届かぬ想い


『う、うちのクラスの委員長君が天くんに!?』

『うん、そう。僕、教室出てから会議室に向かってね、また聞いちゃったんだ。』


ソラの話の内容はこうだった。





***



三学年の委員長全体の会議が早く終わって、うちのクラスの委員長君が、小鳥遊のことで話があると天くんを呼び出した。二人の雰囲気は結構ピリピリしたものだったらしい。


「ハッキリ言います。俺は小鳥遊が好きです。」

「……それを僕に言ってどうする?」

「小鳥遊は、会長のことが好きなんだと思います。」

「僕達は大切な幼馴染だ。無論、僕だって彼女のことは大切に思っている。」

「そんな言葉で誤魔化すのは如何かと思いますよ?いつも誠実な会長らしくないですね。」


委員長君の言葉で天くんはぴくっと眉を動かしたとか。どうやら天くんのプライドを刺激してしまったらしい。しかし、委員長君はまだ言葉を続けた。


「俺、日曜日、小鳥遊をデートに誘いました。あいつ、来るって言いましたよ。」

「なっ……!?」

「いつまでも、自分があいつの一番だと過信しない方がいいですよ。じゃ、そんだけなんで……」

「……ま、待ちたまえ!」


天くんの呼びかけも虚しく、委員長君は振り向くことなく去って行った。





***



『だから天くんの様子おかしかったんだ……も〜!委員長君、なんでそんなことするの!?』

『いやいや、そこは感謝するところじゃないの?』

『えっ?なんで?』

『だって、あの天哉が動揺したんだよ?ことりのことで。それって少なからず意識してくれたってことじゃないの?』


私としては受験前に余計なことを考えさせてしまうのではないかという懸念があったのだが、確かにソラの言う通りかもしれないとも思う。あの天くんが私のことで初めて意表を突かれたというのだ。これはある意味チャンスなのかもしれない。けれど同時に、私も困ったことになってしまったのだ。何故ならあの委員長君の自分に対する想いを知ってしまったからだ。自分が天くんに抱える気持ちと同じ届かぬ想い。私の場合はまだ本気のチャンスが残されているけれど、残念ながら彼にはそのチャンスはない。私の心は飯田天哉という男がガッチリ掴んでしまっているのだから。……といっても彼の想いとはソラからの伝聞に過ぎず、私とソラの思い過ごしかもしれないのだけれど。


『日曜日、どうしよう……』

『行けば確実に告白されるだろうね。』

『……やっぱり?でも、今更断るのもおかしいよね。』

『まあ昨日の今日だし、囀りのことりって言われてるだけのことはあると思われるだけだろうね。』

『うーん……行くだけ行って、そういう雰囲気になる前に帰るしかないよね。』

『ま、それが一番、誰も傷つかないよね。』


ソラと相談して、結局日曜日は行くことにした。それまでの数日、委員長君は何事も無かったようにいつも通り私に接してきたから私も悟られないよういつも通りに振る舞った。一方、天くんは様子がおかしくて。朝の会話も生返事ばかり、放課後の副委員長さんとの勉強会でも集中できていないとかで、共通の心配をして私と副委員長さんが連絡先を交換する程度に親密になってしまったほど。そしてそのまま日曜日を迎えてしまった。


朝9時55分、ソラと一緒に駅前で委員長君を待っていたら彼は10時きっかりに現れた。遅れてごめん!と言われたけれど時間丁度なのでなんの問題もないだろう。顔を合わせたところで二人並んで目的の花鳥園へと足を進めた。道中の会話は授業のことや流行りのゲームやドラマのことでそこそこ盛り上がったと思う。けど、この人が私に抱えている決して届かぬ想いをどうしても意識せざるを得なくて、私はちゃんといつも通りに会話できていたかどうか定かではない。


花鳥園に到着して、私達は真っ先に鳥のコーナーへ向かった。様々な種類の鳥のエリアがあって、先刻の意識など飛んでいってしまって、どこから行こうかと胸が躍った。彼はニコニコしながらどこからでも付き合うよと言ってくれて、まずは屋外エリアから回ることにした。屋外に出たらソラが、ボクも鳥と話してくると言って飛び立ってしまった。


彼と二人で遊歩道を歩きながら、孔雀やツル、ペリカンにエミュー、ハクチョウにフラミンゴ、見目美しい鳥達を眺めたり時には囀りの力で言葉を交わしたり。本当に楽しい夢のようなひと時を過ごした。私ばかりが満足しているのではないかと思ったけれど彼の目的自体がそれだから大丈夫とのこと。他人のことを気遣えるあたりさすが委員長だと尊敬せざるを得ない。


このほかにもバードハウスに行ったりバードショーを見ていたら結構いい時間になっていたので、一度屋内のカフェで昼食をとることにした。花鳥園なのにチキンカツサンドが置いてあることに二人してゲラゲラ笑ってしまった。ソラがここにいなくて良かったと心底思う。二人で席に着いて昼食を食べていたら、彼は思いもよらない言葉を口にした。


「小鳥遊っていつも美味そうに飯食ってるよな。俺、好きだわ。」

「んぐっ!そ、そう?ま、まぁ、実際美味しいからね。」


好き。今一番敏感になってしまっているワード。自分は天くんに言い慣れているけれど、自分が言われることなどあまり無い。何気無くあっさり言われて思わずむせ返りそうになった。なんとなく気まずくて無言で食事を続けていたら、彼が小さく溜息を吐いたことに気がついた。


「どうしたの?美味しくない?」

「いや……同じなんだなって思ったら、なんか。」

「同じって?」


この質問は地雷だった。天くんから鳥頭と揶揄されたこともあるほど忘れっぽい私は、彼から告白されるのではないかという懸念がすっぽり頭から抜けてしまっていたのだ。


「……叶わない恋をしていること。」

「……え?」

「俺、小鳥遊のこと、好きなんだ。小学校のときから、ずっと。知らなかった?」

「えっ……ええええええ!?」


本当はソラから聞いてたけど、やっぱり心のどこかでそれは無いだろうと思っていたわけで。けれど目の前でこんな真剣な顔で言われたらもう信じるしかなくて。私は周りに人が居るのも忘れて鳥の囀りのような高くてキンキン響く声で叫び声を上げてしまった。





届かぬ想い




ボクは中学校のことりしか知らないけどさ。ことりのこと、可愛いなとか、小学校の頃から好きだとか言ってる男子がいるの知ってるよ。しかも委員長君以外にも。囀りのことりは誰から情報を仕入れてるの?他ならないこのボクでしょう?


ボクは花鳥園を出て、いったんことりの部屋へ戻って、花鳥園のパンフレットを口にくわえて向かいの家の窓に侵入して、二階に登って受験勉強をしている男の手元にそのパンフレットを落としてやった。


『そのエンジンは何のためにあるの?速く行きなよ。受験勉強に感けて合格を掴んで本当に大事な人の心は手放すつもり?』


彼にはチチチチとしか聞こえてないんだろうけど、ボクは精一杯の嫌味を口にして、部屋の窓から再び青空へと飛び立った。








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