今日の服装は珍しく見るからに女の子らしい服装だ。グレンチェックのフレアスカートに薄い黄色のサマーニット、校章は黒いツーウェイバッグにつけて、鞄の中からお菓子袋を取り出してロッカーの中にしまってきた。護身用に数個の飴をポケットに入れているけれど、間違っても口に入れないために余分な飴は置いてきたし、今日はスカートを履いている。この姿で男の子になるなんてバカなことはしたくはない。
お店に先に着いて、宿題を片付けた。丁度終わったところで切島くんは息を切らせてやって来て、彼は席に着くとサーブされたレモン水を勢いよくグイッと飲み干した。渇いた喉を潤したところで、彼はずいっと身を乗り出して口を開いた。
「なぁ!飴宮とツカサって本当は親戚だったんだろ!?ツカサから聞いたぞ!」
「えっ!?う、うん……?」
親戚説を肯定した覚えはないのだけれど、彼の中ではそうなっているようだ。深く追求してこないのはツカサの、男の子の私の、いつか話すという言葉を信じてくれているからだろう。少し罪悪感を覚えつつもへらりと笑って誤魔化したら、彼の顔色は燃えるような赤色へと変化した。そして一昨日の私や月曜のてっちゃんへの相談の時間は何だったんだと思わせるようなこの発言。
「…………めだ。」
「ん?」
「……こんなの、もうやめだ!」
「……はい?」
「誰かに間に入ってもらおうなんざ男らしくねェ!!」
彼は突然机を叩いて立ち上がると、太陽のような笑顔とはかけ離れた少し怖いとも思える真剣な顔つきで私を真っ直ぐ見つめてきた。先週、そして、一昨日。ツカサの持つ情報とこの発言を掛け合わせれば、次に彼の口から飛び出る言葉なんてきっとてっちゃんでもわかるだろう。
「あ、あのよ……」
「う、うん……?」
「………す、好きだ!!飴宮!俺ァお前のことが、好きだ!!」
呆気にとられたというよりは、やはりそう来たか、という気持ちが先行して言葉に詰まってしまった。元々今日呼び出した理由は告白ではなく、お互いのことをもっと知って、友達としてもっと仲良くなるために、休日予定が空いてる日に遊びにでも行かないかと誘うつもりだったらしいのだが、どうしてこうなってしまったのか。やはりこういう暑苦しいタイプの男の子の考えることは私には予測もできなけりゃ理解もできない、なんてあーだこーだ考えていたら、燦然と輝く太陽に雲がかかってしまったように、彼はみるみる顔を曇らせて、今までに見せたことのない不安げな表情で気まずそうに呟いた。
「お、おい、何か言ってくれよ……」
「あ、ご、ごめん。えっと、ありがとう。」
「……!お、おう!」
やや下を向いていた彼がパッと顔を上げた。まるで曇り空から一瞬晴れ間が差したように。……一応私も女の子だ。男の子に告白されて嬉しくないわけではない、しかも彼は暑苦しくはあるけれど、中身も外見もとても素敵だとは思う。これで私よりも強い男であれば言うことなしだ…………尤もそれは普通の女の子で、そして、過去の荷物を背負っていなければの話。明るい太陽のような彼には、もっとか弱くて可愛らしい、守ってあげたくなるような、身綺麗で清純そうな女の子が相応しい。
「ご……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「うん……?」
「俺達、まだ知り合って一ヶ月ぐれーだし、もう少し、お互いのこと知り合ってから考えてくんねーか?」
なるほど、そう来たか。諦めが悪く、けれど芯があって真っ直ぐで……男らしい。知り合ってたかだか一ヶ月。短い時間の中ではあるけれど、彼の良い所には沢山気がついた。私も、もう一人の私も。切島くんになら……真っ赤なヒーローになら、全てを話してしまってもいいのかもしれない。受け入れてくれるかはわからない。けれど、ここまで真剣に想いをぶつけてくれている彼に、今自分にできる精一杯で応えたい。私だって、女の子として、そして、男の子としてのプライドがあるのだから。
「わかった、ちゃんと考える。」
「ほ、本当か!?やったぜ!!ありがとな!!……うわっ!わ、悪い!調子に乗っちまって……!」
彼は大きな手で私の手をすっぽり覆ってぎゅうっと握ってきた。手汗が物凄くて、本当に緊張して真剣に話してくれているのがよくわかる。しかし彼は慌てて私の手をパッと離してしまって、そんな姿に思わず笑ってしまった。
「あはは!いいよ、トモダチ、なんでしょ?」
「ッ……!」
「何?」
「いや……先週、ツカサも同じ顔で笑って、トモダチなんだろ?って言ってくれてよ……やっぱ似てんな、って……」
「そ、そう?男の子に似てるなんて、複雑だなぁ……ふふっ……」
「わ、悪ィ!男に似てるなんて言われたら女子は嫌だよな!」
「……切島くんから見たツカサくんってイケメンなの?」
「ん?ああ!そりゃもう男らしくて……いや、強ェし顔もかっけーし、まさに憧れの漢だぜ!」
「へー……じゃあ悪い気はしないなぁ。」
男の子の自分のことだけど、こんなに褒められたらやっぱり悪い気はしない、むしろ少し気分がいいくらいだ。切島くんは指を捏ね始めて、恋するオトコの顔になっていた。男の子の私の話をしているはずなのにどうしてこんな顔になるんだろうと思わず吹き出してしまったら、なんだよ!わ、笑うなよな!と、照れた様な笑顔を見せた彼に注意されてしまった。
さて、一緒にポテトを摘んで飲み物を飲んで、ひと段落。落ち着いたところで、今度は私が話す番だ。
「切島くん、キミの気持ち、嬉しいと思ってるよ。」
「……!お、おう!」
「ただ、さ、あまり知られたくはないけど、キミには、話しておきたいことがあるんだよね。」
「ん?それ、言いたくねーことなんじゃねーの?話しても大丈夫なのか?」
「……キミは優しいね。こんな言い方されたら、普通は気になって根掘り葉掘り聞いてくるでしょ。」
「あー……いや、鉄哲がさ、飴宮は昔いじめられることがよくあったから男子が苦手なんだ、っつーことだけ教えてくれててさ……」
うん、それは知ってる。一昨日、三人で顔を合わせた時に、てっちゃんが私のことを難しいと表現した時の会話でお察しだ。彼なりに私と切島くんに気を遣っての発言なのだろう。過去の荷物を一緒に背負ってくれている彼の優しさ。
「少し、長くなるんだけどいいかな。それと結構重い、かもしれない……」
「あ、ああ。大丈夫だ。けど、話したくねーことは言わなくていいからな?飴宮が話してもいいと思ったことだけ話してくれ。」
「ありがとう、けど、大丈夫だよ。切島くんなら……真っ赤なヒーローなら、信じられるから。」
「ッ……!わ、わかった。よし、来い!」
「へへっ、相変わらず男らしいね!じゃあ、聞いてください。私はね……」
過去の荷物
過去の自分が傷ついたことを理由に彼の真っ直ぐな想いに背を向けるなんてことはできなかった。
暑苦しくて心優しい真っ赤なヒーローのことだ。話が終われば燃える太陽のように真っ赤な顔になって怒り狂いだして、それから自分のことの様に苦しんでぼろぼろ泣いてくれるのだろう。
あの日たまたま現場に居合わせて、私を救けてくれた真の漢、鉄哲徹鐵くんのように。