確信犯の距離

なんだかんだで今日一日は楽しかったの一言に尽きる。やはりスポーツは素晴らしいものだ。勝負の中で仲間や相手と切磋琢磨しながら信頼や確かな力を育むことができるのだから。


ちなみに今は、帰る前にハンバーガーでも食べて帰らないかと誘われて駅前のハンバーガーショップで向かい合って座っている。こうして彼と向かい合うのも大分慣れてきた。そしていつも通り、彼の語りがほとんどながら話に花が咲くわけで。期末の実技試験のせいで補講がありつつもなんとか合宿を乗り越えたとか、合宿中、みんなが危ない中自分は何もできなかったのが悔しくて堪らなかったとか、拐われた爆豪を救けることができたけれど、この話は秘密だぜとか。ちなみに合宿のキツさはテツからも嫌というほど聞かされた。テツは勇敢にも仲間と協力して敵将を一人討ち取ったとか。流石僕の憧れのヒーローだ。


さて、それから本日最後の話題。どうやら雄英高校は明日から寮制度が始まるのだとか。みんなとの共同生活が楽しみだとワクワクしている切島の太陽のような笑顔は、言っちゃ悪いけど可愛らしくて、僕に弟がいればこんな感じなのかな、なんて思ってクスクス笑ったら彼は持っていたポテトをぽろっと落としてしまった。幼児かよ。


「おいおい、子どもみたいだぞ。」

「…………」

「切島?」

「……あ!い、いや!え、えっと……」


今日の切島はなんだかおかしい。さっき運動した後もそうだった。熱があるわけでもないのに突然顔を真っ赤にすることが多くて少し……いや、かなり心配だったりする。


「切島、今日なんか変だよ。」

「えっ!?そ、そうか!?」

「うん、やけにぼーっとしてるし顔は赤くなるし……なんか病気でももらったんじゃないの?あ、それとも敵の個性の影響とか……」


と、僕が色々邪推し始めると、切島はとてもか細い消え入りそうな声で僕の名前を呼び、その声とは対照的にギラギラと燃え盛る真夏の太陽の様な熱い眼差しを僕に向けてきた。この目は以前見たことがある。そう、過去の荷物をキミに背負わせたあの日に。


「ツカサ…………」

「ん?何?」


あくまでも平常心で、いつも通りサラッと答える。こんな真剣な顔で一体何を言うのかと、息を飲んで次の言葉を待っていたけれど、今度ははぁっと溜息を吐いてこれまたいつか見たかのような指を捏ねる仕草を見せた。


「俺、明日から寮に入っからさ……ツカサ……お前とも、女子の方のつかさとも、登下校できなくなっちまうんだわ……」

「あぁ、うん、確かに。」

「……なんか、寂しくね?」

「え?…………まぁ、そうかもね。」

「何だよ今の間は!」

「あはは!そんなムキになんなって!ウソウソ、ま、それなりに寂しいよ……僕、キミのこと結構好きだからさ。」


ストローに口をつけてジュースをちゅーっと飲み、にっこり笑って素直な感情を伝えてみると、彼は口を開けてぽかんとしたまま動かなくなってしまった。


「…………」

「切島?」

「…………!?すっ、す、す、好き!?おわっ!?」


切島は僕の口から出た『好き』という言葉にやたらと過剰反応して、思い切り仰け反って勢い余って椅子ごとひっくり返ってしまった。しかし流石の反射神経、ガチガチに硬化してなんとか怪我はない模様。しかし、僕が女の姿で言ったならその反応も理解できなくもないが、今の僕は男なのに……


「……何してんのさ。」

「お、おめーが突然、あ、あんな顔でっ!す、すす、好き、とか言うからだろ!?」

「あんな顔?失敬だな、ただ笑っただけじゃないか。」

「お、おめー、自分の笑顔、鏡で見たことねェのか!?」

「あるわけないだろ気色悪い。キミは鏡の前で笑顔の練習でもしてるの?」

「相変わらずクールだな!……前も言ったけど、笑った顔が似てるっつーか、もう瓜二つなんだよ、ツカサとつかさが……」


そりゃそうだろ、さっき同じ人間だっつったろ?キミは信じてないみたいだけどね、という言葉は口に含んだジュースと一緒に飲み込んで、僕は興味なさげにふーんとだけ返事をした。小細工無用、真っ向勝負とは言ったものの、この男には論より証拠だから今ここで口を酸っぱくしても意味がないなんてのはきっとテツでもわかるだろう。


しかし僕はあまり鈍くない方みたいだ。彼がこんなに赤くなる理由がわかってしまった。彼は僕の笑顔の奥につかさの存在を無意識に見出しているに違いない。だが、自分の笑顔がそんなに女のつかさに似てるとは……彼以外からは誰からも指摘されたことがない上に、そもそも男の姿で笑うことが滅多にないのもある。この僕がここまで気を抜いて笑顔を晒してしまうなんて……やはりこの男は人々に安心感を与えてくれる太陽の様な存在なのだと改めて実感する。


「……俺、変か?」

「変なんじゃない?少なくとも今日は。」

「…………やっぱ、そーゆーこと、なのか……?」

「何が?」

「いや、なんでもねェ!あ、あのよ、俺、寮に入っけどよ、外出できねーとかじゃねェし、その……」

「……アイス食べるくらいなら付き合うよ。」

「お、おう!ありがとな!」


なんとなく彼の言わんとしてることが予測出来たから僕もそれなりにご期待に添う答えを返すことができた。と、ちょうどトレーの上の食べ物を全部胃袋に収めたところで二人で一緒に帰りの電車へ。


電車の中でも彼の話は尽きない。入寮したら部屋のインテリアをあーだこーだするだの、落ち着いたらつかさを遊びに誘いたいだの、いつか僕も部屋に遊びに来いよだの……あれこれ話していたらあっという間に最寄駅に着いてしまっていて。二人で電車を降りて、さぁ、あとはいつもの場所で別れるだけ。明日からは寮だと言っていたし、軽く挨拶でもしておくか。


「あ、明日から寮生活頑張んなよ。ま、連絡くれたら返事はするし気兼ねなく遊びにでも……ッ!?き、切島!?な、何して……!?」


そう。社交辞令というか、先ほどの話の続きというか、ちょっと軽く声をかけるだけのつもりだったのに。こともあろうか彼は僕を正面から抱きしめてきたのだ。男の、僕を。


「ね、ねぇ、切島……?」

「……いや、な、何でもねェ!わ、悪ィ!」


いくら群青色の髪の僕が涼しげに見えても男二人が密着なんてしたら暑いに決まっているだろう、なんて見当違いをしかめっ面で表現しながら僕はグイッと切島を押し除けた。


「今日は楽しかったよ。スポーツのお誘いならいつでも付き合うからさ。」


僕はくるりと踵を返したけれど、もしかして後期から登下校を共にできないのが寂しくて暑苦しく抱きついてきたのかも、と思って軽く後ろを振り向いたら、まるで恋する乙女のように片手で心臓の辺りをギュッと握りしめていた。


「……じゃ、またね!」

「お、おう!ま、また…………しような!」

「……何?聞こえないんだけど?」

「……!?な、何でもねェ!またな!」


切島は何かボソッと呟いていたけれど生憎僕の耳には届かずじまい、聞き返しても答えは返って来ず。彼は顔色を燃えあがる赤い髪と一体化してんじゃないかってくらい真っ赤にして走り去って行った。





確信犯の距離




「やっぱアイツおかしいな……合宿で何かあったのか……?つかさなら……どう思うんだろう……」



***



言っちまった……また、デートしようぜ、って……やっぱ上鳴と鉄哲の言う通りだ……
今日の遊び……いや、デートの距離で確信を持っちまった、いや、俺が今まで認めてなかっただけだ……間違いねェ……俺は……俺は……ツカサに……



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