向き合う決意

あれからもう1週間、あっという間だった。今日は鋭ちゃんとの約束の日。爆豪くんには声をかけたけど断られてしまったらしい。それもそうだ、彼はきっと私のことが気にくわないはずだから。白いロングTシャツと群青色のサマーニット、私には丈の長い黒のスキニーパンツを着て、お菓子袋からありったけの飴を取り出してガリガリと噛み砕いた。今日は絶対、帰ってくるまでは男の子の姿でいなければならないから。魔法の時間の始まりだ。





切島と待ち合わせをしたのは以前爆豪と三人で勉強したあのファミレスだ。少し早めに来たはずなのに、既に彼は僕を待っていた。心なしか彼の顔は赤い気がする、真夏の暑さのせいだろうか。


「ごめん、待たせた?」

「い、いや、全然!今来たとこだ!」

「そ、よかった。」


僕達はファミレスに入って席に着いた。昼前だからか少し混んでいるようだ。今日は俺の奢りだから好きな物頼めよ!とメニューを渡され、僕は無難にカルボナーラを頼むことにした。彼はハンバーグを頼むようだ。確か肉類が好きだって言っていた気がする。料理が来るまで少し時間がかかりそうだったから、ジュースを飲みながら軽く試験の結果の話をした。もうすぐ例の合宿らしく、無事に参加できることを心から喜んでいるようだ。





さて、食事も終えて、今日の本題。案の定切島の口からはつかさの話ばかりだ。勢いで告白してしまったこと、つかさと自分が名前で呼び合うようになったこと、そして、つかさが過去の出来事によって個性に対して複雑な気持ちを抱えているかもしれないと心配していること。根が真面目で熱血で他人思いな彼のことだ、なんとかしてやりたいと思っているのだろう。僕だって、そうして欲しい。もはや僕等自身だけの問題ではなくなってしまったのだから。しかし僕の想いとは裏腹に、話題は僕のことへと転換した。


「あのよ、ちょっといいか?その、お前のことで。」

「え?僕?……別にいいけど。」

「なんつーか……男にこんなこと聞くの野暮だってのはわかってんだけどよ、この前、なんで泣いてたんだ?」

「え?あー……」


僕は言葉に詰まってしまった。自分という存在について悩んでいました、なんて僕の口から彼に話せるわけもなく。けど、あの日テツと話してからなんとなく気持ちの整理がついていた僕は、勇気を出して切島に少しだけ向き合ってみることにした。


「あのさ、切島は、嘘って許せる?」

「嘘?そりゃ男らしくねーな!俺はぜってー嘘なんかつきたくねェ!」

「ごめん、聞き方が悪かった。相手が切島に嘘をついてましたって打ち明けてきた時、許せる?」

「ん?そーだな……まー、内容によるっつーか……」


切島は腕を組んだり顎に手を当てたりしながらぶつぶつ呟いて真剣に考え始めた。テツも彼も一つ一つの質問に本当に真剣に考えて答えてくれるから、嘘というものに一生縁がないのだろうとさえ感じられる。僕が知らないだけで、彼等には彼等なりの過去があるのかもしれないけれど。切島の言葉を待ちながらポテトを摘んでいたら、よし、と小さな声が聞こえた。彼の答えが定まったようだ。


「俺は許す!」

「内容によるんじゃなかったの?」

「いや、お前の質問の意味を考えた。」

「どういうこと?」

「前提は相手が嘘ついてたのを正直に話してくれたっつーことだろ?だったら許すぜ、なんか嘘つかなきゃなんねー理由があったんだろ。」


意外も意外だった。この暑苦しいタイプの人間は嘘なんて絶対許さないと思っていたからだ。それに関しては僕もつかさも同意見で。テツもそうだが目の前の彼も流石ヒーローを志している男、いや、漢。僕等の知る並大抵の男という生き物とは器の大きさが違いすぎる。


「そっか……」

「ん?もしかして、あん時泣いてたのって誰かに嘘つかれたのが原因なのか?」


なぜ泣いてしまったのか、今ならその理由がはっきりわかる。僕が僕の存在について悩んでいたこと、それだけだと思っていた。けど、そうじゃないんだ。僕が僕自身に嘘をついていること、そして、正直で真っ直ぐな君に嘘をついてしまっていること。けれど、そんなこと言えるわけもなく。


「いや、そうじゃないんだけど、ちょっと、僕の悩み事に関係あるっていうか……ごめん、上手く言えないや。」

「そうか……あのよ、俺になんか力になれることあったら遠慮なく言ってくれよな。」

「うん、その時は宜しく頼むよ。」

「お、今日はやけに素直だな!」

「うーん、キミのせい……いや、キミのおかげだろうね。」


先日と同様、僕はクスクスと笑ってしまった。正直、僕は切島の様な暑苦しいタイプはテツ以外受け付けないと思っていたけれど、どうやら彼も例外の様で。ハッキリ言おう、僕は彼のことが好きだ。良き友人として。


チラッと彼の顔を見たら、口を開けてぼーっとしていた。それに、何故か燃えるような赤い髪と同化しそうなくらいに赤くなっている。一体何が彼に火をつけたのか。どうしたの、そう問う前に彼はハッとしたような素振りを見せて、テーブルに肘をつき、手で口元を隠しながら言葉を紡いだ。


「……あ、あのよ、真剣に、聞いてくれるか?」

「ん?何か悩み事?」

「あ、ああ……すげェ大事な話だ……」

「わかった、僕で良ければ力になるよ。」


つかさのことだろうか、と思った僕はテーブルに肘をついて少し前のめりになった。よく見ると先程の赤い顔とは打って変わって、今度は少し青ざめている様にも見える。よくガスコンロなんかの炎は加熱しすぎると赤や黄色から青色に変わったりするけど、彼もその類なんだろうかと思ったら少し笑いが出てしまった。途端に切島は、うっ、と唸って。


「あ、ごめん。ふざけてるつもりじゃないんだけどちょっと……」

「い、いや、大丈夫だ。それより、その……お、お前、す、好きな奴とかいんのか?」

「……だ、大事な話ってそれ?」

「お、俺にとっちゃ大事な話なんだよ!」


つかさに好きな人がいるかが気になると言うのならば気持ちは理解できる。だが、僕の気持ちを聞いて何になるのだろうか。この切島鋭児郎という男はことごとく僕の想像を遥かに凌駕してくる。全く飽きないというか食えないというか、底の知れない男である。


「前も言ったけど、恋愛にはキョーミないよ。」

「いや、でも、あん時女子と……」

「あれはつかさちゃんの友達だよ。変な男と揉めてたのを収めてね、お礼にお茶でもーって。」

「そ、そうなのか!じゃ、彼女とかじゃねーんだな?」

「そんなのないない。僕、女にキョーミないし。」


僕はストローに口をつけてちゅーっとジュースを飲んだ。彼はじーっと僕を見つめている。なんだか今日は彼に観察されている様な気がして少し落ち着かない。僕はポケットから取り出した飴を口に入れた。ちなみにこの飴は先日テツがくれたものの残りだったりする。


その質問を最後に、話は当初の話題に返っていつかの続き。キューピットになってくれだのつかさと遊びに行きたいだのと恋するオトコオーラ全開で。けれど僕とも遊びたいとの申し出もあって、彼の合宿が終わり次第一度くらいは遊びに付き合うよと返事をしたらまるで告白が成功したかのように喜んでいた。


言葉通り、彼にご馳走になって店を出ると夕方の良い時間帯で、そろそろ帰るかと同じ電車に乗って帰った。電車を降りていつもの場所で彼と別れた。去り際には、折角行けるんだから合宿頑張れよ、と拳を突き出したら、からりと笑って、おう!と少し硬化させた拳をごちっと突き合わせてきた。





僕ももう直ぐ夏休みだ。この前期は色んなことがあった。本当に、色んなこと。暫く切島にもテツにも会わないだろう。


さて、僕の胸中にはつかさが受け取った爆豪の言葉、忘れてないさ。ただ、考えられるだけの余裕がなかっただけで。彼を、振り回すな、そして、弄ぶな、と。


その言葉について考えるため、そして、遠くない未来で僕等の真実を白日の下に……切島鋭児郎という太陽の下に晒すためにも、この夏休みはある一人の人間と向き合おうと思う。


飴宮つかさという人間に。





向き合う決意




夏休みが終わったら、僕等の真実を打ち明けようと決意した。僕はヒーローにはなれないけれど、ヒロインの従者くらいにはなれるだろうか。



***



あの涙を見た日から、ツカサの笑顔を見る度にすげェドキドキしちまう。今日もそうだった。あの笑顔を見ると、つかさを目の前にしたような気持ちになっちまうんだ。やっぱり…………俺はつかさにソックリな男のツカサにも恋をしてんのか?わかんねェ……合宿でまた上鳴と鉄哲にでも相談すっか……



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