『大丈夫。キミは強いよ。僕はキミで、キミは僕なんだから。』
そう。私はつかさ。飴宮つかさ。大丈夫。きっと、大丈夫。心を鎮めながら、再び、どんぶらこどんぶらこ、という効果音と共に運ばれながらステージへと移動した。
物語は滞りなく進んでいく。観客達はステージの上の私達に釘付けだ。でも、私達は演技だけに集中できない、というのも頭上の照明が気になるからで。担任の先生が垂れ幕の陰でじーっと天井を見つめているのがわかって、ひとまず先生がいてくれることに安堵しながら私は主人公を演じ続け、気がつけばシーンは鬼ヶ島……もとい、虫歯島。虫歯菌を模した黒い全身タイツの男の子達が私と仲間達の前に立ち塞がった。
「虫歯菌達め!覚悟しろ!キャンディキック!」
「ぐわぁ!」
「よくも仲間を!おのれ飴太郎!虫歯光線!」
「うわっ!えいっ!キャンディパンチ!」
「やーらーれーたー!」
私が虫歯菌役の男の子達をばったばったと倒していくと、観客席から子どもがきゃーきゃー騒ぐ声が聞こえた。楽しんでくれているなら良いのだが、と思ったと同時にフッとステージが少し暗くなってしまった。チラッと上を見上げると例の照明がとうとう機能を果たさなくなってしまったようで。まだ、私が村に帰って住人達に迎えられるシーンが残っている。ひとまず一旦背景のセットを替えるために全ての照明を落とした。その間に、出番を終えた虫歯菌役の男の子達が急いで先生を呼びに行ったり点検作業を開始しようとしてくれたのだけれども。
ガタン!!
と、大きな音が響いた。なんとなく感じた。遅かれ早かれ、この照明は落ちる、と。
周りの男子達と話し合って、これから観客を避難させた方がいいという結論に至った。アナウンス係の男子が器具の点検の為に一旦全員体育館から出るようにと放送してくれた。観客達はざわつきながらもぞろぞろと体育館の出口へと歩き出した。
最前列の鋭ちゃんとてっちゃんは左右に分かれて一番最後の列の一番後ろに並んでいた。彼等が出れば観客を全員無事に避難させたことになる。でも、鋭ちゃんのいる位置がなんとなく暗いことに気がついた。視線を頭上に上げてみると、私達の注視していた照明とは別の照明が点いていないことに気がついた。第3回の公演では最前列の照明しか使っていなかったから誰も気がつかなかったのだろう。しかも、その照明はもう外れかかっているのがここから見てとれた。まずいと思った私はステージを降りて彼等の方へと走ったのだけれど。
ガタン!!
前方から大きな音が聞こえた。鋭ちゃんが危ない、そう思ったと同時に私は腰に付いている飴袋とは別の、ポケットにある飴袋に手を入れて適当に握りしめたとても小さな飴を口の中に放り込んだ。魔法の時間の始まりだ。
「切島!!上!!」
「ツカサ!?なんでつかさの……っ!?おわっ!?」
「っ……!間に合えっ!」
切島の方へ思いっきり跳んで二人でもつれ合いながら転んだら、つい先程まで切島が並んでいたところのすぐ横に照明が落ちてきた。と、同時に背後からも大きな音がした。ステージ付近の例の照明も落ちて来たのだろう。もしもこれが誰かの上に落ちていたら、なんて思うとぞっとする。とにかく、まずは目の前の彼だ。怪我はないかと確認しようとしたけれど、僕の下でモゾモゾと動く彼を見て思わず、あっ、と声を漏らしてしまった。
「ッ……!痛って〜……おい、ツカサ!!大丈夫か!?」
「そうだよ……キミの個性……硬化じゃん……余計な心配だったよ……」
「な、なぁ、ツカサ、お、お前の個性って……」
「あ……」
「ん?……いや、この場合……!?まさか……まさか、お前……じょ、女子の方の……つかさ……?」
言う前にバレちゃった……
なんて放心していると、ドクンと心臓が大きく跳ねた。うっ、と呻いて胸をおさえて、全身に走る違和感をグッと堪える。まずい、女の姿に戻ってしまう、と思って飴袋に手を入れようとしたけれど、金縛りにあってしまったかのように身体はピタッと動かない、と同時に、胸の奥と頭にきんっと彼女の声が響いた。
『もう大丈夫。ちゃんと話すから。ツカサ、ありがとう。』
そうか……うん、そうだったね……
前を向くって、あんなに強く、想っていたじゃないか。
余計なお節介だったな……
僕はゆっくり、目を閉じた。
沈黙の数秒後、ぱちっと目を開けたら、とても心配そうに私の顔を覗き込む鋭ちゃんがいた。鋭ちゃんには、ちゃんと自分で言いたかったのに……と悔しい気持ちでいっぱいになった。けれどすぐにハッとした。クラスのみんなは!?と大きな声で尋ねたら、背後からてっちゃんの大きな声が聞こえた。
「っぶねぇなオイ!!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
「てっちゃん!!」
「おう!!こっちは大丈夫だ!!」
遠くからてっちゃんが叫んでいる。どうやら彼は避難中に、ステージにいるはずの私の様子をチラッと窺った際、頭上の例の照明が落ちかかっているのに気がついて猛ダッシュで私のクラスメイトにそれを伝えに行こうとしたら、丁度それが落ちてきてしまったとかで。幸いステージから全員離れていて、彼は個性で身を守って誰も怪我をせずに済んだようだ。
「はぁ……良かった……」
「……な、なぁ、つかさ……お前は、その、お、男、なのか?」
ほっとしたのも束の間。最大の問題が降りかかって来た。それは、私の、いや、私達の正体。
「私は、女の子だよ……」
「じゃ、じゃあ、ツカサが、お、女……?」
「ううん、違うよ……私の個性は……
「つ、つまり、つかさとツカサは……!?」
「うん……ずっと、騙……」
「す、すげぇ!!そ、そうだったのか!!」
「……えっ?」
ずっと騙しててごめん、そう言おうとしたのに鋭ちゃんは私の両手をガシッと掴んで目をキラキラが輝かせながら捲し立てるように喋り始めた。
「いや、さっき飛び出して救けに来てくれただろ!?つかさは女の子だけどよ、ありゃ完璧な漢だったぜ!!あ、俺、初めて見た時からツカサに憧れてたんだけどよ、そーか、つかさとツカサが……あ、だから笑顔が似てんだな!つーか同じ人間だったら、っつーやつ、アレ、マジだったんだな!?悪ィ!俺、笑って流しちまって……!!」
「じょ、情報量が……」
「……うわっ!悪ィ!手ッ、手ェ、に、握っ……!!」
「……ぷっ、くくっ……」
「……えっ?」
「……あははははは!!」
「お、おい!!どーしたんだ!?」
ダメだ、面白すぎる。こんなに長い間、この個性と鋭ちゃんとのことで悩んでいたのに。彼にとってはそんなことどうでも良かったんだ。やっぱり、彼は私のヒーローなんだ。私の正体を知ってもなお、全く態度を変えることなく、いや、むしろ目を輝かせながら前のめりになって話しかけてくるどころか、謝ってくるなんて。謝るのは私の方だと言うのに。全く、なんて懐の広い、そして、笑顔の似合う……まるでなんてもんじゃない、彼はそう、太陽だ。燃え上がる太陽のように真っ赤なヒーロー……なんて、かっこいいヒーローなんだろう……
「私、貴方を好きになって良かった……」
「……えっ?」
「あっ……」
「じょ、情報量が……」
どさっ
「え、鋭ちゃん!?ちょっと!!しっかりして!!」
私達の正体
「つかさはツカサ……ツカサと俺は……俺とつかさは……お、俺の憧れの漢は……オンナ、ノコ……う、うーん……」
「え、鋭ちゃん!しっかり!」
「……おい!大丈夫か!?……ん?切島、個性使わなかったのか?」
「い、いや、個性は使ったんだけど……いや、わ、私も使って、それで……」
「……!!バレたのか!?そ、それで気絶したのか!?」
「じょ、情報量が……」