鉄と飴と太陽と

プレゼント・マイクの意気揚々とした実況の中、彼の爆破をモロに受けながら正面から殴り続ける熱い闘いは延々と続いている。しかし爆発さん太郎とはよく言ったものだ、どっかの駄菓子かな、なんてちょっとだけ笑えてしまう。隣をチラッと見るとてっちゃんは手をぶん回しながら切島くんを応援している。


「切島ァ!アゴだアゴォ!!!」

「昨日の敵は今日の友。」

「おっしゃる通りだよ……てっちゃん、変わんないなあ……」


しばらく切島くんが怒涛のラッシュを見せるも、中々クリーンヒットはしない。けれどある一撃が流れを変えた。爆豪くんの右手が切島くんの左脇腹を撃ち抜いたのだ。そこからは逆に爆豪くんの猛爆撃ラッシュ。これまでじっくり耐え抜いていた風神が、時が来た瞬間、荒れ狂う暴風を巻き起こしたかのような怒涛の猛攻の前になす術もなく真っ赤なヒーローは倒れ込んでしまった。まぁ彼と持久戦をしたくないというのもわかるが、これは分が悪かったか。


「バカヤロォォォ!!」

「てっちゃんうるさい!うるさいのはプレゼント・マイクだけでいいよ!!」


その後はアシンメトリーヘアの彼と眼鏡をかけた彼、影のようなものを操る烏のような風貌の男の子と爆豪くん……そして決勝はアシンメトリーヘアの、轟くんと爆豪くん。てっちゃんはA組パラダイスだぜ、なんて呟いてるから彼らは全員切島くんのクラスなのだろう、なんとも粒揃ってるクラスだなぁ、と舌を巻いてしまう。


再びてっちゃんとどちらの生徒が勝つと思う?と話し合っていると、プレゼント・マイクの猛々しい開戦の合図の言葉が会場を劈いた、と同時に轟くんの大氷壁がフィールドを覆った。爆豪くんを警戒しての動きだろうが、爆発で防いでいるに違いない。爆豪くんは氷塊を砕き割って来たのだろう、飛び出した勢いで轟くんを掴み投げたけれど、一筋縄ではいかない。場外アウト、なんて結末で終わるわけがない。きっとこの二人はどちらかが精魂尽き果てるまで個性と個性のぶつかり合いで決着をつけるだろう。


激しい戦いになると思っていたが私の予想に反してあっという間に決着はついてしまった。爆豪くんが特大火力に勢いと回転を加え、人間榴弾のように飛び込み、轟くんは雀斑の彼に見せた超爆風を撃たず、あっさり爆豪くんに場外負けでやられてしまったのだ。そして、本人は納得していなかったようだけど、宣誓通り爆豪くんの優勝で雄英体育祭1年生ステージは幕を下ろした。さて、しっかり最後まで見届けたことだしそろそろ帰ろうかと席を立ち上がった瞬間、目の前には燃えるような赤色。


「うわぁ!?き、き、切島くん!?」

「おう!お疲れ!なぁ、この後なんか急いでるか?」

「え?うーん、友達と来てるからわかんないなぁ……」

「あー、そっか……いや、一緒に帰れねーかなって思って……」

「あ、じゃあ駅前のアイス屋で待ってるよ。あっち方面の電車、私だけだから。」

「マジか!?悪ィ!なるべく急ぐわ!」

「ううん、疲れてるだろうしゆっくりでいいよ。じゃ、また後でね。」

「おう!」


切島くんは太陽みたいな眩しい笑顔でニッと笑って、ぶんぶん手を振りながら走って行った。彼、私のこと気になるって言ってたし、なんだか私も少しだけ意識してしまっているのがなんだか恥ずかしい……なんて思って小さく溜息をついたらてっちゃんが後ろからガシッと肩に腕を回してきた。


「いい感じじゃねーか!なんだおめーら、付き合ってんのか?」

「ち、違うよ!もう!この前話したでしょ!?」

「わはは!冗談だよ、ジョーダン!まァ、アレだ、漢なら真っ直ぐぶつかりゃいーんだよ!つかさ、お前そーゆーの得意だろ!?」

「そりゃ闘いの話ね……あと、今の私は女の子だってば……」

「おう!わりーわりー!」


全く暑苦しい男だ。だけど彼のこんな性格はこれまで幾度となく私を救ってくれた。今回だってそう、てっちゃんがいなければ私は数々の問題で潰されていただろう。私はてっちゃんに拳を突き出して、ありがとうと一言呟いた。するとやはり彼はニカッと笑って、おう!と私に拳を突き合わせてくれた。


それから私は友達と合流して、雄英の正門で解散した。バスケ部の彼は茶髪の女の子を送って帰るとのこと。もう一人の彼は例の先輩方の出待ち、残った金髪の女の子は少し買い物をしてから帰るからと駅とは反対の商業施設へと足を運んだ。私も真っ赤なヒーローを待つために駅前のアイス屋へと足を進めた。


今日はレディースデーだから一段アイスの値段で二段食べれるってわけで、私はブラッドオレンジフレーバーとストロベリーフレーバーをチョイスした。先日切島くんから一口もらったのがすごく美味しかったのと、この店で一番人気だからという理由で。席に着いてアイスを食べていると、頭に包帯を巻いたままの切島くんが汗だくになって店内に入ってきた。彼は手を合わせて、悪い!と小声で言いながら私の向かい側へ腰掛けた。私は一言添えて席を立ち、もう一度カウンターへ向かって私と同じフレーバーの二段アイスを買って彼の元へと戻った。


「はい、あげる。」

「え?あ、金払うわ!いくらだ?」

「いらないよ。」

「いや、でも女子に奢らせんのは……!」


うん、切島くんならそう言うと思ったよ。けれど私にもプライドというものがある。


「体育祭、お疲れ様ってことで。それに学生証や電車のこともね。感謝してるよ。こんなものがお礼ってのは失礼かもしれないけど……」

「い、いや!そんなことねェよ!そういうことなら遠慮なく貰っとくぜ!女子に恥をかかせちゃなんねー!」

「へへっ、ありがとう!やっぱりキミは漢だね!」

「いや、俺の方こそありがとな!早速いただくぜ!……くーっ!キンキンに冷えたアイスが五臓六腑に染み渡るぜ〜!」

「そ、そんなところまでダダ被りなの……?」

「ん?何か言ったか?」

「いや、何でもないよ!美味しいなら何より!」


五臓六腑に染み渡る、なんてワードをてっちゃん以外に日常で口に出す人がいるなんて、と笑いを堪えるので必死だった。それから、体育祭のことを話しながらアイスを食べ終え、私たちは電車に乗る為に駅へと歩みを進めた。電車を待っている間、再び体育祭の話になったのだけれど、彼は昼間魔法の世界へ飛んだにもかかわらず疑念は飛び去ってはいなかったようで。


「飴宮、B組の知り合いって鉄哲のことだったのか?」

「え!?う、うん……そう、鉄哲くん……てっちゃんは、私が埼玉に住んでた時からの友達なの。」

「てっちゃん……そっか、仲良いんだな!」

「うん、すごく良くしてくれてるよ。私が困ってる時、どんな時でもてっちゃんは私の味方でいてくれるから……」


決して良い思い出とは呼べない自分の過去に想いを馳せると思わず溜息が漏れてしまった。失礼だったかなと切島くんの方を見上げたら、少し眉が下がっていて、いつもの燦然と輝く太陽のようなイメージとはかけ離れた、まるで曇天に覆われてしまったかのような暗い顔。


「どうしたの?」

「いや、あのよ……その、付き合ってんのか?鉄哲と……」

「……はぁ!?くっ……あはははは!!」

「な、何で笑うんだよ!?」

「い、いや、そんなところまでダダ被りなのかって……!あはははは!!」

「ど、どういうことだ!?え、付き合ってんのか!?どーなんだ!?」


私は笑いながら、てっちゃんとは付き合うも何もお互い恋愛なんてものには絶対発展しない、兄と妹のような関係であること、そして、つい先ほど彼からも切島くんと付き合っているのかと聞かれたことを話した。すると途端に彼は太陽のような笑顔になり、鉄哲とは気が合いそうだ!なんて言い出した。気が合うも何ももはやシンクロしている気がする、なんて思ったのは口にしないでおこう。でも続け様に、何で恋愛に発展しないんだ?なんて聞かれた時はどきっとした。その理由はてっちゃんが私を男の子として意識していることが強いこと、そして私にとっててっちゃんは本当に兄のような存在で、そしてあの鉄の意志や強さが目標や憧れのようなものであることだ。それに私自身、彼と対峙する自分は男の子の自分に近かったりして、何となく彼を異性だと捉えたことがないのだ。なんて説明ができるわけもなく、恋愛にキョーミがない、なんて曖昧な返答をしてしまった。するとやはり彼はまたしても爆弾を投下してきた。


「興味がない、かァ……やっぱ似てんな。」

「何が?」

「飴宮とツカサ。」

「え、えぇ!?や、やっぱ、って、どの辺が!?」

「ん?そーだな……まずその髪の色だろ?笑い方に、名前、学科、あとアイス奢ってくれたり……服の趣味なんかも似てんじゃねえか?」

「そ、そうなんだ……へぇ……」


思いの外、彼は人間観察が得意のようで少々肝が冷えてしまった。幸い鞄や校章の位置なんかはバレてないみたいだから、明日からは鞄をふたつ持って行って、通学鞄を性別で使い分けて、校章の位置も性別によって左右で付け替えようと心に決めたのだった。





鉄と飴と太陽と




今日1日を一言で表すと、てっちゃんと切島くんってこんなに似てるんだと驚いたことが一番だった。



***



飴宮とツカサってやっぱなんか関係あんのか……?鉄哲に探り入れてみっか……







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