重なる想い

「……うおおおっ!!」

「わぁ!!び、びっくりした……」

「切島!大丈夫か!?」


あの後、気絶してしまった鋭ちゃんをてっちゃんが背負って保健室へ運んでくれた。私は一旦ステージへ戻り、後片付けをして、クラスでのショートホームルームを終えて保健室へ駆け込んだ。彼の顔を見た直後、彼は叫んで起き上がったものだから私は驚いて跳び上がってしまった。鋭ちゃんはぼーっとした様子だったけれど、目を細めてじーっと私の顔を見つめてきた。


「…………!!ツカサ!さっきは……いや、つかさ……あー!!紛らわしい!!二人とも、さっきは助けてくれてありがとな!!」

「ど、どういたしまして……」

「……あ、俺ちょっと帰りが遅れるって拳藤に連絡入れてくるわ。えーとそっちの……飯田か八百万にも伝えとくよう言っとくぜ。」

「悪い、鉄哲、頼むわ。」


てっちゃんは私の頭にぽんっと手を置いてから保健室を出て行った。こういう時、シーンと気まずい雰囲気になるのが普通だろうけれど、男気溢れる真っ赤なヒーローにとっての普通とはそうではないのだ。


「なぁ!!俺、すっげェ驚いた!!」

「あ、っと、何に?」

「俺の憧れの漢は男でもあって、女でもあったっつーことにだよ!!すげェ個性だ!!めちゃくちゃかっけェよ!!」

「か、かっこいい?」

「ああ!だってさっきみたいに、なんかこう、危ねえ時とか身を守る時とかは男になってさ、それに便利じゃねーか!例えば男風呂が壊れてたら女風呂に入ればいいし、その逆もだし……!」

「ふ、風呂って…………ぷっ!あははははは!!」

「な、なんで笑うんだよ!」


どうして黙ってたんだとか、騙してたのかとか、そんなことは微塵も思っていないようで。両手をぐっと握りしめて、まるで憧れのヒーローを目の前にした少年のようにキラキラと目を輝かせている。ギザギザした白い歯もとても眩しくて、この素敵な笑顔が堪らなく愛おしいと感じてしまう。


「……ね、鋭ちゃん。」

「ん?何だ?」

「私、キミのこと、好きだよ。」

「あ、ああ!ありがとな!俺も、その、好きだぜ!男とか女とか関係ねーよ、俺はおめェのことが好きだ!うん!」


きっと、『好き』の意味を履き違えているであろう彼に、きちんと伝わるようにもう一度。


「鋭ちゃん、貴方は私のヒーローだと思うの。かっこよくて逞しくてまっすぐなところに憧れてて、ヒーローとしても、一人の男の子としても、貴方のことが、好きなの。」

「…………えっ?」

「前に、言ったよね。ちゃんと考える、って。私、もっと鋭ちゃんに私の、私達のこと、知って欲しい。」

「……お、おう!え、っと、じゃあ……」

「……う、うん、そういうこと、になるの、かな?」


恋愛ごとに関しては流石の真っ赤なヒーローもタジタジしてしまうようで。かと言ってまだ私にもそこまでの勇気は出せなくて。心の中でごめん!と謝りながら、私はポケットから出した飴を口にした。魔法の時間の始まりだ。


「……切島さぁ、男なんだからキミから言ってやんなよ。」

「……えっ!?はっ!?ツカサ!?ど、どこから……」

「言ったでしょ、飴食べたら変身しちゃうって。あ、メカニズムは説明しないよ。面倒だし。」

「あ、ああ……」

「で?どうしたいの?」

「えっ?あ……あ、いや、そ、その……」


切島の顔色が燃え上がったように真っ赤になってしまった。そして指まで捏ね始めた。恋するオトコ、再びってか。全く、つかさはオンナノコなんだからキミが引っ張ってやれよ、なんて思った僕はぐいっと彼のネクタイを引っ張ってやった。顔と顔が目と鼻の先。


「で?どーすんの?つかさと付き合いたいんでしょ?」

「あ、う、はい。」

「んじゃ、男のキミからビシッと言ってやんなよ。俺と付き合おうぜ!って。いつもの笑顔で元気に言えばいいよ、断られないんだから。」

「…………あ、あのよ、その場合、お、俺らってさ……」

「ん?」

「……こ、ここ、恋人、に、なんの、か?」

「…………バ、バカじゃないの!?あはははは!!キ、キミ、面白すぎ……!!」


何を言い出すのかと思えば。毎度毎度僕をこんなに笑わせてくれる。腹を抱えて僕が笑っていると、彼は急に真面目な顔になって、今度は僕の着ている服の胸元をグイッと引っ張ってきた。


「しゃ、しゃーねーだろ!!男とか女とか関係なく、好きになっちまったんだよ!!」

「……それ、つかさに言ってやってよ。」

「お、お前にも言いたかったんだよ!ちゃんと言うよ!」

「ふーん……ぐっ……そ、そろそろ戻るから、手、離したほうがいいよ。」


口にした飴玉が小さかったからだろうか、もう身体に違和感が生じてきて。あ、切島は知らないだろうけど、僕等は記憶だけは共有してるんだよね。ごめんつかさ、かなり恥ずかしいだろうけど、ここはキミがやり過ごしてね。僕はゆっくり目を閉じた。





ぱちっと目を開けると、目と鼻の先に大好きな彼の顔があった。ひぃっ!と叫んで顔を後ろに引いたら勢い余って丸椅子から滑り落ちてしまって尻餅をつきかけた。つきかけただけで、両手で反動をつけてしっかり立ち上がったのだけれど。


「さ、流石首席だな……」

「……あ、ありがとう?」

「……な、なぁ、つかさ、その、俺の話、聞いてくれっか?」

「え?う、うん、もちろん。」


本当はツカサの中から聞いていたのだけれど、そんなことを言うのは野暮だろう。私は丸椅子に座り直して、彼の目を見つめた。


「あのな、俺の好きなヒーローの言葉でこんな言葉があるわけよ。『心に漢気さえあれば誰もが皆ヒーローよ!』っつってな。」

「……?う、うん。」

「要するに、だ。男とか女とか関係ねーってことで……」

「うん。」


鋭ちゃんは咳払いをして、よし、と呟くと、私の両手を包み込むように、彼の大きな掌でギュウッと握ってきた。


「……俺の、憧れの漢はオンナノコだった。でも、男とか女とか関係ねー。俺は、心に漢気を持つ、女のつかさも男のツカサも、どっちも好きだ!」

「……私、貴方のこと、騙してたんだよ?」

「俺は騙されたなんて思っちゃいねーよ!だから騙されてねェ!」

「……隠し事、してたんだよ。」

「俺にだって人に言えない秘密くらいあらァ!例えば最後におねしょした年齢だろ?それからプールにパンツ持って行き忘れちまってパンツ履かねェで帰ったこともあるし、それから……」

「ぶっ!ノ、ノーパンは……ぶふっ!あははははは!!」


我慢できなくて大笑いしてしまった。真面目に話しているときに悪かったかなと思ったけれど、私の考えに反して鋭ちゃんはいつもの燦然と輝く太陽のような笑顔を向けていてくれた。


「俺、つかさとツカサの、その、儚い笑顔も良いなって思うんだけどよ、そんな風に、楽しそうに笑って欲しいんだ。俺、ずっとおめェらの笑顔守れるようなヒーローになっから!だから、その、俺と、つ、つつ、つき、付き合ってくれ!!」


鋭ちゃんが勇気を出して、付き合ってくれ、と言ってれたその瞬間、保健室のドアが勢いよく開いた。


「切島!!ヤベェぞ!!インターン補講組がこれから抜き打ちのテストらしい!!八百万通して拳藤から俺に、お前に急いで伝えろって連絡が来た!!」

「…………な、なにィ!?……うおっ!!緑谷から鬼電!!ヤ、ヤベェ!!早く帰らねェと……あっ、つかさ、えっと、その……」


慌てるてっちゃんの話しぶりからすぐに話の内容は頭に入った。返事をしなきゃとは思ったけれど、やはり高校生たるもの学業は何よりも大事なわけで。私はなけなしの勇気を振り絞って彼に約束を取り付けた。


「……今度、雄英の文化祭が終わったらデートしようよ。お返事はその時に、ね。」

「……!!お、おお!また連絡する!あ、今日、楽しかったぜ!んじゃ!」

「俺も楽しかったぜ!つかさ、じゃあな!」

「ん、てっちゃん、ありがと。二人とも、気をつけて帰ってね。」


二人は慌てて保健室を飛び出して、どっちが先に雄英に着くか競争だ!!と廊下中に響く大声で叫びながらドタバタと走り去って行った。


一人残された私はというと、やっと想いが重なったことに思わず頬が緩んでしまって、ふと鏡を見るとツカサそっくりな笑顔で穏やかに笑う自分がいたのだった。





重なる想い




早く雄英の文化祭、終わらないかな……

今バイバイしたばっかりなのに、もう会いたいよ……





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