「切島、それマジ……?」
「自分でもよくわかんねェよ……けど、女の方も男の方も、笑顔見せられっと同じように胸にグッときて、こう、ドキドキすんだわ……」
合宿は補習も加わってめちゃくちゃキツいが、やることなす事全部自分のためになってんだって思えばどんな困難も乗り越えられる。けれど、それは全部自分一人じゃできねェことだ。どれも仲間達や先生方の協力や支えがあってこそ。それと同様、俺の個人的な困難も仲間達の力を借りれば乗り越えられんじゃねェかと思って鉄哲と上鳴に相談に乗ってもらっているわけだが。
「だーっ!俺にはわかんねー!男にときめくってなんだよ!アレか?お前の好きな紅頼雄斗みてーなさ!」
「いや、それは本物の漢に対する憧れっつーか……まぁ確かにツカサには憧れてっけどよ……」
「つかさちゃんとツカサ君、二人と同時に会ってみりゃなんか明確な違いが見えんじゃね?親戚なら誘えんだろ?」
「えっ?そーいや……」
「いや!それはダメだ!」
「「えっ?」」
そういえばつかさとツカサ、確かに三人で会ったことは疎か、あの二人は同じ学校に通ってる親戚同士なのに一緒にいる場面を一度も見たことがないと思ったところで、何かを考え込んでいた鉄哲が突然大声で上鳴の提案を否定した。
「何でダメなんだ?」
「えっ?そりゃーおめェアレよ……今まで隠してたのはそれなりになんか事情あるんじゃねーか?例えば顔合わせづれェなんかがあったとかよォ……」
「あー、そりゃそーか。言いづらかったってことはそーゆーことかもしんねーな。悪い切島、さっきのはナシ!」
「なるほど……」
「……あのよ、俺にはお前が何に悩んでんのかわかんねェ。」
「「えっ?」」
またしても俺と上鳴の声が被ってしまった。そういえば鉄哲はつかさとツカサ、両方とも幼馴染っつったか。しかし、以前から何度も相談しているにもかかわらず、何に悩んでいるかわかんねェとは一体どういう了見だと思わず前のめりになって言葉を返しちまう。
「そんなんおめー、俺が女子のつかさと男のツカサのどっちが……」
「だから、どっちが、って何だよ。」
「えっ?」
「お前は、どっち『も』好きなんだろ。」
「いや、鉄哲ちょい待てって。切島が言ってんのは恋か友達かっつー……」
「切島、お前、俺のことどう思う?」
「「はぁ?」」
鉄哲は自分のペースで物を考えてるからか、俺や上鳴の言葉なんか全然聞いちゃくれなくて。けど、その顔は真剣そのもので。上鳴はまさかの四角関係!?なんてバカなこと言ってっけど、鉄哲が言いてェことはそんなことじゃねェはずだ。俺は鉄哲のことが好きだ。ダチとして。はっきりわかる。けど、ひとつだけモヤついた感情を持っている。それは、羨望の感情。
「……羨ましい、と思う。」
「だろ。」
「えっ?どーゆーこと?何で鉄哲が羨ましいん?幼馴染だから?」
「全部、切島より知ってっからだろ。俺が。つかさのことも、ツカサのことも。」
「……小っちェー男だなって思うよ。」
「誰もそんなこたァ言ってねェよ。切島よォ、俺ァお前なら良いと思うぜ?いや、お前が良い!」
鉄哲は自分一人で何かに納得しながら突然俺の肩をバシバシと叩いて笑顔で激励してきた。きっとつかさもツカサも、コイツの笑顔には随分と助けられてきたんだろう。今の俺にはハッキリわかる。
「あのな切島、男とか女とか置いといてよォ、お前ん中はずーっと、同じ名前のヤツらのことでいっぱいなんだろ?」
「お、おう。」
「よし、そんじゃ自分の見たもん信じて、自分の思った通りに行動すりゃ大丈夫だって!」
「何の根拠があってそんなこと言ってんの?つーか何も解決してなくね?切島、良いん?」
なんとなく、鉄哲の言いたいことはわかる。要するに、二人の言葉をちゃんと聞いて、どんな内容であれ正面から来たもんはしっかり受け止めて、俺も同じように正面からぶつかれっつーことだと思う。多分、だけど。
「鉄哲って、本当真っ直ぐだよな……」
「おうよ!!何事も真っ向勝負ってな!!」
「言っちゃ悪いけどバカなだけなんじゃ……あっ、じゃ、じゃあさ、合宿終わったらツカサ君とデートしてみたらいいんじゃね?んで、切島は気になってることちゃんと聞いてさ!」
「…デッ、デートォ!?」
「……いいんじゃねーか?多分。」
「け、けどよォ……ツカサはおと……!?」
俺はハッとして鉄哲の顔を見た。そういうことかと初めてわかった。鉄哲は、あの二人を似てるとかなんだとか女とか男とかそういうもんは置いといて、それぞれを、人として見てんだ。ちゃんと、人として、向き合ってんだって。
鉄哲は二人のことを詳しく知ってるはずなのに、俺にあんまり情報を与えてくんねェのもきっとそういうことだ。自分の目で見て自分で感じろってことなんだろう。
「……よし、ツカサをデートに誘ってみるわ!」
「……えっ!?ま、マジ!?俺、ちょっと冗談のつもりだったんだけど……」
「正直、俺が恋愛感情っつーのを向けてんのは女子の飴宮つかさの方だと思う、けど、なんか、引っかかんだわ……二人とも、ありがとな!俺なりにしっかり向き合ってくんぜ!」
「おう!その意気だ!」
俺と鉄哲は互いの腕をガッと音を立てて交差させた。小細工無用、真っ向勝負、いい言葉だ。俺もつかさとツカサにちゃんと向き合って、自分の見たものを、感じたものをそのまま受け入れてみようと思う。
翌日からもキツい合宿は続いた。実技面は尾白とペアを組んではいるものの、普段からトレーニングが趣味の尾白ですらこの疲れ様だ。ひとまず俺も今は余計なことを考えず、目の前にある自分にできること、やるべきことに集中しようと意気込んだ。
というわけで、なんだかんだで合宿は終了した。だが、無事にとはいかなかった。敵の襲撃に遭ってしまい、仲間が大怪我するわ倒れるわ、オマケに爆豪は拉致されて……なんとか奪還にゃ成功したが、全てはプローヒーローがいてこそだった。特にオールマイトにゃ感動した。いつか俺もあんな風に、みんなを、平和を、そして、アイツらを守れるようなヒーローになりてェと強く感じた。
この合宿で、改めて俺はヒーローへの、そして、漢っつーもんへの憧れを再確認することができた。自分で見たもん自分が信じなきゃどーすんだよっつー話で、鉄哲や上鳴と話したことも相まって勇気が溢れ出てきた俺は直ぐにつかさとツカサに連絡をした。ツカサの方からは直ぐに返事が来て、数通メールのやりとりをした。合宿の話はもちろんだが、爆豪救出作戦の話をしたら、無茶ばっかすんなと少し叱られはしたものの、漢らしいじゃん、とか、見直した、とか、褒める言葉もかけられてちょっとニヤニヤしちまった。
さて、ここからが本題だ。俺は勇気を出してツカサをデート……もとい、遊びに誘ってみた。もうすぐ雄英は寮制度が始まるからそれも加味して予定を組んで、なんとか入寮前日にツカサと約束を取り付けることができた。ゲーセンやカラオケ、各種スポーツの体験ができる大型遊戯施設に誘ったらとても楽しみにしている文面が帰ってきた。鉄哲につかさとツカサの好きそうなもん聞いといてよかったぜ。
さて、それからまた少し経って、ついに今日はツカサとの約束の日だ。昨日の夜は上鳴に頼んでセンスの良さげな服を見繕ってもらったし、髪もバッチリセットした。鏡の前で自分の両頬を軽く叩き、今日は一日ツカサとのデートを楽しもうと決めて家を出た。
待ち合わせ場所に向かったら既にツカサは待っていた。アイツの姿が見えた俺は一瞬足を止めちまった。服装が、いつものシンプルでクールな印象と違って、なんつーか、可愛いというか、ふんわりしたというか……一瞬、ツカサが男だっつーことを忘れてしまった俺がいた。けど、すぐにハッとして軽く顔を左右に振って、俺はいつも通り大きな声で元気にツカサに呼び掛けたのだった。
目で見て感じろ
「おーい!!ツカサ!悪ィ、遅刻しちまった!」
「約束の時刻には間に合ってるよ。」
「いや、お前を待たせちまった!こんなん遅刻と同然だ!」
「……この真夏によくもまぁそんな暑苦しくいられんなぁ。」
「おう!やっぱ漢っつーのはココの熱さよ!」
「……ダダ被りかよ。」
笑顔でツカサに話しかけたら、アイツもへらっと笑ってくれた。今日の笑顔も綺麗な笑顔なんだが、儚げっつーよりは楽しい夢を見て笑ってるような穏やかな笑顔だった。