違和感

「おいおい、子どもみたいだぞ。」

「…………」

「切島?」

「……あ!い、いや!え、えっと……」


危ねえ。ツカサに見惚れちまってて何も考えられなくなっちまってた。真っ直ぐツカサの顔が見れねェからキョロキョロ視線を泳がせながらこの綺麗な顔をチラチラと視界に入れていると、コイツは呆れたように肩を竦めて溜息がちに言葉を漏らした。


「切島、今日なんか変だよ。」

「えっ!?そ、そうか!?」

「うん、やけにぼーっとしてるし顔は赤くなるし……なんか病気でももらったんじゃないの?あ、それとも敵の個性の影響とか……」


ツカサが本気で俺を心配してくれてるのが伝わってくる。情けねェ。こんな顔させてェわけねーだろ……俺は、つかさもツカサにも、笑っていて欲しい。もう、変な勘繰りも、誤魔化しも必要ねェはずだ。多分……俺は、つかさも、ツカサも……


やっと真っ直ぐツカサの目を見る勇気が出て、俺はコイツと真っ直ぐ目を合わせて、小さな声でその名を呼んだ。目の前の、憧れの漢の名を。


「ツカサ…………」

「ん?何?」


きょとんとした顔でいつも通りサラッと返事をされた。もうこの整った綺麗な顔を可愛いとさえ感じてしまう。同じ男なのに。俺ははぁっと溜息を吐いて、いつか恋愛相談をした時と同様、軽く指を捏ねながら言葉を続けた。話してーことは山ほどあっけど、一先ず今日言おうと思ってたこと、明日からの入寮のことを話さねーと……


「俺、明日から寮に入っからさ……ツカサ……お前とも、女子の方のつかさとも、登下校できなくなっちまうんだわ……」

「あぁ、うん、確かに。」


またあっさりと返事をされた。俺はこんなにも寂しいと感じてるのに、コイツは何とも思わねェんだろうか。


「……なんか、寂しくね?」

「え?…………まぁ、そうかもね。」

「何だよ今の間は!」

「あはは!そんなムキになんなって!ウソウソ、ま、それなりに寂しいよ……僕、キミのこと結構好きだからさ。」


ツカサはまたしてもストローに潤った唇をつけてジュースを飲み、にっこりと綺麗に笑った。こいつ、本当に、男なのか……?って、それより、今、何つった?俺の聞き間違いじゃなけりゃ、す、好き、っつったか……?


「…………」

「切島?」

「…………!?すっ、す、す、好き!?おわっ!?」


いや、聞き間違いなんかじゃねェ。コイツは確かにそう言った。驚きのあまり、思い切り仰け反って勢い余って椅子ごとひっくり返っちまったが、咄嗟に硬化してなんとか怪我は免れた。意味は違うにしろ同じことを考えてたなんて、とそりゃ驚くに決まってるわけで。ツカサはぽかんと口を開けている。


「……何してんのさ。」

「お、おめーが突然、あ、あんな顔でっ!す、すす、好き、とか言うからだろ!?」

「あんな顔?失敬だな、ただ笑っただけじゃないか。」

「お、おめー、自分の笑顔、鏡で見たことねェのか!?」

「あるわけないだろ気色悪い。キミは鏡の前で笑顔の練習でもしてるの?」

「相変わらずクールだな!……前も言ったけど、笑った顔が似てるっつーか、もう瓜二つなんだよ、ツカサとつかさが……」


ツカサは興味なさげにふーんとだけ返事をして、再びジュースを飲み始めた。コイツは俺を揶揄って遊んでいるのだろうか……いや、そんな奴じゃねェはずだ。ふと、ツカサの顔に目をやるとじとーっとした目で俺を見つめていた、と思えば穏やかに微笑んでくれた。そういえば過去の話を聞いた時、つかさもこんな目でおれを見つめた後、ケタケタ笑ってたっけ。


「……俺、変か?」

「変なんじゃない?少なくとも今日は。」


前言撤回。多分なんかじゃねェ。確実に、だ。


そっから少し話しながらトレーの上のものを平らげて、二人で一緒に帰りの電車に乗った。電車では明日からの生活が楽しみだとか、落ち着いたらつかさを遊びに誘いてェなとか、ツカサも気軽にに遊びに来いとか、まぁ色々話していたらあっという間に最寄駅に着いちまった。電車を降りたとき、ふと思った。明日から、中々会えなくなっちまうのかな、と。つかさも、ツカサにも。なんか声を掛けようと思ってツカサの方を見たら、めちゃくちゃ綺麗な笑顔を向けていて。


「あ、明日から寮生活頑張んなよ。ま、連絡くれたら返事はするし気兼ねなく遊びにでも……ッ!?き、切島!?な、何して……!?」


もう、何も考えられなくなった俺はツカサの言葉が耳に入ったのかもわからないまま、気がついたらコイツを抱き締めていた。


「ね、ねぇ、切島……?」

「……いや、な、何でもねェ!わ、悪ィ!」


ツカサから離れようとしたところで、しかめっ面のツカサにグイッと押し退けられ、そのままやれやれと肩を竦めながら、へらっと笑って言葉をかけてきた。


「今日は楽しかったよ。スポーツのお誘いならいつでも付き合うからさ。」


ツカサはくるりと向きを変えて自分の家へと歩き始めた。名残惜しくて胸を押さえながらそのまま眺めていると、軽く後ろを振り向いてきた。


「……じゃ、またね!」

「お、おう!ま、またデートしような!」

「……何?聞こえないんだけど?」

「……な、何でもねェ!またな!」


デート。そう、今日はデートだったんだ。もう認めるしかない。俺は、つかさもツカサも、好きだ。憧れ、じゃなくて、これはもう、恋…………


自分で言っといて恥ずかしくなっちまった俺は、顔が燃えちまったように熱くなって。恥ずかしくなって俺は向きを変えてそのまま家へと全力疾走したのだった。


そっからは予定通り、俺は雄英高校の寮に入った。みんなで部屋を見せあったり、梅雨ちゃんを泣かせちまったり……って人聞き悪ィな。まぁ、なんだ、初日はそんな感じだったが、それ以降もとにかく皆と楽しく毎日を過ごしている。ヒーロー仮免試験も無事に突破したし、無事に後期は良いスタートを切れたと思う。ただ一つ、つかさと全然会えていない、いや、会えていないどころか連絡もままならないことだけが気掛かりだ。もうすぐインターンも始まっちまうし、一度ぐれェ顔を合わせてェんだけどな……


なんてうじうじ悩みながらも足は自然と隣野高校へ向かっちまう。そして必ず遭遇するのは好きなオンナノコじゃなくて憧れの漢……いや、まぁ、コイツも好きになっちまったんだが……ともかく、男のツカサなわけで。


とりあえずもうすぐインターンに行くことを告げたのだが、どこかボーッとしている様子だった。ちゃんと聞いてんのか?と声をかけるとまたしても綺麗な笑顔を浮かべて、聞いてる聞いてると答えてきた。この笑顔、もはや反則だ。しかし、今目の前にいるのはツカサなのに、俺の恋心の半分はつかさが占めているからか、頭の中を二人の顔が支配する。


俺は今回のインターンが終わったら、きちんと俺の気持ちに区切りをつけようと思う。ぶっちゃけ、男のツカサにドキドキしちまうのが恋ってのはまだ受け入れ切れてねェ部分がある。やっぱり、男としては女子を好きになるはずだろっつー固定観念みてーなもんがあって。しかし、上鳴は俺と同様だが、やっぱ鉄哲は一味違うっつーか、男とか女とか気にすんなって最近はそんなアドバイスばかりしてくる。やっぱつかさとツカサは親戚以上のなんらかの関係があんのかな、なんて違和感を持ったりしちまうわけで。


はぁ……つかさ……今頃何してんのかな……






違和感




好きな気持ちは認めたけれど、納得はできなくて。

つかさに会いさえすりゃこの違和感の正体がはっきりする気がするんだが……

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