夕食の際、家族に事情を話したところ、あっさりツカサという存在で暫くの間日常を過ごすことを受容された。まぁ家族なんだからそんなに驚くこともないだろうけれど。仮に夏休み以降もこのままだとしても幸い学友にも恵まれ、僕の個性をいじってくるようなレベルの低い輩は存在しない。問題はただ一つ、切島鋭児郎にどう説明するか。つかさとデートがしたいとかなんとか言ってたっけ。それから、僕とも遊びたいとかなんとか……なんて考えていたら突然テレビが緊急の特番に変更され、家族がテレビに釘付けで。見たところ、どこかの学校の謝罪会見だろうか。隣野高校じゃないし、僕には関係無いねと飴を一粒口に放り投げたところで記者の声でそれが雄英高校だとわかり、危うく飴を飲み込んでしまうところだった。
僕もテレビに釘付けになってしまった。要約すると、例の合宿中、敵の襲撃により学生が一人、それもあの爆豪が連れ去られたとか。他にも数人の怪我人が出た者の死人は出さずに済んだようで。僕は暑苦しい彼等の姿をすぐ頭に浮かべ、スマホをサッと持ち上げたけれど、今連絡を入れても迷惑をかけるだけだと思いスマホの画面を暗くした。ボーッとテレビを眺めていたら今度はヒーローと敵の交戦の生中継が始まった。闘っているのは現代のトップヒーロー、オールマイトだ。
激しい戦闘の末、彼はひょろひょろになりながらもどうやら勝利を収めた模様。ヒーローに興味はないけれど強い男には興味がある僕は、もう彼のあの圧倒的で豪快な戦闘がもう見られなくなるのかと思うと心に冷たい風が吹いたような気がした。まぁ、敵との戦闘なんて避けられるものなら避けるに越したことはないのだけれど、これで敵の脅威が収まるという訳ではない。あくまでも、彼が闘えないだけの話で。
あれから数日、切島ともテツとも無事に連絡がとれ、彼等の安否を確認することができた。特に切島は爆豪救出のため神野に赴いたとか。友達のために危険を顧みず敵地に侵入するなんて無茶なことを、と思う反面、漢らしいじゃないかと見直した部分もある。さて、今日はそんな彼とデート……じゃない、遊戯施設へ遊びに行く日だったりする。僕は男だから、これはデートとは呼ばない、はず。
本能的に今日は少し中性的な服を選んでしまった。つかさもいつも僕のために身なりについてこんな風に悩んでいたのだろうか。待ち合わせ場所に先に着いて、スマホをいじっていると、遠くから僕の名前を呼ぶ大声が聞こえた。
「おーい!!ツカサ!悪ィ、遅刻しちまった!」
「約束の時刻には間に合ってるよ。」
「いや、お前を待たせちまった!こんなん遅刻と同然だ!」
「……この真夏によくもまぁそんな暑苦しくいられんなぁ。」
「おう!やっぱ漢っつーのはココの熱さよ!」
「……ダダ被りかよ。」
切島は自分の心臓のあたりにドンッと右拳を当てて燦然と輝く太陽のような笑顔を浮かべた。僕と彼女が守りたいと思っている笑顔を。この笑顔を壊すくらいなら、という彼女の想い、今ならこの僕にもわかる。尤も、僕と彼女が彼に抱える気持ちには親愛と恋愛という明確な差異が存在するのだが。
ひとまず近くの店で一緒に昼食をとった後、本日のメインイベント、遊戯施設へと足を踏み入れた。ビリヤードやボーリング、卓球、それから居合わせた人とバスケットボールやサッカーなんかを楽しんだ。僕はあの隣野高校スポーツ科、例え遊びとはいえスポーツで負けるなんて当然自分のプライドが許す訳もなく、圧倒的な運動神経を見せつけてやった。居合わせた人々からは沢山の称賛の言葉をいただいた。ちなみに切島はと言うと、顔を赤らめながらキラキラと輝く目で僕を見つめていた。まるで、恋するオトコのような顔で。
「はぁ……ツカサ……おめェやっぱすげェわ……」
「何が?」
僕がスポーツドリンクを飲みながら小休憩を挟んでいると、切島は僕の隣にしゃがんで突然溜息を吐いた。普通に考えれば彼の言う凄いとは僕の運動神経のことなんだろうけど、経験上、彼が僕の想像通りの発言をしてくれたことは殆ど無いに等しくて。敢えて何がと聞いてみる。
「いや、その運動神経もだけどよ……なんつーか、周りの人間を惹きつける魅力っつーか……」
「……は?」
「お前さ、どっかの王子みてーにキラキラして見える時もあんだけど、こう……どこか儚いっつーか……」
「……つまり、どういうこと?」
「なんつーか……ずっと見てなきゃ突然消えちまうような気がして、なんかこう、不安でドキドキするっつーか……」
彼の直感こそ本当に凄いと思う。僕は魔法と現実の世界を行き来する、消えては現れ、現れては消える存在なのだから。儚い、という表現はあながち間違いではないのだ。僕は自嘲気味にフッと笑った。すると、彼はうっと小さく唸って、燃えるような赤い髪にくしゃりと手を当て、腕で軽く顔を隠している。腕の隙間から見える顔も、燃えるような赤色で。これだけ運動した後だ、まさか熱中症とか……!?
「切島!大丈夫!?」
「えっ?」
僕はちょっとごめんと一言告げて、切島の額に自分の手を添えた。突然だったからかガチッと硬化されてしまい、少し掌に擦り傷ができた。彼は慌てて謝ってきたけれどそんな些細なことはどうでもよくて。今は彼のことが心配だ。
「……熱はないみたいだね。」
「お、おう……」
「切島、ちゃんと水分摂ってる?」
「え?あ、そ、それは……」
「ほら、これ飲んで。」
「は、はぁ!?い、いや、でも間接……」
「は?乙女かよ。僕等男同士じゃないか。」
以前アイスを食べている時にも同じ会話をしたような気がする。確かあの時の切島はそれもそうかと納得して僕にアイスを食べさせてくれたっけ。というわけで僕はスポーツドリンクを差し出したのだけれど。
「だっ、ダメだ!」
「は?いや、でも……」
「お、俺、自分で買ってくっから!」
「あっ、切島!?……行っちゃった。」
切島はすごい速度で走り出して行ってしまった、と思ったらスポーツドリンクを片手にすごい速さで戻って来た。なんなんだ一体。
「ツカサ!」
「ん?」
「わ、悪ィ。その、気ィ遣ってくれたのに……」
「ああ、いいよ別に。切島って可愛いところあるよね。僕男なのに、ウブって言うかなんていうか。」
「ッ……や、やっぱ、笑顔が……」
僕がクスクスと笑ったら切島はまたしても燃えあがる赤い髪と同じくらい顔を真っ赤にしていた。掌で隠そうとしているところもなんとも可愛らしい。彼は少し顔を振って、パチンッと両頬を自分の掌で軽く叩くと、僕の目をじっと見つめてきた。何か大事な話だろうかと思ったところで、彼はゆっくり口を開いた。
「あ、あのよ、つかさ……あ、いや、お前じゃなくてよ、飴宮つかさの方な。その、つかさとツカサは……マジで親戚、なんだよな?」
ついに、来たか。この質問が。今まで彼の中でそうだと勝手に仮定されていたつかさとツカサの関係性。現在、彼の中では一体どのような見解が出されているのだろうか。気にはなるけど今質問されているのは僕だ。僕の答えは決まっている。憧れのヒーロー、リアルスティールの姿を思い浮かべる。小細工無用、真っ向勝負。コレが僕のやり方だ。
「ねぇ、僕の苗字、知りたい?」
「は?あ、ああ、そういえばそうだな……」
「僕はね、飴宮。飴宮ツカサだ。」
「…………は?」
無理もない。信じられないだろう。何せキミが恋する女の子と僕は…………なんて軽く目を閉じて想いを馳せていたのに彼ときたら、全く僕の想像の範疇に収まるような男ではなくて。
「そりゃそうだよな!」
「……は?」
「いや、だって親戚ってことは同じ苗字だろ!しかしよォ、名前まで同じにするかフツー!?片仮名と平仮名って……なァ?」
僕は忘れていたのだ。彼が僕と爆豪にスパルタ指導されてなんとかギリギリでやっとテストに合格できる程度の理解力しかない、察しの悪いヤツだということを。
察しの悪いヤツ
「そうか、そうだったね…………」
「ん?どーしたんだよ?」
「……あのさ、僕とつかさちゃ……いや、つかさが、同じ人間だって言ったら信じる?」
「はぁ?……ぶっ!わははは!おめー冗談とか言うんだな!そりゃ無理があんだろ!」
どうやら信じさせるには論より証拠ということらしい…………はぁ……僕のありったけの勇気を返してくれ。