教室の窓を開けると黄色、桃色、紺色や青色が混ざった美しい空が見えた。季節が秋から冬に変わろうとしている。この時期の空が好きで、敢えて教室で課題を終わらせてから寮に帰るのが日課になっていたりする。脚に少し冷えを感じた。ブランケットをかけるとほんのり感じた温かさと柔らかな布の心地良さに思わず頬が緩む。このブランケットは大好きな彼氏、範太くんからもらったものだ。


範太くんとお付き合いを始めて半年が経った。彼は意外とオシャレさんでロマンチストということがわかってきた。先日は半年記念だからと砂藤くんと一緒にケーキを焼いてくれて、プレゼントにこの可愛いブランケットをいただいた。斯く言う私も彼にネックウォーマーをプレゼントしたので、まぁ考えることは同じなのだろう。最近少し寒くなってきたし、ブランケットをもらえたのはラッキーだった、なんてことを考えて黄昏ていたら、ガラッと勢いよくドアが開いた。振り向くとでんぴ……幼馴染のクラスメイト、上鳴電気が立っていた。


「凪?何してんの?」

「んー……黄昏てた。でんぴは?」

「忘れ物取りに来ただけ。つーかでんぴはやめろ。」

「今は誰もいないからいいじゃん。」

「お前なぁ……」


でんぴ……もとい、電気は私の隣の席に腰掛けると、私を見つめてニヤニヤ笑い始めた。


「な、何?」

「んー?いやァ、瀬呂とはどこまでいったのかな、って。」

「キモッ!何言ってんの!?」

「キモいは傷つくからやめろ!」


突然のセクハラ紛いな質問に驚いて本音を隠すことができなかった。いや、まぁ彼に限っては隠す必要はないのだけれど、恥ずかしい話題だからちょんっと電気の腕に触れて消音の個性を発動させた。流石にこの時間に誰も来ないとは思うけど、念には念を入れておかねば。


『……手繋いだ。』

『……他は?』

『……でんぴの意地悪!どうせ範太くんからも聞いてるくせに!』

『いや聞いてねーし!』


お付き合いして半年も経つのに、実は手を繋ぐ以上のスキンシップはしていない。彼は奥手というわけでもなさそうだけれど、二人きりになってもなかなか私に触れてこないのだ。いや、まぁ、手は繋げるけれど、実は初めて手を繋ぐまでに要した期間は3ヶ月余り。流石にスローペースすぎやしないだろうか、なんて不安もややあるわけで。


『……そりゃさ、カップルなんだし、ハグしたり、いずれは…………チュー、したり、したい、けど。』

『けど?』

『なんかそんな雰囲気じゃないんだよね、ほら、範太くんって大人っぽいっていうか、落ち着いてるっていうか……』

『大人っぽい〜!?瀬呂が!?』

『痛ッ!漏電すんなバカ!』

『ろ、漏電!?漏らしたみてーじゃん!?』


電気は驚きの余り、パリッと音を立てて漏電してしまったようだ。電撃が私の指先を伝って全身に迸った。一瞬だろうが電撃は電撃だ、かなり痛い。ガタッと立ち上がって彼の背後に回り、その首にアームロックをかけてやった。


「バカ!やめろってマジで!」

「バカはでんぴでしょ!」

「痛って!おい!」

「ぎゃあ!放電すんな!」


と、喚き散らしていたら、ガラッと音を立てて教室のドアが開いた。電気と同時にドアの方へ顔を向けると、ぶすっとした範太くんが立っていた。ぱちりと目が合った瞬間、不機嫌そうな顔のままずんずんとこっちに歩いてきて、私の腕を掴んで電気から離してきた。いくら私でも、流石にこの状況でのこの態度は理解できる。やばい、怒られるのかな、嫌われるのかな、なんてわたわたしてたのは私だけで、範太くんは冷静なまま電気の方に顔を向けて口を開いた。


「上鳴。」

「はっ、はいっ!?」

「凪は俺の。あんまベタベタさせんなよ?」

「わ、わかってるよ!」

「ん、ならいい。」


俺の、なんて言われたのは初めてで、こんな状況じゃなきゃときめきを覚えられたかもしれないけど生憎最悪のタイミングだ。じろりと電気を睨みつけたけれど、彼は机の中の教科書を手に取ると、あとはごゆっくり〜なんて言いながら教室から出て行った。ごゆっくり、なんて雰囲気じゃないのは誰が見てもわかるのに。おそるおそる範太くんの顔を見たら、やや不機嫌そうなままで、どうしようとあせあせしていたらぱっちりと目が合ってしまった。


「……凪。」

「はっ、はいっ!?」

「……幼馴染って似んのかな?」

「えっ!?な、何が!?」

「いや、リアクションが上鳴と全く同じだから。」


びくりと肩を跳ねさせたら、それも同じリアクションだったからか、範太くんはけらけらと笑い出した。あ、よかった、いつもの範太くんだ、と安心したのも束の間。また腕を掴まれて、ぐいっと引っ張るとずんずん歩き出した。無言なのが怖くて不安になっていたけれど、教室から出て少ししたらやっと腕を離してくれて、このまま着いてきてな〜、といつもの優しい感じの声掛けをもらえてやっと心底安心することができた。





黙って着いて行って辿り着いたのは範太くんの部屋だった。何度か遊びにきたことはあるけど、その時は大体電気か三奈ちゃんか誰かと一緒だったから、二人きりなのはこれが初めてだったりする。


「オレンジジュースでいい?」

「あ、お、お構いなく……」


なんとなく気まずいのは気のせいだろうか。彼氏の部屋で二人きりという美味しいシチュエーションに期待しないわけもなくソワソワしてしまう自分がなんとも下品に感じてしまうからだろうか。申し訳ないけれど幼馴染の顔が浮かんできた。ああ、私は電気と同じレベルなのか……うう、なんと情けないことか。落胆を隠すために範太くんが用意してくれたジュースをちびちびと飲んでいたら、正面からくつくつと笑う声が聞こえた。この笑い声、すっごく好きだなぁ……


「いやー、ほんっと似てんなァ……」

「な、何が?誰に?」

「上鳴と。昨日一緒に課題やってたんだけどさ、難しい顔しながらちびちびジュース飲んでたのよ。」

「……そ、そんなに似てる、かなぁ。」


私が顰めっ面になったからか、範太くんは少しバツが悪そうな顔をした。怒ってないよ、と伝えたらホッと一安心したようで、再び柔らかい笑顔を見せてくれた。





教室を出る前のピリピリした雰囲気はどこへやら、結局いつも通り、課題を片付けたり漫画を読んだりゲームで対戦したり……まぁ、こういうのももちろん好きなんだけど、やっぱり、その、ねぇ。ちらりと彼に視線を向けてみたけれど、彼の目線は手元の漫画にあるようで。


「範太くん……?」

「んー?何?」

「あ、い、いや、何でも、ないです。」

「そ?」


再び漫画に目線を戻されてしまった。くそう。もっと、もっと私を意識してくれたっていいんじゃなかろうか。ちょっぴり寂しさと悔しさを覚えた私はスマホの検索画面を出して、不意打ち キスの仕方、と打ち込んだ。すると、流行りの青春ドラマの主人公とヒロインのキスシーンの動画が自動で再生されてしまった。何しちゃってんの!?と慌ててスマホの動画を停止しようとした刹那。





ちゅ





…………えっ?





ばっと範太くんの方を向いたら、何事もなかったかのように、ん?と首を傾げる彼がいた。えっ?今、私、彼に…………!?


「何?どしたの?」

「はっ、ははっ、範太くんっ!?」

「ん?」

「やっ、あ、あのっ、い、いまっ、き、きききき……」

「何?キス?」

「ッ〜〜〜!?」


驚き戸惑い大慌ての私を見て、悪戯っぽく笑う範太くん。なんてセクシーなんだ……じゃなくて!


「嫌だった?」

「そ、そんなことないっ!ない、けど、やっぱり、その、は、恥ずかしい……」

「何その顔、狙ってる?」

「えっ……!?ちょ、待っ……」

「ダメ、もう待たない。」

「ちょ、ま、待っ……!」




後で確かめてわかったこと。彼も私といわゆるそーゆーことがしたかったのだけれも、なんとなくきっかけが掴めなかったとのことで。この日からは部屋で二人きりになったらいわゆる、イチャイチャが始まるようになってしまいました。





イチャイチャ、始めました





「似た者同士だから仲良いのはわかるけどさァ、あんまベタベタすんなよなー……」

「……私と電気が似てるなら範太くんこそ私にもっとベタベタしてよ。」

「……はっ、はァ!?い、いや、その発言はダメ!恥っず……」


ぼんっと音がしたんじゃないかってくらい一瞬で顔を赤くした範太くんがあまりにも可愛くて、思わずぎゅっと抱きついて彼の頬に自分の頬をくっつけてみた。すると彼はべりっと私の身体を引き剥がしてこう言った。


「放電はナシ!」

「それは似ないよっ!」

「あ……ご、ごめんっ!」



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