「飴宮 つかさです。中学は千葉県の百葉中、趣味は運動全般です。好きな食べ物は飴です。個性は……
おぉ〜っと歓声が湧き上がった。それもそのはず、教室に入った直後から学科トップの合格者の飴宮つかさは男の子のはずだとの噂でもちきりだったから。実技試験で顔を合わせた人たちも私の自己紹介を聞いて度肝を抜かれたようだった。そりゃそうだろう、自分達が入試の時全く歯が立たなかった男の子が本当は女の子だったなんて誰も思うまい。まぁ身体は男の子だったのだけれど。
自己紹介の後は係や委員会を決めて、山のようにプリントが配布されたり、授業の説明をされたり、話をくどくどと聞かされたり、とにかく退屈な時間を過ごした。けど、その後は軽い体力テストが行われて、それは少し楽しかった。汗だくになってしまったから別の服に着替えたところで時刻は14時を過ぎた頃。今日は一先ず解散になって、私はクラスの二人の女子と連絡先を交換した。スポーツ科だからといってサバサバしたボーイッシュな子だけというわけではない。金髪の女の子が、親交を深めるためにスイーツでも食べに行かないかという話をしてくれて、私と茶髪の子は見事に食いついて、3人で仲良く学校を出た。
そして今はスイーツを貪っている。ビュッフェ形式でたくさんのスイーツを食べながら新しい友達と過ごす時間はとても楽しい。中学の部活やこれから入る部活、好きなスポーツやその選手、私服や個性の話とそれからまだまだ話題は一向に尽きなくて。金髪の子はバレーが得意で、茶髪の子は新体操が得意だとか。二人とも女の子らしいスポーツだなぁなんて少し憧れる。私はみんなの前では運動全般なんて言ったけれど、本当はテコンドーやムエタイ、柔道に空手、総合格闘技が大の得意なのだ。けれど仮にも女の子の身でそんなことを言う勇気はなかった。甘い物でお腹が膨れた頃、茶髪の方の女の子がニコニコしながら口を開いて、ようやく最後の話題が飛び出した。
「ねぇ、二人は彼氏とかいないの?」
「アタシは興味ないわー。飴宮は?」
「私もいないよ。」
「えっ!?つかさ、小さくて可愛いからいると思ったよー!」
「この個性だと私のことをただの女の子って認識するの難しくない?」
金髪の子は確かに、とズバッと賛同した。茶髪の子はなるほどね〜と長い髪をクルクルしている。
「でもでも、彼氏欲しいとか思わないの?ちなみに私は欲しい!」
「うーん、憧れたことはあるけど、どうせなら自分より……男の子の私よりも強い人がいいなって思うかな。」
「それ、かなりハイレベルじゃない?うちの科のトップ合格決めたのって、格闘系の試験で元プロの先生達を気絶させたヤツって話題でもちきりだったし。」
「そ、そうなんだよね……はぁ……まさか気絶しちゃうなんて……」
「いいじゃんいいじゃん!カッコイイ!つかさの男姿、早く見たいなー!」
私の気も知らないで二人ともニコニコしながら私の男姿にあれやこれやと妄想を膨らませていた。体育の授業になったら嫌でも披露することになるんだろうけど。ちなみに女の子の姿でも実力は健在で、同い年くらいの男の子なら一撃でダウンさせられると思う。けど、女の子が暴力的なのは良くないかなっていつも自然と飴を口に入れてしまう癖がついてしまっている。
そんなこんなで適当に話していたら退店の時間がやって来て。ちょうど駅の近くで、全員方向がバラバラだからここで解散することになった。今日は朝から一度も一人になる時間がなかったから、やっと訪れた一人の時間に少しホッとしてしまう。先の二人との時間はとても楽しかったけれど。
駅のホームで電車を待っている間、ふとスマホを見たら中学の時の友達からのメッセージが溜まっていた。みんな新しい学校でそれぞれ友達ができたみたいだ。微笑ましく思っていたら、埼玉に住んでいた時の懐かしい友達からも高校入学お祝いのメッセージが届いていた。どうやらこの子は雄英高校に進学したらしい。あまり勉強とか得意なタイプじゃなかったはずだけど、あの猪突猛進でパワフルな戦闘力で合格を掴み取ったのだろう。なんてスマホを弄っているうちに電車はやって来た。
帰宅ラッシュなのか、乗り込んだ電車は既に満員で。汗臭いし息苦しいし最悪だなと思いながら下を向いていたら、電車が大きく揺れて誰かに足をぎゅっと踏まれた。思わず、痛いっ、と声が漏れてしまった。あと30分余り、この状態なのかと思うと結構しんどいものがある。足を動かそうとするけどびくともしない。どうしたもんか、とりあえず飴を口に入れるか?と思ったけれど、はっと気がついてしまった。朝と違って今の私はスカートを履いている。ここで男の子になるわけにはいかない。
仕方がないと諦めて身を固くしていたら、ちょっとすいません!と大きな声がして足に感じていた重さと痛みがすっと引いた。顔を上げたら今朝も目にした熱血という言葉がピッタリの燃えるような赤い髪の彼、切島くんがいた。まさか彼は私の足のことを気遣ってくれたのだろうか。
長いこと電車に揺られて、自宅の最寄り駅で電車を降りたらまさかの彼も同じ駅で降りてきた。彼はそのまま歩いて行こうとしたから、せめてお礼くらいは言おうと私は彼を呼び止めた。ただ、決して名前は言わないようにしなければと注意して。
「あっ、あの……赤い人!」
「んっ?俺のことか?」
「そう!キミ!あの、電車ではありがとう!私の足、気づいてくれたんでしょ?」
「おー……こーんな太ったおっさんに足踏まれてて、痛そうだなって思ってよ!怪我とかねェか?」
「……へへっ、キミのおかげで大丈夫だったよ!」
彼が両手で太ったおっさんを表す挙動をしたのがとても面白くて、思わず吹き出してしまった。彼も太陽のような笑顔でにかっと笑ってくれた。ちらっと時計を見たらもう格闘の稽古が始まる時間になりかけていて、一刻も早く家に帰らないとまずい時間だったからもう一度口早にお礼を言って、早急にこの場を去った。後ろで切島くんが、おい、ちょっと待てよ!なんて言っていたけど生憎時間に余裕がなくて、私は振り向くことなく走り去ってしまった。
つかさという女
「……ん?おい!ちょっと待てよ!なんか落として……って、めちゃくちゃ足速ェな!」
群青色のフワッとした髪型の小せェ女子が電車で鞄を握り締めて苦虫を噛み潰したような顔をしていた。まさか今朝のようにまた痴漢かと思って近付いたら、力士みてェなおっさんに足を踏まれていただけだった。特に何もなさそうだったからそのまま電車を降りたらその女子に礼を言われた。そして彼女は去り際に今日発行されたばかりの学生証を落として行ってしまった。学生証に記された名前を見て思わずその名前を呟いてしまった。
「飴宮……つかさ……?」