重なる笑顔

あれからあっという間に1週間が経っちまった。今日はツカサとの約束の日だ。つい先日も散々上鳴と話をしたけどやっぱり結論は出なかった。上鳴は俺が男に恋愛感情持ってんじゃねーかって疑ってっけど、ぶっちゃけ否定はできねーわけで。ついに爆豪にすらも、見極めぐれェちゃんとやれや!なんて言われる始末。見極めっつーのが最初は意味不明だったが、なんとなく、どっちが好きなのかハッキリしろっつーことだと思った。爆豪は口数多い方じゃねェからなんとなくなんだが。


とまぁ色々考えながらツカサを待っていたらアイツは走ってやってきた。涼しそうな群青色に身を包むアイツは本当に爽やかで、まさに美少年といった具合で、真っ赤な俺とは正反対だ。


「ごめん、待たせた?」

「い、いや、全然!今来たとこだ!」

「そ、よかった。」


本当は30分も前からここにいたけどな、なんて思ったのは口にせず、俺達は店に入って席に着いた。今日は俺の奢りだから好きな物頼めよ!とメニューを渡すと、ツカサはパラパラッと眺めてカルボナーラを頼むとのこと。俺はハンバーグを頼むことにした。飯が来るまでジュースを飲みながら軽く試験の結果の報告した。実技では下手うっちまったが、ツカサと爆豪のおかげで筆記は切り抜けたことと、例の合宿にも無事に参加できることを報告すると、ツカサは僅かに口角を上げて微笑んでいた。なんつーか、儚げな。





さて、飯も食い終わって、今日の本題。俺は勢いでつかさに告白したこと、つかさと俺が名前で呼び合うようになったこと、そして、つかさの過去のこと。ツカサはこれまでで一番真剣な顔で話を聞いてくれた。俺なんかがどうにかできることじゃねェかもしんねーけど、つかさが安心して笑えるようにしてやりてェ……そういえば、目の前のコイツ、ツカサとつかさの笑顔が時折重なって見えることがある。だからだろうか、ツカサの表情がつかさのそれだと錯覚しちまうことがある。この前なんか、まさにそうだ。


「あのよ、ちょっといいか?その、お前のことで。」

「え?僕?……別にいいけど。」

「なんつーか……男にこんなこと聞くの野暮だってのはわかってんだけどよ、この前、なんで泣いてたんだ?」

「え?あー……」


ツカサはバツが悪そうに目線を左右に泳がせた。いつもクールで冷静沈着なコイツがこんなに動揺すんのはかなり珍しい。だが、すぐにいつものコイツに戻った。一度ふぅっと息を吐いたら俺の目を真っ直ぐ見つめて、いつもより少し低い声で呟いた。


「あのさ、切島は、嘘って許せる?」


嘘……?嘘をつくことだろうか、それともつかれることだろうか。きっと後者だろうが、ひとまず俺自身、嘘をつくことは御免だと自信満々に訴える。


「嘘?そりゃ男らしくねーな!俺はぜってー嘘なんかつきたくねェ!」

「ごめん、聞き方が悪かった。相手が切島に嘘をついてましたって打ち明けてきた時、許せる?」

「ん?そーだな……まー、内容によるっつーか……」


どうしてこんなことを聞いてくるんだろうか。もしかして、ツカサは俺につかさのことを知らねェっつったのを気にしてんのか、いや、それともなんか別の…………嘘、ではねェにしろ、俺だって口では偉そうなこと言ってても実際その場では脚が竦んで、勇気が出なくて前に踏み出せなかった経験がある……なんて柄にもなく色んなことを考えこんじまっていて。


大切なのは嘘をついたついていないとかそんなんじゃねェ。相手のことをどれだけ考えてやれるかだと俺は思う。仮にツカサが何かしらの嘘をついていたとしてだ、それは決して誰かを傷つけるためなんかじゃなくて、誰かを守るために違いねェ。きっとそうだ。そんなん、許す以外の選択肢なんてあり得ねェ。


ツカサはポテトを摘んで俺の答えをゆっくり待ってくれている。よし、俺は俺の思うままに答えようじゃねェか。


「俺は許す!」

「内容によるんじゃなかったの?」

「いや、お前の質問の意味を考えた。」

「どういうこと?」

「前提は相手が嘘ついてたのを正直に話してくれたっつーことだろ?だったら許すぜ、なんか嘘つかなきゃなんねー理由があったんだろ。」


ツカサは目を見開いて驚いている。それから少し俯きがちに言葉を続けた。


「そっか……」


思い詰めたような表情……もしかして、あの日泣いてたのは、誰かに嘘をつかれていたから、か?


「ん?もしかして、あん時泣いてたのって誰かに嘘つかれたのが原因なのか?」


「いや、そうじゃないんだけど、ちょっと、僕の悩み事に関係あるっていうか……ごめん、上手く言えないや。」


ツカサは自分で自分の片腕をぐっと掴んでいる。コイツ、鉄哲に勝つぐれェ強ェのに身体はこんな細っこくてヒョロヒョロで……女みてェだと何度も思ったことがある。失礼だからぜってー言えねェけど。


「そうか……あのよ、俺になんか力になれることあったら遠慮なく言ってくれよな。」

「うん、その時は宜しく頼むよ。」

「お、今日はやけに素直だな!」

「うーん、キミのせい……いや、キミのおかげだろうね。」


ツカサは目を細めて、口元に指を当てながらクスクスと笑った。その笑顔が目に映った瞬間、俺の顔は火が点いたんじゃねえかっつーぐれェ熱くなった。なんだ、この笑顔は……確かにコイツは男女共に認めるイケメンだ、だが、この笑顔はまるで……天女……いや、女神か……?つかさと同じ、群青色の髪をしているからか、つかさと重なって見えてしまう。ハッと気がついて意識的に瞬きをすれば目の前にいるのは男のツカサなんだと認識できる。だが、この胸のドキドキは治まってはくれない。いや、認めるわけにはいかない。俺が恋をしているのはオンナノコのつかさだ。だってコイツは男……って、そうだ、コイツ、確かあの時彼女っぽい奴と一緒に……


「……あ、あのよ、真剣に、聞いてくれるか?」

「ん?何か悩み事?」

「あ、ああ……すげェ大事な話だ……」

「わかった、僕で良ければ力になるよ。」


ツカサは真剣な顔でずいっと俺に顔を近づけた。こんなにまじまじとコイツの顔を見るのは今日が初めてだったりする……やっぱ、男、だよな。うん。違ェねえよ。ツカサは男だ。そんで、俺の憧れの、漢。なんて暗示をかけていたら突然ツカサがニッと笑った。やっぱ笑顔は綺麗っつーか可愛……じゃねェ!思わず、うっ、と声が出ちまった!


「あ、ごめん。ふざけてるつもりじゃないんだけどちょっと……」

「い、いや、大丈夫だ。それより、その……お、お前、す、好きな奴とかいんのか?」

「……だ、大事な話ってそれ?」

「お、俺にとっちゃ大事な話なんだよ!」


ツカサはぽかんとした表情で呆気にとられている。それからハッと我に返って、いつも通りクールな雰囲気を纏って言葉を出した。


「前も言ったけど、恋愛にはキョーミないよ。」

「いや、でも、あん時女子と……」

「あれはつかさちゃんの友達だよ。変な男と揉めてたのを収めてね、お礼にお茶でもーって。」

「そ、そうなのか!じゃ、彼女とかじゃねーんだな?」

「そんなのないない。僕、女にキョーミないし。」


ツカサはストローに口をつけてジュースを飲み、徐に飴を取り出し、唇へ押しつけてそのまま口の中に入れた。唇が柔らかそうだなんて思っちまったのは秘密だ。


その質問を最後に、俺は当初の話題に返っていつかの続きを話した。つまるところ、つかさとのキューピットになってくれとか、どうしたら進展できるかなんつー相談。けれど俺はツカサのことももっと知りたいと思っていて。なんつーか、このモヤモヤした感情が何なのか確かめなきゃ気が済まねェ。つかさの本当の笑顔を見るためには、コイツをもっと知る必要がある気がする。軽く遊びに誘ってみると、合宿が終わり次第一度くらいは遊びに付き合うよと返事をしてくれて、思わず両手を上げて、やったぜ!と声をあげてしまった。


暫く話し込んで会計を済ませて外に出ると夕方の良い時間帯で、そろそろ帰るかと同じ電車に乗って帰った。電車を降りていつもの場所で別れるところでツカサは、折角行けるんだから合宿頑張れよ、と拳を突き出してきた。自然と笑顔になったたれは、おう!と少し硬化させた拳をごちっと突き合わせてツカサと別れたのだった。





重なる笑顔




つかさはオンナノコ。俺が、恋する、オンナノコ。ツカサは男。俺が、憧れる、漢。じゃあ、あの笑顔は?この胸のドキドキは?わかんねェことだらけでスッキリしねェ。モヤモヤした胸をギュッと握るとふと俺の頭にはアイツらをどっちもよく知る共通のダチの顔が浮かんだ。合宿で、話を聞いてもらうか……あと、上鳴も一緒に。




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