優柔不断

近くの店で昼飯を食ってから、例の遊戯施設に行った。バスケやサッカーなどの定番からビリヤードやボーリング、卓球なんつーもんまで本当に沢山のスポーツを楽しんだ。遊びにもかかわらず何事も真剣に取り組むツカサの姿には俺も周りの人も魅入っちまってた。迸る汗がキラキラ光ってて、女子からはキャーキャー言われててまるでどこぞの国の王子様っつー感じだったが、何故か俺には儚く溶けて消えちまいそうな印象が残った。


「はぁ……ツカサ……おめェやっぱすげェわ……」

「何が?」


ツカサの魅力に取り憑かれた俺がしゃがんで溜息を吐くも、コイツはスポーツドリンクを飲みながらこの程度の運動、自分にとっては日常茶飯事だと言わんばかりけろっと返事をしてきた。


「いや、その運動神経もだけどよ……なんつーか、周りの人間を惹きつける魅力っつーか……」

「……は?」

「お前さ、どっかの王子みてーにキラキラして見える時もあんだけど、こう……どこか儚いっつーか……」

「……つまり、どういうこと?」

「なんつーか……ずっと見てなきゃ突然消えちまうような気がして、なんかこう、不安でドキドキするっつーか……」


言ってしまった後にハッとした。こんなんまるでツカサに夢中……いや、恋をしていると言っているようなものじゃないかと気がついたからだ。すると、突然コイツは自嘲気味にフッと笑った。思わず俺はうっと小さく唸って、髪にくしゃりと手を当てて、腕で顔を隠した。やばい。今の笑顔。めちゃくちゃ綺麗だった。もうコイツが男とかそんなんどーでもいいって思っちまったのが本音で。顔が熱い、恥ずかしい……なんて一人で慌てていたら、何故かツカサの方も慌て出した。


「切島!大丈夫!?」

「えっ?」


ツカサはちょっとごめんと一言告げて、俺の額に手を当ててきた。突然で驚いちまったもんだから硬化が発動して、ツカサの掌に擦り傷を作ってしまった。慌てて謝ったが、そんなんいいから、と一蹴されてしまった。


「……熱はないみたいだね。」

「お、おう……」


俺の顔はそんなに赤くなっていたのだろうか。


「切島、ちゃんと水分摂ってる?」

「え?あ、そ、それは……」


俺が返事をする前にツカサは飲んでいたスポーツドリンクを差し出してきた。


「ほら、これ飲んで。」

「は、はぁ!?い、いや、でも間接……」

「は?乙女かよ。僕等男同士じゃないか。」


以前アイスを食べている時にも同じ会話をしたが、今とあの時じゃ事情が違う。俺の心臓は破裂すんじゃねェかってくらいに高鳴っている。だが、身体はこんなに素直に反応しているのに、俺の心はまだ素直になっちゃくれなくて。


「だっ、ダメだ!」

「は?いや、でも……」

「お、俺、自分で買ってくっから!」

「あっ、切島!?」


俺は全力で走り出してツカサの前から姿を消した。間接キスなんかしちまったらもうそれこそ意識せずにはいられなくなるし、後戻りもできなく…………後戻り?


俺は走る足をピタッと止めた。今、後戻りとか考えてた自分を情けなく感じたから、そして、鉄哲の姿が頭に浮かんだからだ。後戻り、そんなん、あり得ねーだろ。爆豪を救けに行った時もそうだった。常に前だけ見続けて進みゃいい……


少し落ち着いて考えてから、俺は近くの自販機でスポーツドリンクを買って、片手に持って全力でツカサの元へと走った。さっき体調を心配してくれたのに、その厚意を無下にしたことを謝罪しなければ。


「ツカサ!」

「ん?」

「わ、悪ィ。その、気ィ遣ってくれたのに……」

「ああ、いいよ別に。切島って可愛いところあるよね。僕男なのに、ウブって言うかなんていうか。」


ツカサが歯を見せてクスクスと笑った。あまりにも儚く綺麗な笑顔で直視できない。思わず掌で顔を覆ってしまった。


「ッ……や、やっぱ、笑顔が……」


ツカサとつかさの笑顔は瓜二つだ。優柔不断な自分が情けねェ。だが、優柔不断、ということがもう決定的だ。俺はツカサにも少なからず恋愛感情を持ってしまっているのだ。決めきれねェ時点でそんなの明確だったのに、なんでこうも俺は不器用なのか。


一応、ツカサにつかさとの関係をもう一度聞いてみようと思った俺は、自分の両頬を掌で軽く叩き、真っ直ぐツカサを見た。


「あ、あのよ、つかさ……あ、いや、お前じゃなくてよ、飴宮つかさの方な。その、つかさとツカサは……マジで親戚、なんだよな?」


ツカサは目を見開いて言葉を失ったように見えた。けど、すぐにあの儚く消えてしまいそうな笑顔を見せて、ゆっくり口を開いた。


「ねぇ、僕の苗字、知りたい?」

「は?あ、ああ、そういえばそうだな……」


そういえばツカサの苗字を教えてもらったことはない。ツカサは少し俯いて目を閉じ、いつもの少し垂れた目で俺を真っ直ぐ見据えてきた。

「僕はね、飴宮。飴宮ツカサだ。」

「…………は?」


飴宮……ツカサ……?同じ……って、そりゃそうなんじゃねーか?親戚っつーことは、父親同士が兄弟だったり、祖父同士が兄弟でその息子が兄弟だったり……とかなんやかんやで苗字が同じになるなんてことはよくある話だ。


「そりゃそうだよな!」

「……は?」

「いや、だって親戚ってことは同じ苗字だろ!しかしよォ、名前まで同じにするかフツー!?片仮名と平仮名って……なァ?」


ツカサは口をぽかんと開けている。コイツがこんな間抜けなツラ見せんのはめちゃくちゃ珍しい。おーい、と軽く呼びかけてみると、コイツはハッと我に返ったようで、片手で群青色の綺麗な髪をぐしゃっと乱しながら、はぁっと大きなため息を吐いた。


「そうか、そうだったね…………」

「ん?どーしたんだよ?」

「……あのさ、僕とつかさちゃ……いや、つかさが、同じ人間だって言ったら信じる?」

「はぁ?……ぶっ!わははは!おめー冗談とか言うんだな!そりゃ無理があんだろ!」


以前、上鳴も冗談めいて同じことを言っていたが、いくら似ていても同じ人間なんてことはあり得ねーだろ。だってツカサとつかさは、男と女、なのだから。





あれこれ話してたらそういや腹が減ったなっつーことで、帰る前にハンバーガーでも食べて帰ることになった。駅前のハンバーガーショップで向かい合って座り、この夏の学校生活の話をした。俺ばっかり話してっけど、ツカサはうんうんと頷きながらしっかり話を聞いてくれている。


期末の実技試験のせいで補講がありつつもなんとか合宿を乗り越えたとか、合宿中、みんなが危ない中自分は何もできなかったのが悔しくて堪らなかったとか、拐われた爆豪を救けることができたけれど、この話は秘密だぜとか、とにかく話題が尽きなくて。


しかし、本日最後の話題、俺が明日から雄英高校の寮に入るっつー話を始めてから事態は一変した。俺がみんなとの共同生活が楽しみだと語ったら、ツカサはとても優しい顔でクスクスと笑っていた。ストローに口付けてジュースを飲んでいるだけなのに、やたら色っぽく見えちまう。そして、ツカサの唇に目を奪われていたこの瞬間俺が思ったこと。これが衝撃的すぎて、何を考えているんだと驚いた俺は思わず摘んでいたポテトをぽろっと落としてしまった。





優柔不断




ツカサは恋愛にキョーミねーって言ってっけど……キス、とか、したこと、あんのかな……………








back
top