憧れの漢はオンナノコ

先週、雄英高校の文化祭は無事に終了したらしい。一般公開はかなり厳しめの制限があったみたいで私は大人しく家でのんびり過ごしていたけれど。


さて、今日はついに鋭ちゃんとのデートの日。折角だから可愛いスカートやひらひらしたブラウスを着てみたくはある。だけど、もしも個性を使ったらということを考えると自然にボーイッシュな服に手が伸びてしまう。けれど、きんっと頭が痛んで聞こえないはずの彼の声が聞こえてきて。


『僕のことは気にしなくていいから女の子らしい格好しなよ。折角両想いになったんだから。』


「……いいのかなあ。」


ぼそっと呟きながらもお言葉に甘えて数少ない可愛らしい服に手を伸ばした。黒のゆったりめのトップスにギンガムチェックのスカート、それから檸檬色のカーディガンを羽織って私は軽い足取りで家を出た。早く、早く彼に会いたい。





待ち合わせは街のショッピングモールのタピオカドリンク店。今日は新作が出る日で、ずっと前から心待ちにしていた。折角だから一緒に行かないかと誘ったら彼はとても楽しみにしていると返事をしてくれた。


さて、待ち合わせ場所に先に着いてしまったわけだけれど。電車の時間的に彼ももうこの周辺にいるはずだ。お店の入り口横に立って、適当にスマホを弄っていると突然私の前を歩いていた恰幅の良いオジサンがつんのめりになり地面に顔面からぶつかってしまった。何もないところで転ぶなんて鈍い人だな、なんて思っていたら、起き上がったオジサンはキッと私の方を睨みつけた。


「おいテメェ!今のわざとだろ!」

「はい?私は何も……」

「とぼけんじゃねぇ!今俺に向かって足だしただろーが!」

「えぇ……」


なるほど、自分が何もないところで転んだのを認めたくないわけか。しかし、確か半年くらい前もここでこんな騒ぎがあったなぁ。チラッと目線を上げてみたけれどやはり誰も救けに入る気配はない。なんて冷たい街並みなんだ。仕方ないと思った私は再び飴を口に入れてみるみる男の子の姿に変身……する前に、手元の飴は誰かにひょいっと奪われてしまった。えっ、と目線を上げると、燃えるような赤が私とオジサンの間に。


「おい!自分が一人で転んだのをこの子のせいにすんなよ!」

「あぁ!?ンだテメェは!!……げっ!た、確かテメェは……ゆ、雄英の!烈怒頼雄斗レッドライオット!」


彼は勇敢にも怖そうなオジサンに全く気後れせず正面から向き合った。オジサンは鋭ちゃんの胸ぐらを掴もうとしたけれど、彼はその手首をガシッと掴んでそれを阻止した。


「暴力はよくねーって……お。おいオッサン!これでも食って落ち着け!」

「飴……?バ、バカにしてんのか!?コラァ!」

「悪ィ!」

「んぐっ!?」


悪い、の言葉とともに彼は私から奪い取った飴を掌に乗せて、オジサンの口元を掌で覆うようにしてガバッと飴を口に運んだ。オジサンは3秒も立たないうちにその場に膝から崩れ落ちそうになり、彼はそれをしっかりと支え、その辺の木にオジサンを凭れさせた。それから彼はニコニコしながらこちらに駆け寄って来た。


「悪ィ!待たせちまった上に飴を拝借しちまって……」

「いや、いいよ、沢山あるし。それより、立派なヒーローだねぇ、見直……惚れ直したよ。」

「……ほ、惚れ……!?は!?えっ、いや、あの……」

「喉渇いちゃったから早くお店入ろうよ。私、二階席がいいな。」

「……な、なんかツカサに似てきてねェか?」

「ツカサが私に似てるんじゃない?さ、早く行こうよ。」


彼の手をぐいっと引いてお店の中に入り、新発売のタピオカドリンクとホットサンドのセットを2つ注文して、お店の階段を登った。向かい合って席に着くと、彼はじぃっと私の目を見つめてきた。太陽光が集まると黒い紙が煙を上げて燃え出すように、私の黒い服からも煙が出てしまうのではなかろうか、なんて思ってしまう。全く、せっかちさんなんだから……


「……好きだよ、鋭ちゃんのこと。」

「……!?えっ!?」

「好き、大好き。切島鋭児郎が、好き。ごめんね、回り道ばっかりで。でも、好きになっちゃった。」

「お、お、おう……そ、その、お、俺も、好きだ!飴宮つかさ、さん!俺と、つ、つつ、つ、付き合ってくれ!!」

「……鋭ちゃんが、いいなら。」


鋭ちゃんの顔はまるで火がついたかのようにぼっと赤くなってしまった。なんだか私も顔が熱い気がする。いただきます、と小さく声に出してから、誤魔化すように新作ドリンクを口にして、ホットサンドを口へ運んだ。彼はハッと何か思いついたのか、顎に手を当ててうーんと首を傾げ始めた。


「……な、なァ、つかさ。」

「うん?」

「そ、その、俺って、か、か、彼氏、でいい、んだよな?」

「えっ?う、うん……そう、だよ。」

「……ツカサは、俺の彼氏、なのか?」

「……ぷっ!あはははは!げほっ、わ、笑わせないでよ!あはははは!」

「おい!俺結構マジで悩んでたんだぞ!わ、笑うなよー!」


急に真面目な顔になって、突然何を言い出すのやら、危うく口から色々出てしまうところだった。以前、ツカサに同じことを言ったのを忘れてしまっているのだろうか。彼は一度咳払いをすると、一口飲み物を飲んでからもう一度私の目を真っ直ぐ見据えた。


「俺、男とか女とかそんなん関係なく、つかさのことが、好きだ。同じクラスの女子とか男子の友達もみんな好きだけどよ、つかさと……もう一人のツカサは、みんなとは違う好きだ。」

「うん……」

「心に漢気があれば、個性も、性別も、そんなの関係ねェ……俺の憧れの漢は……すっげェかっけェ男で、すっげェ可愛いオンナノコだった!そんだけだ!」

「……ありがとう。私、貴方に出会えて、貴方を好きになって良かった……」

「おう!俺も!ははっ、や、やっぱ恥ずかしーな……おっ、このホットサンド、照り焼きチキン入ってんぞ!」


鋭ちゃんは誤魔化すようにホットサンドをぱくりと齧った。以前、肉が好きだと言ってたっけ、照り焼きチキンが入っていることがかなり嬉しかったようで、口を大きく開けてホットサンドを食べ始めた。話もひとまず落ち着いたかな、と私もホットサンドを食べ始めた。暫く無言に支配され、恥ずかしさを感じたままずっと下を向いて食事を続けていたのだけれど、何となく目線を上げたらやはりじーっと見られていて。ぱちりと目があった瞬間彼の顔は再び火がついたように真っ赤になり、私もかぁっと熱が集まったのがわかった。


「……つかさ。」

「うん?」

「やっぱ可愛いなぁ……好きだ……」

「ぶっ!ごほっ!な、何、いきなり!?」

「いや、ずっと思ってたんだけどよ、まさか憧れのオンナノコと両想いになれる日が来るなんてなぁ……」

「そ、そうですか……鋭ちゃんも、かっこいいよ。さっきもすっごくかっこよかった。」

「そ、そうか……あ、ありがとう……」


また、沈黙に包まれてしまった。そのまま無言で同時に立ち上がり、後片付けをして階段を降りて、お店の外に出た。もう冬も近いからか、少し肌寒く感じる。ふと隣を見上げたら真っ赤なヒーローはギザギザの白い歯を見せてニッと笑った。空に浮かぶ太陽よりも眩しい、燦然と輝く素敵な笑顔。あぁ、好きだなぁ……と、つられて私も笑ったら、彼は口を開けて、硬化の個性を発動させていないのにピシッと固まってしまっていた。





憧れの漢はオンナノコ




「え、鋭ちゃん?おーい……」

「な、なんつー綺麗な笑顔なんだ……」

「……えっ?」

「二人してそんな笑顔浮かべんの反則だろ……」

「あははっ、変なの。いつもと変わんないでしょ。」

「……おう、いつも通り、大好きだぜ!」

「もう……ほら、デートするんでしょ?行くよ?」



好きな男の子との、憧れのオトコノコと恋人同士になってからの初デート。さぁ、魔法の時間の始まりだ。








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