかり。この前は勝己くんとちょっと話していただけなのに魔性の女なんて言われたし、その前は音を消して近寄るなんてコソコソした活動が得意とは羨ましいね、なんて嫌味を言われてしまった。どうして彼はいつも私に意地悪ばかり言うのだろう。


入学当初のマスコミ侵入による学食での騒ぎの時、人混みに流されてお茶子ちゃん達と離れた私の手を引いて安全なところに連れて行ってくれたのはまるで王子様のように素敵な物間くんで、私は一瞬で恋に落ちてしまったのを今でも鮮明に覚えている。あの日はとても優しかったのに、あれ以来顔を合わせる度に意地悪ばかり。そんなに私のことが嫌いなのだろうかと、悲しくなって涙と鼻水が出てきてしまう。ぐすっと鼻を啜ったところで、どうしたんだ、と声をかけられた。驚いて振り向いたら勝己くんが立っていた。


「なに泣いてんだ。」

「ちょっと……人間関係に悩んでるというか……」

「あ?

「ほら、B組の彼のこと……」

「チッ、アイツか。……俺ァ暇じゃねーんだ、話なら早よしろや。」


勝己くんは私の隣に腰掛けて、少し乱暴に頭をわしわしと撫でてくれた。実は勝己くんと私は所謂従兄弟ってやつで、A組では一番仲が良い男の子だったりする。そして私が物間くんに恋をしていることを唯一知る人でもある。初めて相談した時は、なんであんなヤツ!とか、お前おかしいんじゃねーのか!とか、他にも散々暴言を吐かれたけれど、やめろ、と言われたことは一度もない。いつも通り、彼の手にちょんと触れて音を消す。


『どうして物間くんは私に意地悪ばかりなのかな。私のこと嫌いなのかな。』

『嫌いなヤツにわざわざ話しかけんだろ。』

『自分はデクちゃんとか轟くんにギャーギャー言うくせに?』

『うるせェ!!アレは話しかけてんじゃねー!!』

『じゃあ一体何をしてるの?ふふっ……』

『笑うなや!!』


嫌いなら話しかけない、ということは自分はデクちゃんや轟くんが嫌いじゃない、と言っているようなものだ。思わずクスクスと笑ってしまう。しばらく勝己くんに、物間くんのことを相談して、最後に頭を軽くぺしっと触られて、余計なこと考えんな、と言われた。話を聞いてもらえたことで少し気が晴れて、私は彼と一緒に教室へ戻った。





次の日の昼休み、学食へ行こうと廊下を歩いていたら突然後ろから誰かに腕を掴まれた。振り向いたらニヤッとニヒルな笑いを浮かべた物間くんで。


「ちょっと時間いいかい?」

「え、う、うん……」


今日は何を言われるんだろうかと少し身構えてしまって声が上手く出ない。すると彼はいつもとは違ってなんだか少し落ち込んでいるというか、物憂げで儚げで、まるでどこかの国の王子様がお姫様に想いを馳せているかのよう。そんな彼に手を引かれて、辿り着いたのは昨日勝己くんと話した花壇の前。


「昨日、ここで爆豪と話してたよね。」

「え、う、うん。」

「キミさぁ、個性のコントロールできないの?」

「えっ?」

「全部聞こえてたんだよね。」

「うっ、嘘!?そんな……!」

「まさかあんな話、音も消さずに話すとは中々大胆だよね。」


まさかあの時物間くんが近くにいたなんて。ということは私の淡い想いは彼に知られてしまったということか。ならばもういっそのこと彼に想いをぶちまけて、どうして意地悪ばかりするのか聞いてみることにした。


「……昨日勝己くんにも言ったけど、私ね、物間くんのことが好きなの。」

「ハハハ!やっぱりそ……え?僕?」

「えっ?そうだよ?」

「え?爆豪じゃなくて?」

「え?物間くんだよ……?」

「……ハ、ハ、ハハハ!し、知ってたけどね!いや、うん!決してカマをかけたとかそんな……はっ!」

「えっ、えええ!?う、う、嘘!?じゃあやっぱり消音に失敗したわけじゃないの!?」


察するに、昨日私が音を消して勝己くんと話していたのを、私が勝己くんに告白している場面だと思ったのだろう。そしてその内容を私に確かめるためにわざわざ呼び出してカマをかけたということなのだろうけど、どうしてそんなことをするのだろうか。


「あ、あのさ、この際だから聞きたいんだけど、どうして物間くんは私に意地悪ばかりするの?私、その事を勝己くんに相談してたんだけど……」

「は?僕が意地悪?そんなことした覚えないけど?」

「で、でもこの前は私のこと魔性の女って……」

「あの爆豪とさえ仲が良い女子なんて魔性の女でしょ、外見といい中身といい一体どれほどの魅力を兼ね備えているんだい?」

「……えっ!?」


今、さりげなく褒められたような気がする。でも、他にも意地悪は言われてきた。


「じゃ、じゃあ、音を消してコソコソするとかいうのは……?」

「敵に気付かれず近寄って攻撃もできるし、身を隠すことや逃げ伸びて情報を伝えることにも長けていて羨ましい能力だよ!」

「じゃ、じゃあ!昨日の!昨日のアレは何!?」

「アレ?どれのことだい?」

「ほら!私がヒーロー科なんておかしいって……!」

「ああ!おかしいよ!音無さんのように清楚で可憐な女の子がヒーロー科だなんて危ないじゃないか!夢を追うのは素敵なことだが、やはり君のように可愛い女の子は守るより守られる方がお似合いだと思うんだよね。」

「なっ、かわっ……!?」


一瞬何を言われているのか理解できなかった。つまりいつもの彼の発言は、嫌味や意地悪といった類ではなく、彼にとっては全て褒め言葉だったということなのだろうか。紛らわしすぎる、そんなのわかるわけがないだろう。私があれこれ質問したせいか、今度は物間くんが、僕からも質問していいかい?といってきて。


「音無さん、僕のことが好きって本当?」

「えっ!?あっ……う、うん……入学してすぐの、食堂でのパニックの時から、物間くんのことが、好きです……」

「ふーん……それで、どうしたいわけ?」

「えっ?べ、別にどうも……」

「……キミって実はバカなのかな?」

「えっ!?」


ひどい!やっぱり意地悪ばかりだ!、と一瞬傷ついたのが思い切り顔に出てしまったのだろう、彼はハッとして、すぐに慌てだして、今のは違うんだ!なんて手を前に出して来た。


「こ、この流れで察してくれよ!僕も音無さんが好きなんだよ!」

「……えぇ!?そ、そうなの!?」

「そうだよ!だからわざわざ呼び出して昨日のことを確認してるんだよ!でなきゃ爆豪とあんなに仲良くされて嫉妬しないわけがないだろう!」

「し、し、嫉妬?」

「嫉妬もするさ!キミはやっぱりバカなんだね?自分がどれほど魅力的なのか気付いていないとは!ハハハ!可笑しいなぁ!」


今初めてはっきりとわかった。彼の私に対する嫌味は全て愛情の裏返しだったのだということが。私は物間くんをじっと見上げて、ただ一度だけ、端的に短く問うてみた。


「物間くんは、どうしたい?」

「……え?」

「どう、したい……?」


彼は視線をキョロキョロと泳がせた後、やはりニヒルな笑いを浮かべて自信ありげにこう言った。


「キミが僕でも良いなら付き合ってあげてもいいけど?」

「……物間くんがいいな。」





天邪鬼な王子様




「音無さんはもう僕の恋人なんだから、あまり爆豪なんかと仲良くしないでくれるかな?」

「あ、それは無理だよ。彼、従兄弟だから。」

「……はぁ!?あんな粗暴で獰猛な男が清楚で可憐で可愛らしいキミの従兄弟!?へぇ、奇跡ってこんな身近にあるものなんだね。」

「……昨日までとギャップがすごい。」





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