俺の気持ち

最初はなんとなく雰囲気が似てんなァとしか思わなかった。だけど、同じ趣味を持ってる奴や似た雰囲気を纏った奴なんか世の中にゃごまんといる。特にそれが親戚なんかじゃ尚更だ。


俺が、す、好きになったオンナノコ……名前は飴宮つかさ。群青色の綺麗な髪、尖った八重歯と垂れ目が特徴だ。俺はあの子から漢らしいだの、ヒーローだのと、散々嬉しくなるようなことを言われた挙句、あの子が見せた、八重歯を見せてニッと笑う笑顔、それから、時折見せる儚く消えちまいそうな笑顔に心をガッチリ掴まれてしまった。普段はぼんやりした大人しいっつーか守ってやりたくなるような印象だが、まさに人は見かけによらねェとはこのことで。つかさはあの隣野高校スポーツ科の1年生、運動神経抜群であらゆるスポーツが得意なんだとか。


つかさは過去に同級生のバカな奴らからひでェ嫌がらせを受けて以来、個性については語りたがらず、おまけに男があまり得意じゃねェときたもんで。しかし、好きだという想いを伝えても嫌がられることはなく、むしろ自分の過去を話してくれた上に、ヒーローとしては俺のことが好きだとまで言ってくれた。ところがどっこい、その言葉はどうやら男としてはまだまだ未熟ということを意味しているような気がするわけで。俺の気持ちを真剣に考えるためにも、もっと仲良くしようという前向きな返事をもらったところで、俺達は親しいダチっつー関係で落ち着いている。


それから、俺が憧れる真の漢……名前はツカサ。つかさと同じ名を持つアイツは、髪色もあの子と同じで、これまた尖った八重歯と垂れ目がちな切れ長の目が特徴的な奴で。ちなみに俺の憧れの男は俺の好きな女の子にそっくりな笑顔を見せてきたりするもんで、最近それが俺の悩みの種だったりする。普段のアイツはやれやれといった感じのリアクションが多く、とてもクールな印象だが、心の内にはとても熱いモンを秘めている最高にかっけェ漢だ。ちなみにアイツも隣野高校スポーツ科で、成績も運動能力も抜群ときたもんだ。


街や電車での出会い、それから登下校なんかを通じて二人と仲良くなっていって、つい最近二人が親戚であるということを知った。あれだけひた隠しにしていれば流石の俺も二人が無関係でないことに気がつくわけで。まァ、名前も同じ親戚っつーのはややこしくて隠したくなんのもわからなくもねェわな、となんとなく納得しちまった。


しかし状況は一変して、最近……特に先日の期末試験くらいからか、俺は自分の気持ちについて激しく葛藤し始めた。どうやら俺はツカサに対して漢として憧れているだけではなく、単純に男としての魅力も感じてしまっているようで。ただ、なんとなく自分の中でそれを認めることができなかったりする。





期末試験も終わって、無事に合宿に参加出来ることが決まった翌日。クラスの数人と合宿に向けて買い物に出掛けた時のこと、俺は上鳴にこれまでのツカサに関する相談を全てぶちまけた。誰にも言えそうになかった事も、雰囲気的になんとなく上鳴にゃ全部話すことができたんだが、流石チャラ……なんて言ったら失礼だな、性別を問わず交友関係の範囲が広い上鳴だ、俺や爆豪じゃ思いつかねェ意見をくれたわけで。


「へぇ……でも、不思議なもんだなー……恋した女の子と同じ雰囲気で同じ名前の親戚っぽい男ねー……それ、同じ人間っつーことはねぇの?」

「……そんなことあると思うか?」

「……流石にねーな。あ、個性は?」

「あー……女子のつかさは何かしらの変形型、男の方は……聞いたことねェわ。」

「マジ?聞きゃいいのに。」

「あんま詮索すんのも良くねーかなって……」

「……らしくねーな。やけに慎重っつーか……お前そんなんだっけ?」


らしくねェ、か……これはそんなんじゃなくてただの気遣いなんだが。上鳴は雄英に入ってからの俺しか知らねェからそんな風に言ってっけど……とまぁ、今はそんなこたァ関係ねェ。大事なのは俺の気持ちだ。ツカサについての、俺の、気持ち。


「……あのよ、真面目に聞いて欲しいんだけどよ。」

「ん?何だよ。」

「お、男に対して……こう……なんつーか、ドキッとしちまうのって、おかしい、か……?」

「は……?男に恋愛感情持ってんのか?」


そう、自分でもなんとなくその答えはぼんやりと浮かんでいた。男に、恋愛感情……そんなことが、あるのだろうか。いや、世の中にはそういった人もいるし、俺はそれに対して別に変だともなんとも思わねェ。好きなモンは好き、それでいいじゃねェか。だが、俺のこの感情は果たして恋愛感情、なのだろうか。つかさに対する想いは明らかな恋愛感情だが、ツカサに対するこの想いは、なんとなく恋愛なんつー言葉じゃしっくりこねェ気もする。ただ、否定することもできなくて、俺は上鳴の質問に対して首を横に振ることはできなかった。


その後、俺たちは店を出てなんとなく騒がしくなってる広場へ向かったが、なんと緑谷がヴィランと接触したとかなんとかで。慌てて俺と上鳴、同時に居合わせた飯田も駆け寄って様子を窺ったが、先に気付いた麗日のおかげで何とか何の被害もなく事を切り抜けた様だった。ひとまず今日は解散しようということになった。仕方ねェし、今日は帰るかと思ったところで上鳴から最近できた和菓子屋に付き合ってくれと頼まれた。すると芦戸も興味を持ったらしく、とりあえず三人でその店へ向かった。道中、芦戸は中学の時のダチから電話がかかってきていて、その間俺は上鳴と先の続きの話をした。


「お前さ、例のつかさちゃんとツカサ君、どっちと付き合いてーの?」

「付き合う?そりゃどっちとも今後も仲良くしていきてーけど……」

「いや、そーじゃねーよ!カレカノとか、そういうの!」

「…………わかんねェ。」

「マジ!?えっ、普通につかさちゃんじゃねーの!?」

「いや、そう聞かれっと……選べねェ……」

「マジ……?」


なんつー会話をしていたら丁度芦戸の電話も終わって、件の店の前に着いていた。先頭にいた俺が店の戸を開けると何故かそこにはまさに噂の渦中の人物、ツカサが茶髪の女子と座っていた。しかも、目にハンカチを当てて……泣いてんのか!?


「お、おい!!どうしたんだよ!!ツカサ!!何で泣いてんだよ!?」


泣いているツカサが目に入った瞬間、胸のド真ん中に穴が開いたんじゃねェかっつー焦燥感や不安感に襲われた。とにかくなんとかしてェと思って考えるよりも早く身体が動いちまって、俺は奥の席まで走って行って、ツカサを抱き締めて中性的な綺麗な顔を俺の胸に押し付けた。


「きり……しま……?」


ツカサはわけがわからないといった感じでボーゼンとしていた。そりゃそうだろう、俺だってわけわかんねェよ。なんでお前がここにいて、しかも泣いてんだって心配とか不安とか焦りとかなんか色々混ざって訳わかんねェ。


「あ、だ、大丈夫だよ。ちょっと、考え事してただけ。ね?」

「え?あ、う、うん……ツカサ……くん、涙脆いとこあるもんね!あはは!」

「……切島、暑い。」

「え?…………!?わ、わわ、悪ィ!!」


よく考えたら男が泣いた男を抱きしめてるっつーなんとも意味わからん絵面が出来ていることにハッとした俺は慌ててツカサから飛び退いた。するとコイツは俺を見ながらクスクスと笑い始めた。コイツの笑顔を見ると、時折つかさが目に浮かんでしまう。だが今日は目に浮かぶどころじゃねェ。今日のツカサの笑顔はつかさと瓜二つで、すっげェ綺麗で……だけど消えちまんじゃねェかっつーくれェ儚く見えちまった。この笑顔に釘付けになっちまった俺は、急激に顔面に熱が集まっていくのがわかった。きっと今の俺の顔は、この髪と同じように燃えるような赤色に染まってしまっているのだろう。





俺の気持ち




あの後、すぐにツカサは茶髪の女子と腕を組んで店を出て行った。まるで恋人同士のように寄り添う二人を見ていると少しだけ胸の辺りがずきんと痛んだ気がした。何だよコレ……わかんねェ……俺のことなのに、俺の気持ちなのに、なんで俺がわかんねェんだよ……


はぁっと溜息を吐いたら芦戸からもどうしたのー?と呑気な声で心配されちまったが、気を利かしてくれた上鳴が適当に誤魔化してくれてこの場はなんとか切り抜けた。


こんな、俺が俺の気持ちもわかんねェまま……来週、どんな顔で会えばいいんだよ……



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