演習場で友達と訓練をしていた時のこと。交戦中の切島くんと鉄哲くんの様子が激しくて、周りの地形にも影響が及んでしまったのかわたしは隠れていた場所で足を挟んでしまい動けなくなってしまっていた。


「うぅ……痛い……」

「……キミ、どうしたの?」

「えっ?あっ、えっと、物間、くん?」


運が悪すぎる。敵チームの物間くんに見つかってしまった。今回の訓練は鬼ごっこのようなものでA組チームの誰かが持っている赤い鈴をB組チームに取られたら負け、逆に取り上げれば勝ち、というもの。A組チームの赤い鈴は私が持っている。チームメイト達に、ごめんなさい!と心の中で謝ったけれど、物間くんは怪訝な顔をして、私のそばに寄ってきた。


「……足が挟まってるね。」

「えっ?」

「動いちゃダメだよ。瓦礫の破片が食い込んでる……」

「あ、う、うん……」


物間くんはB組だ。全然話したこともなければ、こんなに近くでそのご尊顔を拝見したこともない。さらっさらの綺麗な金髪、整った顔立ち、そしてこの戦闘服コスチューム……まるでお伽話の王子様のようだ。彼に見惚れていると、ぱちりと目があってしまった。


「流石に怪我人に危害は加えないよ。」

「あ……えっと……」

「あ、残念だけど僕の鈴は偽物の鈴だよ。ほら、キミの赤い鈴と違って銀色の鈴だからね。」

「……えっ!?」

「バレてないとでも思った?おバカさんだね。」

「うぅ……」


物間くんは私の足元の瓦礫を崩れないよう丁寧にせっせと退かし始めた。沈黙の時間が長くて、さっさと鈴を奪ってしまえばいいのになんて天邪鬼なことを思ってしまう。どれくらい時間が経っただろう、足の痛みがだいぶ楽になってきて、物間くんがくるっとこちらを向いた時だった。背後からB組の回原くんの声がした。


「お、物間……何してんだ?」

「回原か……いやぁ、音無さんがここに鈴を落とした挙句、足を挟んじゃったみたいでね……赤い鈴かどうか確認しようと思ってさ。」

「えっ?」


彼は何を言っているのだろうか。私の鈴は腰のポーチにくっついている。しかも赤い鈴だと知っているはずなのに。回原くんに言って取り上げてしまえば晴れてB組の大勝利。物間くんは何を考えているの……?


「おー……音無、だっけ?足、大丈夫か?」

「……あっ、う、うん、物間くんのおかげで!もうだいぶ痛みはなくなったよ!」

「そっか、まぁ、あんま酷かったらリカバリーガールんとこ行けよ。」

「う、うん……」

「回原!多分、赤い鈴を持ってるのは尾白だ!」

「何っ!?サンキュー物間!」


物間くんが突然尾白くんの名前を出して、回原くんは尾白くんを探すために身体を旋回させて飛んで行ってしまった。


「ど、どうして?赤い鈴は私が……」

「……キミと二人になりたかったから。それじゃダメ?」

「……えっ!?」

「ハハハッ!真っ赤な顔!キミって揶揄い甲斐があるね!」

「なっ、何それっ!もう!」

「あっ、まだ動いちゃダメだよ。尖った金具が出てる所があるから。」


物間くんは再び目線を私の足元に戻して作業を再開した。数分後、私の足は自由に動かせるようになっていた。少し怪我は見られるものの、幸い歩くことに支障はなかった。さて、ここから物間くんと私は敵同士、かと言って私は戦闘能力に優れているわけでもないし、この状況では個性も役には立たなくて。どうしようかと考えていると不意に物間くんが私の両肩に両手を置いてきた。こんな風にじいっと見つめ合うのは初めてかもしれない。彼は本当に王子様のような整った顔だちをしている。こんな美少年と無言で見つめ合うことに耐えかねた私は適当に話を振って沈黙を破ろうとした。


「あ、あの……」

「うん?」

「な、なんで救けてくれたの……?」

「おかしなことを聞くんだね。僕達はヒーローの卵、困っている人を見かけたら救けるのは当然のことだろう?」

「でも、訓練中で敵同士なんだから、鈴を奪ってからでも……」

「……鈴を奪ったらこの訓練が終わるでしょ?それに………………ね。」

「えっ?聞こえない……あっ、コピー!?」


物間くんは私の肩から手を離して、ニコッと笑った。そして会話の途中で彼の個性でコピーした私の消音の個性を発動させたようで、私には聞こえない声を出した後、少し間を開けてからかあっと顔を赤くして、それじゃあ僕はこれで!ハハハ!と高笑いしながらくるりと向きを変えて何処かへ歩いて行ってしまった。赤い鈴は奪わずに。


この後、訓練は私達の勝利で終わった。B組チームの赤い鈴は小大さんが持っていたようで、梅雨ちゃんと常闇くんの活躍でなんとか勝利することができたようだ。終わった後にみんなで意見交換会をした後、足の件で物間くんにお礼を言いに行こうとしたのだけれど、回原くんが物間くんにギャーギャーと文句を垂れているのが見えた。一見クールな回原くんにもあんな一面があるのか、と少し驚いてしまったところだ。


「物間!お前、俺に嘘ついただろ!」

「何のことだい?」

「赤い鈴、尾白じゃなくて音無が持ってたじゃねーか!しかもお前、あの時音無の鈴奪えただろ!?」

「いやぁ、彼女、思ったよりも強くてさ。しかもあの瓦礫の下にあった鈴、彼女のじゃなくて僕の物だったんだよ。言わなかったっけ?」

「はぁ!?聞いてねーよ!……お前、まさか音無……ふぐっ!」


回原くんが話している途中、後ろにいた私と物間くんの目があった途端、彼は回原くんの口を塞いで私からコピーした消音の個性を発動させていた。


『余計なこと言わないでくれる?』

『……お前の好きなヤツって音無だったのか。』

『そういうこと……僕のペースでじっくりいきたいからさ、余計なこと、しないでね。』

『……今回は目を瞑ってやるよ。』

『悪いね。』


彼等が離れたのを確認して、私は先程のお礼を物間くんに伝えに行った。彼はヒーローとして当たり前のことをしただけだから気にしなくていい、と優しく笑ってくれた。以前、体育祭や合宿、文化祭の際にA組に悪態をついていた意地悪な姿とはまるで別人だ。


「あ、あの、さっきは本当にありがとう!あっ、それと別れ際に何か言ってたよね?なんて言ってたの?」

「普段中々関われない、好きな人と接する機会をみすみす自分の手であっさり終わらせたくないよね、って言ったんだよ。」

「……えっ!?そ、それって……梅雨ちゃん?それとも小大さん?そっかあ、物間くんは好きな人との訓練をすぐに終わらせたくなかったんだね……じゃあ私の怪我は物間くんの恋に貢献できたってことかな?」

「……キミのことだよ?」

「……えっ?」

「ハハハッ!真っ赤な顔!キミって揶揄い甲斐があるね!」

「……も、もう!知らない!」


前言撤回!やっぱり物間くんは意地悪な王子様だ。でも、彼もやっぱりヒーローを目指しているだけあって、優しいところは本物だと思う。けれども素直にお礼だけを言うのもなんだかしてやられてるような気がして、ちょっぴり仕返しをしてやろうと思った私は彼に話しかけて、途中で個性を発動させたのだった。





意地悪な王子様




「ねぇ、物間くん。」

「何だい?」

「私、物間くんのこと…………なぁ。」

「……えっ?よ、よく聞こえなかったんだけど……」

「じゃ、またね!次は私が救けてあげるから!」

「あっ!ちょ、ちょっと!」





『ちょっぴり好きになっちゃったかもだなぁ。』





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